福森晃斗が選ぶ Jリーグ歴代フリーキッカーランキング

直接FKでゴールを狙う場面は、サッカーのひとつの見せ場である。このシーンにおいてJリーグで度々注目を集めているのが、北海道コンサドーレ札幌の福森晃斗だ。今回はその福森選手自身に、Jリーグの歴代フリーキッカーのトップ10を選んでもらった。

◆ ◆ ◆


リーグトップクラスのフリーキッカー、福森晃斗がトップ10を選んだ

「こんなのもあるんだ!」というFK

10位/エディ・ボスナー(元ジェフユナイテッド千葉、清水エスパルスほか)

 ボスナーさんは清水エスパルスでプレーしている時に初めて見たんですが、それまでカーブで巻いて蹴るFKしか見てこなかったので、強烈なストレート系のFKを見て「こんなのもあるんだ!」と衝撃を受けました。

 僕もあのキックにずっと憧れていて、2019年のアウェーの清水戦で距離はちょっと近かったですけど、思いっきりストレートで蹴って決めたことがあります。正直、今はもうストレート系は蹴れないですね。

 距離が遠かったり、中途半端な距離だったりした時に、どうしたらいいかと悩むことがあるんですけど、ストレート系のキックを持っていると、どんな距離でも射程圏内なので便利なんですよね。

 遠目の位置から壁とかGKとか関係なく、爆発的なキックでゴールネットに突き刺すボスナーさんの姿は、みんな憧れたと思います。

9位/三浦淳寛(元横浜フリューゲルス、横浜F・マリノスほか)

 三浦さんは無回転のボールが印象的で、Jリーグのなかで無回転ボールの元祖のような存在だったと思います。それ以外にも巻いたボールや、多彩なキックを持っていた印象があります。

 無回転ボールが蹴れることで、距離に関係なくゴールを狙えるのは、フリーキッカーとして優れていると思っています。

 三浦さんのキックは助走を真っすぐに入るタイプだったので、斜めに入る僕とは違っていて参考にしたくてもできないところがありました。助走で真っ直ぐ入って蹴るためには、内転筋の柔らかさと強さがなければできないんですよね。

 縦に落ちるようなキックも得意だったと思うんですけど、あれも三浦さんの内転筋の強さがあってできたキックだったと思います。

8位/中村憲剛(元川崎フロンターレ)

 憲剛さんのFKは、落ちるボールも蹴れるし、距離によっては巻いて落としたり、スピードを上げたり、すごく柔軟に蹴り分けられるんですよね。それを川崎時代に生で見ていたので、よりそのすごさを感じることができました。

 キックの多彩さよりすごかったのは、精度の高さです。壁は関係ないんじゃないかと思わせるくらいの精度があって、間近で見て学んでいました。憲剛さんはガニ股で股関節の開きが特殊なので、キック自体はマネようと思ってもできるものではなかったです。

 川崎時代に移籍を悩んでいる時に憲剛さんに相談させてもらって、「川崎で100%の実力を出して出られないのなら移籍という選択はいいと思う。でもなにもせずに移籍するのはただの逃げになるんじゃない?」と言われたのが、今でも心に残っています。

 その言葉があってもう1年残って、ベンチに入ることができたり、最終節のヴィッセル神戸戦で先発出場できたんですよね。あの経験は今にもつながっていると思います。

「なに言ってるんだろう?」という蹴り方

7位/岩本輝雄(元ベルマーレ平塚、ベガルタ仙台ほか)

 岩本さんも、遠い距離からのストレート系のキックが印象的ですよね。個人的には巻いて決めるゴールは芸術だと思いますけど、ネットに突き刺さるようなゴールは、自分には想像もつかないので憧れてしまいます。

 ボスナーさんもそうですが、自分にできないキックを蹴れる選手に憧れることが多くて、岩本さんもそういった意味で選ばせていただきました。

 岩本さんのキックはストレートのなかでも地を這うように伸びて、下からホップしていくような質で飛んでいくイメージがあります。ああいったボールでしっかりとゴール枠を捉えられるのは、ものすごい技術やセンスだと思います。

 普通ならあれだけ強く叩くと、距離があった場合は枠を越えていく場合が多いんですけど、そこで枠を捉えながら四隅に蹴ることができるのは特別ですね。

6位/マテウス・カストロ(名古屋グランパス)

 マテウス選手がすごいのは、やっぱり無回転のキックですね。キッカーと壁の距離は9.15mあるんですけど、その距離を無回転キックでどうやって壁を越えて枠に入れることができるのか、ちょっと理解できないですね(笑)。

 今シーズン、厚別で試合をした時に、試合中に「どうやって蹴ってるの?」って聞いたんですよ。そうしたら「インサイドの面でボールを上げるんだよ」と言っていて、「なに言ってるんだろう?」と思いました(笑)。

 マテウス選手にしかわからない感覚があるんだと思いましたし、日本人とは筋肉のつき方が違うんだろうなと思います。インサイドであれだけ強く振れて、あれだけボールを浮かせることができるのは、ちょっと筋力の次元の違いを感じました。日本人にはマネできないと思います。

5位/駒野友一(元サンフレッチェ広島、FC今治ほか)

 駒野さんは日本代表でも実績がありますし、抜群のキックの精度を持った選手だと思います。僕が意識しているのが、DF登録でJリーグで一番FKを決めている駒野さんの10得点なんです。僕が今9得点で、駒野さんに追いつきたいという目標を持っているので選ばせていただきました。

 駒野さんのキックは、巻きながらもスピードのあるボールを蹴る印象があります。巻いたボールを蹴る時は、壁を越えてゆっくりとしたボールで枠に飛ばすタイプもいるんですが、駒野さんは鋭いボールで枠に飛ばすタイプで、僕と同タイプだと思っています。

 FKのキックは人によって、足の振り方、当てるポイントなど、本当にさまざまあるんですけど、駒野さんはそういったところも含めて自分とスタイルが似ているので、参考にさせていただいています。

ある時からポジティブに蹴れるようになった

4位/福森晃斗(北海道コンサドーレ札幌)

 自分をこの順位に入れさせていただいたのは、このあと挙げる3選手には到底追いつけないと思っているからです。もちろん、駒野さんにも代表など実績の面で到底敵わないと思っています。それでも駒野さんのDF登録のFK得点記録の一つ上に行きたいという意味で、4位に自分を入れさせていただきました。

 自分のベストFKを考えた時に、今シーズンのホームのジュビロ磐田戦のゴールは、イメージどおりのキックだったと思います。札幌ドームなので風がなく、当てるポイントとか、どの壁を越えて、どう曲がって落ちて、あのコースに決めるというのが、すべて計算どおりで、蹴った瞬間に入ったとわかりました。

 前までは「FK来ちゃったよ」とか、「外れるんだろうな」とか、ネガティブな感情で蹴っていた時期があったんです。でもある時からボールをセットして「これは入るな」と感覚的にわかるようになって、すごくポジティブに蹴れるようになったんですよね。

 2019年のルヴァンカップ決勝で決めたFKも、セットした時には「これ、こっちに蹴ったら入るじゃん」という感覚でした。そういう時は特別な感覚があって、スタジアムの周りの音も聞こえなくなって、自分の世界に入っている感じですね。

 どの試合がきっかけだったかは忘れてしまったんですけど、数年前の試合でそういう感覚でゴールを決めた時から、FKに対する気持ちがすごく変わりました。

3位/遠藤保仁(ジュビロ磐田)

 FKのゴール数で歴代2位の実績からもわかるとおり、遠藤選手は誰もが認める日本を代表するキッカーですね。南アフリカW杯のデンマーク戦で、本田圭佑選手が蹴ると思いきや遠藤選手が巻いて決めたFKは、すごく印象に残っています。

 遠藤選手のキックはスピードというより、コース重視なんですよね。僕から見たらボールがすごくゆっくりに見えるんですけど、GKが絶対に届かないコースに正確に決めてしまう。あのキックの質も僕にはないものだと思っています。

 ただ、蹴り方自体は難しいものではなく、すごくシンプルで基本に忠実なキックだと思います。そのなかで遠藤選手の繊細な感覚で微調整をして、あれだけ高い質のキックになっているのだと思います。

 ゆっくりなボールでも決められるのは、コースだけではなく、GKとの駆け引きも巧みな証拠です。GKの一手、二手先を読んで、逆を突いたり、タイミングを外したり。助走を始めた時点で、GKとの駆け引きに勝っているんじゃないですかね。遠藤選手がどんなことを考えているのか、頭の中を覗いてみたいです。

 もう一つ遠藤選手がキッカーとして次元が違うなと思うのは、メンタルです。デンマーク戦の時もそうでしたが、あれだけのプレッシャーがかかる場面でも焦っている様子が少しも感じられなくて、いつもどおりのキックで正確にコースを突いて決めてしまう。あのメンタルは尋常じゃないと思います。

神様のような存在

2位/小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)

 伸二さんはチームメイトなので、FKをはじめ、世界中が認めるちょっと次元の違う技術の高さを日々目の当たりにしています。伸二さんのキックも遠藤選手と同じように、スピードよりも正確無比に狙ったコースに蹴ることができるんですよね。

 それに加えてGKとの駆け引きもすごくうまくて、相手の逆を取りながら正確にコースへ蹴るので、GKはノーチャンスです。この前も練習試合で決めたのを真横で見ていました。FKの名手と言われるような選手は、相手より一手、二手先に行く読みが本当に優れていると思います。

 4、5年前に一緒にFKの練習をしている時に、伸二さんがボールの空気穴を真上にして置いているのを見たんですよ。とくに意識しているわけではなく、無意識にやっているみたいなんですけど、それ以来、なにかあるんじゃないかと思って勝手にマネさせてもらっています。今でもセットプレーの時はやっています。

 それくらい伸二さんのテクニックはもちろんですけど、やっていること、考えていること、すべてが気になるし、勉強になります。ただ、伸二さんの動画がSNSでよく話題になりますけど、そこで「ボールと呼吸を合わせて」と言っていて、ちょっとなに言っているかわからなかったですね(笑)。

 それだけのテクニックの持ち主に、相手のプレッシャーがなく、止まったボールを蹴らせたらもう自由ですよね。伸二さんと一緒にプレーできるという、本当に貴重な経験をさせてもらっています。

1位/中村俊輔(元横浜F・マリノス、横浜FCほか)

 俊輔さんは桐光学園の大先輩で、雲の上の存在というか、僕たちにとって神様みたいな人ですね。フリーキッカーとしての偉大さは説明不要だと思います。

 僕が高3の時に高校に遊びに来てくれて、それ以来、ずっと尊敬していて、いつか追いつきたいと思いながら追いつけなくて、ちょっと言葉では表せないくらいの存在です。

 俊輔さんはスピードも出しつつ、斜めに回転をかけて上から落とすようなボールを蹴ると思うんですけど、僕もそのタイプのキッカーで、同じレフティーでもあるので、ものすごく参考にさせていただいています。

 俊輔さんがジュビロ磐田でプレーしている時に、札幌ドームで試合をしたんです。そこで俊輔さんの目の前でFKを蹴ることがあって、ちょっと近い距離で壁とは逆のファーサイドに蹴ったんですよ。

 それは相手に当たってCKになったんですけど、その時に俊輔さんが「どこ狙ったの?」と聞いてきて、「右の上狙いました」と言ったら「足場もねちっこかったし、下も狙えないからあそこ狙うよね」と、試合中にそんな話をしてくれて、それが俊輔さんと初めての会話だったんです。

 ほんの十数秒の会話でしたけど、自分にとって憧れの選手に話しかけてもらえて、しかも自分のキックを注目してくれていたんだと思うと、ものすごくうれしかったという思い出があります。

 俊輔さんのFKで一番印象に残っているのは、2003年のコンフェデレーションズカップのフランス戦で決めたゴールですね。あれは新しい俊輔さんを見たなと思いました。

 ちょっと遠目からの位置で、GKのファビアン・バルテズがファーサイドに立っているにもかかわらず、そのサイドにものすごいスピードのボールで、GKの届かないところに蹴りました。ポストを叩いて決まったのは、ちょっと信じられなかったです。あれは俊輔さん以外に誰も蹴れないキックだったと思います。

福森晃斗 
ふくもり・あきと/1992年12月16日生まれ。北海道コンサドーレ札幌のDF。神奈川県藤沢市出身。桐光学園高校から2011年に川崎フロンターレに加入。2015年にコンサドーレ札幌に移籍。今季8シーズン目をプレーした。左足の鋭いキックを武器に、セットプレーのキッカーとしても活躍。直接FKからのゴールが度々注目を集めている。