「あの子…フツーじゃない!」

そんな風に言われる女たちが、あなたの周りにもいませんか?

― どうしても、あれが欲しい…

― もっと、私を見て欲しい…

― 絶対にこうなりたい…!

溢れ出る欲望を抑えられなくなったとき、人間はときにモンスターと化すのです。

東京にひしめくモンスターたち。

とどまることを知らない欲望の果て、女たちが成り果てた姿とは──?

▶前回:どうしても彼と結婚したい、30歳目前の女。彼の書斎に忍び込んで手にした、とんでもない物とは




映えたい女


若者の間では、“インスタ映え”はもう死語だという。

まるで「自己顕示欲なんてダサい」みたいなニュアンスで、盛れた写真をインスタにUPすることを、どこか冷めた目で見る…。

けれど、舞子はそんな風潮を心から嫌った。

だって本心では、誰だってみんなから羨ましがられたいはず。それは、ごく真っ当な人間の心理だと思うから。

そんな人間の根源的な欲求は、流行りすたりで消えるものではない。

それに、“インスタ映え”という言葉自体は使われなくなっても、内心で“映え”を気にする人間は減らないと思っている。

誰も彼も、一番“羨ましがられそう”な写真をセレクトし、加工し、UPしている。

舞子も、自分の自己顕示欲は一切隠さず、毎日せっせと写真を撮る。上げる。いいねを、更なるフォロワーを、求め続けた。

より多くの人から見られることが、快感でたまらないのだ。

しかし、舞子のそれはちょっと過剰で…。


「やば、これ可愛い!映える!!」

友人と表参道を散歩中。LOEWEのバッグに一目惚れしてしまった舞子は、そのまま店内へと吸い込まれ、何の躊躇もなくクレジットカードを店員に手渡す。

いつもの合言葉…「リボ払いで」のセリフとともに。

「ねぇ舞子、そんな浪費して大丈夫なの?」
「これは投資なの。歳取ってからお金だけ持っててもしょうがないでしょ?」

若ければ若いほど、お金の価値は高い。

これは舞子の持論だった。物欲もあって、お洒落できる若いうちにお金を使わなくちゃ、と。

「インスタに上げるだけならさ、買わなくてもよくない?試着室で写真とるだけでいいじゃん、それだけで何十万も節約できるでしょ?」
「ダメ。どこで撮るか、場所も大事なの」

友人の忠告なんて、まったく耳に入らない。白い手袋をした店員が丁寧に梱包するさまを、うっとりと見つめた。




翌日、舞子のインスタにはLOEWEの新作バッグがアップされた。

#ootd #fashionista #今日のコーデ #LOEWE #お洒落さんと繋がりたい #韓国ファッション #instagood #instablogger #モテコーデ…

スクロールしてもスクロールしても続く、ハッシュタグの数々。さすがの気合の入りようで、イイねも2,500件を超えている。

モデルでもなんでもない、ただのベンチャー企業勤めである舞子のフォロワーは、3.5万人。一般人からしたら大したものだ。

もともと、学生時代はこれといって目立ってこなかった。社会人になってインスタを始めると、徐々にフォロワーが増え、そこに感じたことのない快感を覚えてしまった。

それから、インスタにお洒落な写真を投稿することが、彼女の生き甲斐となってしまったのだ。

今年26歳の舞子の年収は450万円。貯金はほぼ0。リボ払いの残債は100万を超えている。

そして、一度爆発してしまった彼女の承認欲求は留まるところを知らなかった。

「あの…すみません…ちょっと、腕だけ撮らせてもらっていいですか?」
「は…!?」
「腕だけ、写真撮らせてもらっていいですか?お願いします!」
「はぁ…」

腕にROLEXをつけていた見知らぬ男性に声を掛け、並んで写真を撮らせてもらう。

#デート #ROLEX #デイトナ #彼とお出かけ…

舞子に恋人なんていない。本人も、欲しいと思っていない。だけど、羨ましいと思われたいから、ひたすらに匂わせる。

ハイスぺそうな彼氏がいる、と。




しかし、事件は起きてしまう。

<さっき、南青山で私の彼に声かけて写真撮ってもらってましたよね?人の恋人を勝手にUPするのやめてもらえませんか?>

あろうことか、写真を撮ってもらった男性の恋人にアカウントを見つけられ、コメントされてしまったのだ。

そのインパクトは大きかった。

<見損ないました>
<全部、フェイクだったんですね>
<さようなら>

どんどん、どんどんフォロワーが減っていく。これまで築き上げてきた砂の城が、少しずつ崩壊していく。

一晩でフォロワーは2.8万人に。

それでも留まるところを知らないフォロワーの減少に、舞子は耐えられなくなってしまった。

そして、舞子はとんでもない方法を思い付いてしまうのだ。




<【ご報告】無事、彼と結婚しました。先日嫌がらせのコメントをされてしまいましたが、彼のファンだったみたいです。世の中、色んな人がいて怖いですね>

盛大な披露宴、高砂には豪華なウェディングドレスを身に纏った舞子と、スマートなイケメンが並んでいる。

#wedding #結婚式 #挙式 #婚約 #ROLEX #デイトナ…

舞子は満を持して、結婚報告の投稿をポストした。もちろん、彼の腕には、あの日の投稿と同じデイトナのROLEXが輝いていた。

<え、あのコメントの方が嘘だったんだ…>
<さすが舞子さん、おめでとうございます!>

「よかった…」

フォロワー数は徐々に回復していった。

結婚式代に、新郎役を含めたエキストラ代、オークションで購入したROLEX代…。

舞子の胸が、満足感と充実感で満たされていく。

見栄張りモンスターと化した舞子の元に、転売できるものを全て売りさばいた上で、300万近くの借金が残ってしまっていたとしても…。

▶前回:どうしても彼と結婚したい、30歳目前の女。彼の書斎に忍び込んで手にした、とんでもない物とは

▶1話目はこちら:15分前に頼んだUberより早く、食事会に駆け付ける女。彼女のまさかの移動手段とは…

▶Next:11月22日 火曜日更新予定
あれもダメ、これもダメ!世直しをし続ける女性は…