久保建英がW杯前最後の一戦で見せたカタールでの進むべき道。「サッカーを捨てる」と割り切れるか
11月9日、セビージャ。レアル・ソシエダの久保建英はカタールW杯による中断前、最後のリーグ戦を敵地で戦っている。
前半10分、味方FWが負傷し、緊急的に交代出場となった。ヨーロッパリーグ(EL)のオモニア戦で肩を脱臼し、リーグ戦を2試合、ELを1試合欠場していた。前節はすでにベンチに入っており、次がすぐ水曜日のゲームだっただけに、大事を取った形か。
セビージャ戦の久保のパフォーマンスは悪くなかった。
2トップの一角に入ると、ミケル・メリーノ、ジョン・パチェコなど左利きのチームメイトからのパスを次々に引き出し、左足でシュートまで持ち込むが、どちらもオフサイドの判定だった。前半でセビージャがふたり退場者を出し、4−3−3の左サイドに張る形になった後も、やはり左利きのアレクサンダー・セルロート、ダビド・シルバにたて続けにラストパスを供給した。ヘスス・ナバスのボールを奪い返し、セルロートへ送ったパスは、決まらなかったが決定機だった。
後半に入っても久保はチャンスを作り出していた。しかし、8人で5−3と極端に守りを固めた相手に、やや孤立。1−2でリードしていたこともあって、チーム全体にいつものテンポは生まれなかった。
そのゲームは、図らずもW杯に挑む久保の進むべき道を照らし出した。
セビージャ戦に前半10分から出場、勝利に貢献した久保建英(レアル・ソシエダ)
今シーズン、久保は著しい台頭を見せている。
イマノル・アルグアシル監督が率いるレアル・ソシエダで、創造的でひらめきのあるプレーを見せられるようになった。高い位置でボールを受けると、技術が高い選手が湧き出て、高精度の連係を見せ、守備陣を突き崩す。国内リーグではFCバルセロナ、レアル・マドリードに次ぐ3位のクラブにおいて、ボールプレーヤーである久保の真骨頂が出た格好だ。
トップ下のダビド・シルバと自由に動くことで、変幻の攻撃を生み出している。副産物として、左に流れても効果的なウィングプレーができるようになった。守備のタイミングや強度なども確実に向上した。チームコンセプトである主体的サッカーのなか、コンビネーションによってお互いがよさを引き出し、輝きを増したのだ。
リアクション戦術では威力も半減しかし、相手がサッカーを放棄した状況になると、久保のプレーは限定的になった。左サイドで張る形になったのも大きい。フォーメーションの型にはめられると、よさが半減するのだ。
カタールW杯での久保は、左サイドでのプレーが有力視される。
森保一監督は、よくも悪くも「森保のサッカー」にしか選手を当てはめることができない。基本的に守りはソリッドで隙を与えず、攻めはカウンターで手数を懸けずに速さを基調にしている。当然、それに即した選手選考となり、それは受け身のなかで相手の隙を探す弱者の兵法である。レアル・ソシエダのアルグアシル監督とは真逆で、能動的に攻め続けるフィロソフィーではない。
では、久保は森保ジャパンの左サイドで躍動できるのか?
森保監督の戦術を落とし込んだ場合、前線にほしいのはパワーをかけられる南野拓実、上田綺世のような選手と、スピード勝負ができて献身的な前田大然、浅野拓磨、伊東純也という面々になるだろう。そこに一発のパスで崩せる鎌田大地をどう絡めるか。堂安律、三笘薫、そして久保は、あくまでオプションと言えるだろう。
久保は、2年目のビジャレアル、ヘタフェ、3年目のマジョルカでは伸び悩んでいた。フィジカルタフネスや規律を重視した戦い方で、才能を十分に解き放てなかった。守備の決まりごとが多かったり、技術的に高くない選手がいたり、というのはまだしも、チームコンセプトが「受け身」が前提であるウナイ・エメリ監督(当時ビジャレアル)とは反目し、自ら退団を選んだほどだ。
森保監督は、リアクション戦術に勝機を求める。率直に言って、つまらないが、強豪と戦う時のひとつの定石と言える。当然、勝ちを拾える可能性はあるが、勝利がすべてとなり、選手にはサッカーを捨てる割り切りが求められる。
「全然、面白くなかったよ」
2010年南アフリカW杯でベスト16に進出した日本代表で、前線左サイドを担った大久保嘉人は、徹底的な堅守カウンターでの戦いを振り返っている。
「でも、選手は監督の決めた戦術に合わせて動くべきで、それを徹底的に貫いた。一発勝負と決め込んでいたから、楽しくなくても問題なかった。そこまで割り切らんと、あそこまで俺はディフェンスしない(苦笑)。ひとりでもわがままをしたら破綻していたし、自分が戻らなかったら、やられていたはず。ゴール前に入る選手は当然、少なかったけど、動けるだけ動いて撹乱しようって話していた。反撃の時間を待って、辛抱強く戦えた」
岡田武史監督が当時、採用した戦い方は必然だった。あれから12年が経過し、時計の針を巻き戻す。それは代表監督の采配力の問題でもあり、そこに現在の代表の不人気の理由は集約されているわけだが......。
久保がカタールでするべきは、大久保に近いミッションになるだろう。もちろん、それでドイツ、スペインを倒せるか、という疑問はある。しかし指揮官の命を受けた選手は迷わず戦うしかないだろう。
ひとつ言えるのは、久保はどんなディフェンダーと対峙しても怯まないということだ。セビージャ戦も、元スペイン代表のヘスス・ナバスを翻弄した。ELではマンチェスター・ユナイテッドを抑えてグループリーグ首位でベスト16入りするチームに大きく貢献した。
耐えしのぐサッカーのなかでの久保の一撃を祈る。