ジーコが語るカタールW杯。森保一監督に「どうしても伝えたかったこと」とは?
元日本代表監督が語るカタールW杯(1)〜ジーコ
カタールW杯まであとわずか。3人の外国人元日本代表監督が、今回のW杯と日本代表について語ってくれた。第1回は2002年から2006年にかけて日本代表監督を務め、ドイツW杯を戦ったジーコが、ふたつの「我が代表」、日本とブラジルにエールを送る。
――最近の日本代表については、どのくらいご存知ですか?
「正直に言うと、日本代表から、私は少しばかり遠ざかっていた。ここ数年、私は鹿島アントラーズの人間だったので、まずはアントラーズのことを考える必要があったからだ。だからプロフェッショナルの眼で日本代表を追ってはいない。
6月に行なわれた日本対ブラジルの親善試合の日も、私はちょうどブラジルに帰国する飛行機に乗っていたので、ライブでは見ることができなかった。のちにダイジェストの動画を見はしたが、それだけで今の日本代表について語るには不十分だろう」
――最後に見た日本代表の試合は?
「私が直近で日本代表の試合をきちんと見たのは、カタールW杯のアジア二次予選だ。ただ、そこではいわゆるアジアの強豪とは対戦しておらず、日本が10点以上を決める試合さえあった。レベルの差はあからさまで、彼らは日本の敵ではなかった。だから本当に詳しい分析はできないが、フィジカルのポテンシャルと集中力のあるいいチームだとは感じた。
ポジショニングがすばらしく、必要な時にはピッチのどこにでも選手がいるし、選手個々のチームへの貢献度も高かった。しかし、それだけで日本がW杯でどんな戦いをするかを予測することはできない。足りないデータをもとにいい加減なことは言いたくはない」
2002年から2006年にかけて日本代表監督を務めたジーコ photo by Fujita Masato
――森保一日本代表監督は知っていますか。
「森保監督の仕事のやり方を私は好きだよ。ここ最近の日本人監督の中でもトップクラスなのは間違いないだろう。かつては優秀な選手でもあり、サッカーの知識も豊富だ。私の現役時代はサンフレッチェ広島でプレーしていたので、私たちは何度も対戦した。ボールを持った時がすばらしく、ピッチの外では紳士だった。当時から私は彼のことは高く評価していたが、今はあの頃以上にリスペクトしている。代表監督という今のポジションは彼にふさわしいものであろう。
決勝トーナメントに進出しても不思議に思わない少し前に、彼が鹿島の試合を見に来た時、再会を果たし、言葉をかわした。私がW杯に話を向けると、彼はドイツやスペインを向こうにして戦わなければいけないことを、冗談まじりにこぼしていた。私は彼に言った。『だからといって決して怖気づいてはいけない。誰もがドイツやスペインが強いと知っているからこそ、人々を驚かせることができるのだ』と。
たとえば2018年のロシアW杯では、韓国がドイツに勝利し、結果的にドイツを敗退させたではないか。サッカーはピッチの外にいる者の予想どおりにはいかないものだ。勝敗はピッチのなかで決まるもの。そしてピッチのなかには11人と11人しかいない。状況は五分と五分。何が起こってもおかしくない。
日本人の精神力の強さはこんな時に大きな力を発揮する。だから森保監督は何も臆することなく、自分はいいチームを持っていること、ポテンシャルの高い選手がいることに自信を持つべきだ。そして『フィジカルと、何よりも精神面を鍛え、選手たちを信じることが大事だ』と伝えた。
もちろん私が言わなくても、彼には重々承知のことだろう。彼が戦い抜くだけの賢明さを持ちあわせていることはわかっている。でも、そう言わずにはいられなかったんだ。
カタールで彼がインパクトのある仕事を成し遂げると信じている。日本が決勝トーナメントにコマを進めても、私は何の不思議にも思わないだろう。選手もコーチもそれだけのスキルを十分に持っているのだから。何より私は日本の一サポーターとして、日本代表の活躍を信じている」
――では、カタールW杯に挑むブラジル代表はどうでしょうか。
「もうひとつの我が代表、ブラジルについても私はかなり期待している。長いこと、中傷と倦怠という病気にかかっていたセレソンだが、東京オリンピックを境に息を吹き返した気がする。若手の選手たちが東京でブレイクする様子は、我々に大きな衝撃を与えてくれた。まるで蝶がさなぎから孵るのを見るかのようだった。そして大会後、A代表に入った彼らは、セレソンを変えていった。
ヴィニシウスは最近一番印象に残ったカタールW杯でのブラジルがどうなるかを簡単に言うことはできない。優秀な選手が多すぎて、いったいどんなチームが出来上がるかもわからないからだ。だが、ドイツ、アルゼンチン、フランスも強いだろうが、やはり何よりブラジルはいいプレーを見せると思う。いい監督に率いられ、違いを見せられる選手たちが大勢いるし、何よりチームで見せるプレーがすばらしい。大会直前のキャンプでもう少しブラッシュアップすることができれば、ブラジルは最大の優勝候補のひとつとなるだろう」
――セレソンの誰に期待していますか。
「頭角を現してきた若手はみなすばらしいが、特に私が期待するのはヴィニシウス・ジュニオールだ。常にバランス感覚に優れ、たったひとりでも、仲間とともにでも攻め上がり、敵を危険に陥れることができる。ここ最近で一番印象に残る選手だ。もちろん他にも新たな世界のスターになれそうな候補はたくさんいる。ラフィーニャ、ロドリゴ、リシャルリソン。つまり、今回のブラジルは才能の宝庫だ。
ネイマールについても、私は非常に楽観的だ。混乱と批判の時代を終わらせ、ついに本物になった気がする。ここ数カ月の彼は集中力が高く、人の記憶に残るサッカーをしていると思う。多くのアシストをし、なにより彼のトレードマークである美しいシュートを決めている。このW杯が、自分が後世までに名を残すレジェンドになるかどうかの正念場であることを、彼も十分自覚しているようだ。
今後も彼がピッチで褒めそやされるような活躍ができるように、切に願っている。彼を愛する人のためにも、ブラジルのサポーターのためにも、そしてネイマール自身のためにも。ネイマールは私の友人であり、偉大な人間であり選手だ。W杯期間中、そしてその後も、彼が長らく人々の拍手に包まれることを心から祈っている」