通常旅客機のパイロットは、同時期に複数の型式をまたいで乗務することはできません。しかしJALでは、ボーイング777と787を“ダブル乗務”できる制度を導入しています。2つの型式の操縦に違いはないのでしょうか。

「思いのほか変わらないな」

 通常、旅客機のパイロットは、手順やシステム、操縦感覚の差異を排除すべく、同時期に複数の型式をまたいで乗務することはできません。しかし2019年4月に本邦の通達改正により実施可能になり、JALでは、この“常識”を覆す革新的な制度を国内でいち早く取り入れていました。「MFF(Mixed Fleet Flying)」といい、1人のパイロットがふたつの型式に乗務できます。
 
 この“ダブル乗務”制度、担当パイロットにとって違いを感じ、困惑することはないのでしょうか。


上がJALのボーイング777-300ER。下が787-8(松 稔生撮影)。

 JALでは「MFF」制度を2019年にスタート。その内容は、ボーイングの旅客機「777」「787」のふたつの型式をまたいで乗務できるというものです。

 1990年代後半にデビューし、一時は世界最長の記録を持ったほど(777-300の73.9m)長い胴体をもつ777に対し、2011年にデビューした新鋭機で、777よりひと回り小型の胴体をもつ787。ふたつの型式のルックスは結構異なるように見えます。ルックス上の差はコクピットの内部を見ても同様です。787のコクピットはスイッチ類も少なく、モニターも大型のものを採用。それと比べると777のものは“クラシカル”なスタイルです。

「私は787で10年弱くらい飛んだあと、かつて担当していた777にMFF制度で再び戻りました。時期も空いていたのでどうかな?と考えていたのですが、『思いのほか変わらないな』というのが実際の印象でした。つまり、2つの型式は“極めて類似している”ということではないかと思います」。

 旅客機の型式ごとの「共通性」の研究をしたのちJALのMFF導入にも携わり、2021年から実際に、MFF制度で2機種に自ら乗務するJALの古川大心機長は、次のように話します。

「型式ごとの類似性は、各国当局によりデザインだけではなくて、細かい部分まで確認して初めて類似しているとなります。おおまかにデザイン、そしてシステム、マニューバ(航空機の挙動)。この3種類について数千もの項目の比較をして、2つがどれだけ似ているかを全部確認しています。マニュアルを読んでいても『あれ?どっちだったっけ?』と思ってしまうことがあるくらいです。ただ、一時的な不具合への対策としてマニュアルに追加された部分が、それぞれの型式で被らないところがあるので、(それぞれの機種の項目を理解しなければならないぶん)そこ(の習得)は大変なところかもしれません」(古川機長)

777と787、どれくらい似てるのか?

 古川機長は2機種の共通性を次のように説明します。

「基本的な配置とフロー(作業の流れ)、ディスプレイの配置は2型式とも一緒です。配置だけでなく、チェックの順番も統一されています。システム的なつくりとしては787の方が電気飛行機的なところもあるので、スイッチの量などは違うところはありますが、間違うことはまずありません。逆に違うところを探すのが難しいくらいです」

「冗談みたいな話なんですが、小さなところだと、コクピットのドアを開けるときに押すのか引くのかとか、1段コクピットに段差がある777に対し、バリアフリーにも配慮された787は段差がないんです。その段差でつんのめりそうになったり……そんな笑い話みたいな違いしかないです(笑)」


JALの古川大心機長(松 稔生撮影)。

 JALによると「MFF乗員になるには、機長・副操縦士としての経験に加え、両型式の資格を維持するための訓練を実施し、どちらかの型式で審査不合格となった場合は両型式を乗務不可とするなどの付加的条件が設定されている」とのこと。この制度を導入したことによって、「パイロットの配置を柔軟に割り当てられる」(古川機長)としています。

 ボーイング787は、当初から操縦性を777と共通性を持たせるよう開発されています。取材を通して「些細な相違はあっても、ほとんど違いはないですね」と繰り返し話す古川機長。これはボーイング社の高い技術力、そしてJALのパイロットの適応力の高さがあってのことでしょう。