“極めて類似した型式”としてダブル乗務も可能なボーイング777と787。パイロットから見ると、この2機種には、わずかな違いがあるようです。ダブル乗務の担当者に話を聞いたところ、細かなところに787の進化がうかがえました。

“極めて類似した型式”とされる777と787

 通常、旅客機のパイロットは同時期に複数の型式をまたいで乗務することはできません。手順やシステム、操縦感覚の差異によりミスを誘発しないように……というのが大きな理由です。ただ、国からこの例外と認められたのがボーイング777と787。“極めて類似した型式”として2019年に国から認可を取得し、JAL(日本航空)では2型式の「MFF(Mixed Fleet Flying)」という制度を国内でいち早く実用化しました。

 この2つの型式は、それほどに違いはないのでしょうか。実際にMFFを担当するパイロットに聞いたところ、見えてきたのは後発機である「787」の進化でした。


JALのボーイング787(松 稔生撮影)。

 コクピットから見た777と787は非常に類似しており、これは世界、そして日本でも”お墨付き“を得ているといわれています。JALのMFF制度導入にも携わり、2021年から実際にMFF制度でふたつの型式に自ら乗務する古川大心機長は「逆に違うところを探すのが難しいくらいです」と、その共通性の高さを評価します。

 ふたつの型式は、コクピットの基本的な配置、操縦手順、そしてマニュアルに至るまで、ほとんど同じといえるほど、高い共通性が見られるとのこと。操縦性についても「あくまで個人の感覚に近い部分」程度しか違いがないのだそうです。

 とはいうものの、もちろん2つの型式が「全く同じ」ということはないそう。古川機長は「あえていうなら」と前置きのうえ、違いのあるポイントを探し、説明してくれました。

2型式の大きな違い、そして微妙な違い

 777と787、このもっとも大きな差として、古川機長は次の2つを挙げます。

「万が一エンジン止まってしまうなどの緊急時、777には左右のエンジン出力の差により発生するマニューバ(飛行機の挙動)の操作を補助してくれる機能(スラストアシンメトリー・コンペンセーション)がありますが、787はこれがシステムとして組み込まれています。こういった不具合時のマニューバの差が、2機種のもっとも大きな違いのひとつといえるでしょう」

「787のコクピットを見て、777と大きく違うのが、ヘッドアップディスプレイ(目線を下げずに飛行中の計器情報を確認できる)ですね。少ない視線の動きで操縦できるので、非常に便利です。また、視界のいいときだけではなく、悪天候時にも視線の動きが少ない分、滑走路を従来機より早く見つけることができるので、役に立ちます」


JALのボーイング777(松 稔生撮影)。

 このほか、個人の体感的な違いとして、古川機長は次のように、ごく些細な差があるかもしれない、と説明します。

●地上走行時・離陸時
「2型式では、ティラー(操縦席横に備わるステアリング操作のためのハンドル。地上走行で用いる)の形状が違います。また、787はステアリングを電気信号で動かすので、遊びが少なく、数ミリの戦いになるくらいシビアな挙動をします。また、離陸時には、同じゼネラルエレクトリック製のエンジンを搭載した2型式であっても、787は40%、現在運航している777は55%の位置までいったん推力レベルまであげて安定させたのち、離陸推力まで上げるといった違いはあります」

●フライト中
「あくまで個人の感覚に近い部分ですが、777の方が機体が大きい分、コクピットからの目線に多少違いがあります。そのため着陸のときのフレアハイト(着陸時に機首を引き起こす操作を始める高度)のタイミングや、引き起こし操作が若干異なるという印象を最初は受けました。また、舵の効き方もありますので、私も777のときだけは、少しだけ大きく引き起こし操作を行う意識ではありますが、ほとんど気になるレベルではありません。一方、逆に直線飛行の安定性は777のほうが優れているのでは、と話す人もいますね」

まさに「パワーアップ版777」! 787の先進性

 新鋭主力機のひとつである787、古川機長は777と比べると、「便利になった部分もある」とも話します。そのポイントを次のように話します。


JALの古川大心機長(松 稔生撮影)。

●コックピットの座席
「787は席の後ろにスイッチがあって、そこで座席を動かせるのですが、777にはこれがなく、手を伸ばしてレバーを引かなくてはならないんです」

●自分の便名をコクピット内に表示する「リマインダー」
「777は手で押すタイプであるのに対し、787はデジタル表示に変えられているほか、その周辺に周波数や時計も表示されているなど便利になっています。777では今どの周波数で交信しているのか、都度下を見る必要があったのですが、787ではそこまで目線を動かすことなく確認できます」

●画面上での「空港の情報」の呼び出し
「777では、コクピット横に『電子フライトバッグ(EFB)』を置き、そこで空港の情報を呼び出していたのですが、787では、コックピットに備え付けられている大きなモニター(ナビゲーション・ディスプレイ)のなかに空港のレイアウト情報に表示できます。(外付けから内蔵・大画面に変わったことで)地上滑走のときには参考になります」

●巡航時の高度
「787は一気に高高度まで行くことができます。たとえばアメリカ西海岸まで行く場合、787なら少し重量が軽い状態であれば一気に3万9000ft(約1万1890m)まで行くことができるんですが、777の場合は3万1000ft(約9450m)から、徐々にステップアップするような感じで高度を上げていきます。高度が高いほど揺れづらいことが多いのです」

●スイッチ類
「787には、両タンクの燃料のバランスを、ボタンを押すだけで調整してくれる『フューエルバランススイッチ』を備えています。片方のエンジンが止まってしまうなど、万が一の際にパイロットの負担を軽減してくれます」

パイロットから見た2機種の違い、ギャップはどれほど?

 このように、素人目から見ると777と787は、世代的に大きく違うのでは……と思うかもしれません。それでも古川機長は787を「777とほとんど同じながら、787は本当に細かな部分で、視認性の向上や、手・目などの動きが少なくなるように設計されている」と話します。


JALの訓練設備、787の「紙レーター」に設置されているヘッドアップディスプレイ(松 稔生撮影)。

 古川機長も取材中、「どこか違うところあるかな……」と熟考し、自ら2つの訓練装置の各所を見てポイントを探しながら、先述したような違いをあげてくれたのが印象的でした。パソコンや自動車といった身近な道具に置き換えてみると、確かに、10年前の機種と最新機種とで基本の操作が大きく異なるわけではありません。入念な訓練を積んだプロのパイロットから見ると、それと同じくらいの“相違点”なのでしょう。

 1996年の就航以来、長年JALの主力として活躍を続けている777。2012年4月22日にJALで就航し、2022年にちょうど就航10周年を迎えた787。ルックスこそ異なれど、パイロットから見るとまさに「兄弟」のような飛行機なのかもしれません。