「こっちが3月に選ぶしかない、というような状況を(選手たちが)4試合のなかで見せてほしい。(代表入りは)自分で勝ちとってもらうしかない」

 豪州との強化試合(日本ハム、巨人との練習試合を含む)を前に、侍ジャパンの栗山英樹監督は今回の戦いの意味と重要性についてこう語った。

 28人中15人が初選出という若手主体で構成された今回の侍ジャパン候補メンバー。言い換えれば、来年3月に開催される第5回ワールドベースボールクラシック(WBC)の日本代表のセレクションでもあった。


豪州戦で4イニング7奪三振と好投した戸郷翔征

順応力の高さを見せた投手陣

 結果的には収穫の多い、栗山監督に多くの材料を提供できた4試合だったと思う。今回、栗山監督が投手陣のチェックポイントにしていたのは、以下のようなものだった。

(1)WBC使用球への順応
(2)先発組、とくに第2先発で使える投手探し
(3)初選出が多かった中継ぎ陣の見極め
(4)抑え投手の絞り込み

 使用球への対応は概ね問題はないように映ったが、強いて挙げれば豪州2戦目に先発した佐々木朗希(ロッテ)と4番手の湯浅京己(阪神)は、やや苦戦していた印象があった。共通していたのは、フォークの制球だ。

 過去にも、WBC使用球はフォークが抜けやすく、制球しづらいという指摘があった。今回、抑えでマウンドに上がった大勢(巨人)も時折、抜けた球があったように慣れるまでまだ時間が必要な感じだ。

 ただ、いずれの投手も苦しみながらも無失点で切り抜けた対応ぶりは、むしろ栗山監督に好印象を与えたはずだ。先発した佐々木、中継ぎの湯浅、抑えの大勢はそれだけで合格点が与えられたと思う。

 先発陣では、今永昇太(DeNA)、石川柊太(ソフトバンク)が文句ない投球を見せた。とくに今永のチェンジアップやカーブを駆使した緩急のピッチングは、打者が積極的に振ってくる国際大会では効果的だ。

「久しぶりに安心して、すごいなと思いながら見ていました」

 今永のピッチングについて、栗山監督がそんな言葉を残すほど存在感は高まった。

 その今永は、試合前の練習などで若い選手たちに技術的なアドバイスを送るなど、兄貴分的な存在となっているという。顔ぶれから見ても、今永は3月の本戦でもエース格として投手陣を支えるだろう。

 また戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)、郄橋宏斗(中日)といった第2先発として期待される投手たちも大過なくというよりは、期待以上のパフォーマンスを見せた。

 いつもは先発の投手が、イニングの頭からとはいえ、試合途中から登板することの難しさのポイントは2つある。まずは試合の途中から肩をつくるという不慣れな作業に対応できるかどうか。そして同点を含めた僅差の展開、乱打戦など、状況に応じて対峙していかなければならない。

 どの投手も順応力の高さを見せ、WBC使用球も器用に使いこなしていた。豪州戦初戦に今永からバトンを渡された戸郷はしっかり指にかかったボールを投げていたし、2戦目で佐々木のあとを受けた高橋奎は最速152キロのストレートを主体に2回無失点、4奪三振の快投を演じた。

「滑るボールへの対応にはまだまだ改善の余地がありますが、いいアピールができたと思います」(高橋奎)

 第2先発はもちろん、現状、中継ぎに左がいないため、そこでも出番が回ってくるかもしれない。

栗山監督が重視する打線のつながり

 一方、野手については以下の3つがポイントだった。

(1)積極的な走塁
(2)左右に打ち分けるバッティング
(3)試合の流れを変えられる長打力

 そんななか「こういうタイプの選手が栗山監督は好きなのだろう」と感じさせたのが、牧秀悟(DeNA)と近藤健介(日本ハム)だ。

 牧は左右に打ち分ける器用さに加え、長打力もあり、豪州投手陣の微妙に動くボールにもしっかり対応していた。守備でも、昨年以来守っていないという一塁を無難にこなした。

 近藤は選球眼があり、バッティングに巧さもあり"つなぎ役"にはうってつけの存在だ。

「日本を代表する選手たちですから、点をとってくれると期待してしまう。心配ない」と相好を崩す栗山監督だが、強打者を並べるだけで得点を挙げようとは考えていない。あくまで「打線のつなぎ」を最重要視しているように思えた。

 前述の牧は、日本ハム、巨人戦では2試合続けて3番に据えたが、豪州との2試合は5番に入れ、3番には山田哲人を入れた。

「招集前から決めていた」と栗山監督が語った村上宗隆(ヤクルト)を4番確定とするなら、その前後は誰がいいのか......そんなこだわりを示しているようだった。

「打てない時もある。ただ、あっさり凡退するのは避けたい。"死にイニング"をつくりたくない」と栗山監督は言う。

"死にイニング"とは独特の表現だが、無抵抗に何もせずにイニングを消費したくないということか。個々の打者の能力は当然として、どの打順ならつながりがいいのかを探る。

 西川龍馬(広島)の使い方も同様だった。巨人戦では6番、豪州との初戦は2番、そして2戦目は再び6番と、どちらのほうがしっくりくるかと同時に、前後の打者が西川とどうつながり、波及効果を生み出すのか。その感触を確かめるような起用法に感じた。

 結果だけを見れば、牧は3番、西川は6番のほうがよかったが、これが栗山監督の求めている答えとは限らない。

 また、周東佑京(ソフトバンク)も"走り屋"としての真価を発揮した。豪州戦の7回に近本の代わりに一塁に立ち、警戒されるなかで2球目に二盗を決めると、山田のレフト前ヒットで二塁から生還。躍動感ある走りとスライディングは、あらためて国際大会でチームに勢いをつけるのに必要不可欠なピースだと実感させられた。

 守備面も輪郭が見えてきた。本来のショートだけでなく、セカンドもこなした中野拓夢(阪神)は、攻撃的な姿勢が栗山監督に高く評価された。守備を重視するなら源田壮亮(西武)、攻撃的な打線を組む場合は中野。そんな使い分けを想定していると考えられる。

 そして3月の本戦にはメジャー組の参加も予定されている。大谷翔平(エンゼルス)は投手で起用されるかどうかは不明だが、打者なら指名打者での起用が濃厚だ。ここに鈴木誠也(カブス)も加われば、クリーンアップも様相も変わってくる。

 栗山監督はこうも語っている。

「どの国も上位の打線はいい打者が揃っている。でも下位がいいチームは、本当に強いチームだと思う」

 今回の強化試合では、巨人では中軸を打つ岡本和真を7番に入れ、下位で得点するケースも見られた。

 豪州との強化試合は、結果だけ見れば圧勝で、内容は乏しかったかもしれない。しかしテストとしての収穫は間違いなくあった。あとは栗山監督の決定を待つだけだ。