激闘来たる! カタールW杯特集

注目チーム紹介/ナショナルチームの伝統と革新 
第10回:ドイツ

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日本が初戦であたるドイツ代表は過去4度の優勝経験を持つ

「武骨」と「洗練」が繰り返されるスタイル

 ワールドカップ初参戦は1934年のイタリアW杯、初出場で3位だった。1938年フランスW杯は、当時最強と目されていたオーストリア代表のメンバーを組み込んだにもかかわらず、1回戦で敗れている。ここまでがナチス・ドイツ時代だ。

 ヴンダーチーム(驚きのチーム)と呼ばれたオーストリアのメンバーを編入しての失敗は、ゼップ・ヘルベルガー監督にとって教訓となったようだ。第二次世界大戦後に復帰した1954年スイスW杯では、いきなり初優勝を成し遂げている。

 この時の西ドイツは決勝でハンガリーに逆転勝ちし、「ベルンの奇跡」と称賛された。相手のハンガリーは「マジック・マジャール」と呼ばれた史上最強クラスのナショナルチームだったからだ。

 ベルンの奇跡のチームはフリッツ・ヴァルター主将を中心にがっちりまとまっていて、そのチームワークが優勝の原動力と言われている。規律と体力という特徴は、そのあとも脈々と受け継がれていった。ただ、ドイツは時代によって少し違う顔をみせている。

 ベルンの奇跡を少年期に体験したフランツ・ベッケンバウアー、ゲルト・ミュラー、ヴォルフガング・オベラーツなど、技巧に優れた逸材が台頭してきた1970年代は西ドイツの黄金時代であるとともに、華麗で洗練されたプレースタイルが印象的だった。

 ところが、その後の1980年代は武骨で勝負強さが際立つドイツに戻る。イングランド代表のガリー・リネカーが「最後はドイツが勝つ」と言ったように、とにかく勝利だけは手にするドイツである。

 しかし、また1970年代を彷彿させるドイツが登場するのだ。2014年ブラジルW杯に優勝したチームは、メスト・エジル、トニ・クロースといった技巧派が中心となってモダンで洗練されたパスワークを披露している。

 代表チームのプレースタイルは時代によって変化し、実は一般的に思われているほど固定的なものではない。ドイツは一貫しているほうだが、それでも時期によってかなり違った表情をみせてきた。

基盤の守備力に特殊性が加わった時が強い

 ドイツ(西ドイツ)代表の歴史を振り返ると、通底しているのが守備の強さだ。

 体格に恵まれコンタクトプレーに強く、規律があり、徹底的に戦うメンタルの強さもある。ゾーンディフェンスに移行した2006年までは、どの時代にも相手のエースを抑え込むマンマークのスペシャリストがいた。

 1974年西ドイツW杯の決勝でオランダのヨハン・クライフを完封したベルティ・フォクツ、1980年代のカールハインツ・フェルスター、1990年代のユルゲン・コーラーといったエースキラーの存在が、相手の力を削ぎ落している。

 国内の強豪クラブを軸とした編成も、特徴と言えるかもしれない。初優勝の1954年はカイザースラウテルン、1970年代以降はバイエルンが中心になってきた。もっとも、国内強豪クラブを中心に代表を編成するのはどの国もそうだったので、それ自体は珍しくはない。ただ、中心になったクラブが国内で特殊なプレースタイルだったのは面白いところだ。

 1960年代のバイエルンは新興クラブだった。ベッケンバウアー、ミュラー、GKゼップ・マイヤーといった若手の台頭で、一気にヨーロッパのトップチームにのし上がっている。プレースタイルは、ブンデスリーガでは例外的なラテン的とも言えるパスワークが強みだった。そして、このバイエルンのライバル、ボルシアMGも初期のブンデスリーガをリードしてきたクラブだ。

 ボルシアMGもフォクツやギュンター・ネッツァーといった若手の台頭とともに上り詰めたチームだが、厳しいマンマークだけでなく攻撃時には相手を置き捨てて前進する、勇敢でアグレッシブな戦い方が特徴。

 規律正しさや合理性はドイツの国民性だが、一方でそこから解放されたいという欲求も強い。ボルシアMGはその振れ幅をそのままプレースタイルとして実現していて、人気も高かった。

 ある意味、バイエルンよりも国民的なスタイルであり、ユルゲン・クロップ監督などに受け継がれて「ストーミング」と呼ばれた戦法の原形と言える。1970年代の西ドイツ代表は、尖鋭的な2つのクラブの合体だったところに特殊性があった。

今回は手堅い基盤へ原点回帰志向

 バイエルン&ボルシアMGの1970年代から80年代に入ると、当初の尖鋭的な特徴がなくなって基盤の守備の強さ、規律、闘争心が剥きだしになっていった。2000年にかつての技術レベルを取り戻すべく育成改革が始まり、それが移民系選手の増加につながったのはフランスやベルギーと同じである。

 2014年に ブラジルW杯で4回目の優勝を成し遂げたドイツはやはりバイエルン中心だったが、この時のバイエルンはジョゼップ・グアルディオラ監督が率いていて、いわばスペイン化していたバイエルンだ。1970年代もそうだったが、ブンデスリーガではむしろ特殊なプレースタイルである。代表の中心はバイエルンだが、バイエルンはドイツを代表していないのだ。

 カタールW杯に臨むドイツは、ヨアヒム・レーブ監督時代の、スペイン化したドイツからの揺り戻しが起きている。相変わらずバイエルン勢は多いのだが、ハンジ・フリック監督はハイプレスを軸とした強度の高いプレースタイルを志向していて、言わばスペイン化からの解放を行なっている。現在のブンデスリーガをより反映した戦い方とも言える。

 GKを組み込んだ自陣からビルドアップで、相手のハイプレスを無効化するのは従来の流れを継承しているが、よりダイレクトな攻め込みと、その後のハイプレスでの即時奪回こそが狙いだ。

 かつてのクロースやエジルのような「マイスター」のタイプはいないが、原点である強度を重視したアドレナリン系のプレースタイルにはなっている。バイエルン勢中心だけれども、かつてのボルシアMGを源流とするスタイルと言っていいかもしれない。

 ただ、攻め込みはやや強引さが目立ち、ハイクロスを多用するわりには高さのあるFWがカイ・ハフェルツだけという懸念材料はある。アイデアとテクニックで変化をつける選手として、若手のジャマル・ムシアラが期待されているが応えられるかどうか。フランクフルトで復活し、本大会のメンバー候補に入ったマリオ・ゲッツェが案外キーマンになるかもしれない。

 手堅い基盤に何らかの特殊性や異質な要素が加わった時に最強化していたドイツだが、それからすると今回は原点回帰の、とくに異質さのないドイツだ。

 その点で、5回目の優勝は難しそうだが、基盤だけでも上位に進出できる力があるのは、これまで何度も証明してきたとおりである。