あり得ない山道!からの、広がる安堵の海 “エモい”終点だらけな長崎のバス
周りを海に囲まれた長崎県は、穏やかな海沿いの光景が広がる風光明媚なバスの終点も多数。その多くは、途中に急峻な山越えを控えています。「密林のような山を抜けた先にパッと海が広がった時の解放感」を味わえる路線を紹介します。
エモい終点たくさん 「海へ向かうバス」だらけの長崎を囲む“7つの海”をバスで巡る!
長崎県はまわりを海に囲まれ、その景色もさまざま。都市と港町を結ぶ路線バスの車窓からは、いちめんに広がる海を存分に眺めることができます。西九州新幹線はまだ一部(武雄温泉〜長崎間)しか開業していないものの、それでも長崎県は少しだけ近くなります。長崎駅からバスに乗って、車窓から多様さに満ちあふれた海を眺めてみましょう。
長崎半島の突端近くに浮かぶ離島の樺島から、橋を渡って長崎市内に向かうバス(宮武和多哉撮影)。
工業地帯→漁港に 長崎半島の最果て野母崎・樺島へ
長崎湾は周囲を山に囲まれ、入江をぐるりと取り囲むように街が点在するため、バスは長崎駅前からそれぞれの街へと分かれていきます。その中でもっとも海を楽しめるバス路線といえば、長崎半島の突端、野母崎方面に向かう系統ではないでしょうか。
長崎市内からのバスは、グラバー園がある南山手の丘の西側を、南長崎あたりまで造船所などを眺めながら進みます。いったん内陸に入ったあと、半島の中央部にある黒浜あたりで海岸線に出ると、目の前に広がるのは一面の五島灘、そしてそのはるか先に外海である東シナ海も広がります。先ほどまで見えていた工場群はすでになく、海岸線には小さな漁船や海の家などが目立ちます。
長崎市内からのバスは多くが旧・野母町の中心部である「野母崎地域センター」で折り返していきますが、岬の先端部・権現山のふもとにある「岬木場」、橋を渡った離島「樺島」などで、岬の果ての街の佇まいを眺めるのも良いでしょう。
マジでこんな絶壁をきたのか… と思わずにはいられない港の光景
長崎半島は突端の野母崎に至る間にも、橘湾を挟んで島原半島に面する東側に、小さな漁港がいくつか点在しています。これらを結ぶバスに乗車すると、海に至るまでの峠の険しさと、そこから眺める海の広さに驚かされます。
長崎市街から比較的近い距離で、その絶景を味わえるのが、「飯香浦(いかのうら)」に向かうバスです。路面電車の終点である崇福寺から坂を駆け上がり、「こしき岩」バス停の先の峠道を越えると、車窓から橘湾を一望できます。なお途中下車して「こしき岩公園」まで歩けばさらに絶景が見られますが、このバス路線は昼間にはあまり運行がないので要注意です。
バスはつづら折りのカーブを何度も描いて、眼下に見える小さな漁港、飯香浦へ向かいます。飯香浦バス停近くにある小さな雑貨店「ショップいかのうら」から振り向くと、今まで通ってきた道路の険しさに驚かされることでしょう。この飯香浦は、長崎の名物であるビワだけでなくイチゴの栽培に早くから取り組み、「飯香浦のイチゴ」ブランドで成功を収めているのだとか。
飯香浦のすぐ南に位置するのが、半島の南岸最大の街である茂木です。市街から茂木へ向かうバスの車窓からは、穏やかな茂木港を見渡すことができます。かつて熊本・天草方面に向かうフェリーの乗り継ぎ場所であった茂木には、今でも1時間2・3本のバスが走り、かろうじて残った1日4本の高速船に接続する便も健在です。
千々集落を出たバスは海沿いから急坂を駆け上る(宮武和多哉撮影)。
より南側の集落に向かうバスの終点・千々バス停の周辺は断崖絶壁に囲まれています。海岸線近くの集落をでたバスは急な坂を登り始め、あっという間に絶壁の上の細道に出て、はるか崖下に港や海を眺める格好に。このバスはしばしば土砂災害による運休に悩まされていましたが、徐々に道路改修が進んでいるようです。
長崎から北の“鉄道がないほう”には何がある?
長崎では海沿いの長距離路線も多く、乗り継ぎルートもまだまだ健在。中でも市街地から北上して、鉄道が通っていない大村湾の西側にあたる西彼杵(そのぎ)半島に向かうバスなら、長崎の海のさまざまな表情を観察しながら、乗り継ぐことができます。
例えば半島の西側を北上するなら桜の里ターミナルで乗り継ぎ、西海市役所・樫の浦方面へ。バスから荒波が打ち寄せる東シナ海、沖合に出る漁船が何隻も連なる姿を存分に眺めることができます。半島東側を移動するなら、時津北部ターミナルから大串方面へのバスに乗り、牡蠣や真珠の養殖設備が並び「琴の海」とも称される穏やかな大村湾を眺めるのも良いでしょう。
大村湾はその北側で、「針尾瀬戸(伊ノ浦瀬戸))「早岐瀬戸」という二つの狭い海峡で仕切られ、湾内に栄養が溜まりやすく、かつ荒れないとあって養殖漁業に向いた環境と言われています。「週刊少年サンデー」で連載中の漫画「第九の波濤」でも、大村湾は「鯨の養殖」構想の候補地として登場。その他同作品では長崎市内や前述の茂木港、佐世保市の「展海峰」などが登場し、長崎大学水産学部の研究施設への移動手段として路線バスも描かれています。
西彼杵半島の付け根にある相川・式見へ向かうバスも高台から海を眺めることができる(宮武和多哉撮影)。
激セマ海峡から佐世保へ、ずっと海沿い大回り可能!?
西彼杵半島の西まわり、東まわりのバスは車庫のある大串で合流。ここからバスを乗り継ぎ北へ、西海橋を渡って佐世保市に向かうことができます。潮の流れが速い針尾瀬戸(伊ノ浦瀬戸)を渡る橋は、海面からの高さが43mもあり、バスから降りて展望台まで行けば渦潮を眺めることもできます。
なお西海橋を渡った先は佐世保市南部の「針尾島」で、前出した早岐瀬戸により隔てられた“離島”です。とはいえ早岐瀬戸は短いところで幅10mほどしかなく、橋も数本かかっているため、離島感は全くなく、朝晩には佐世保方面へのラッシュも見られます。
佐世保駅から北も、路線バスで北松浦半島をぐるりと回り込んで、玄界灘沿いの松浦市、さらに佐賀県伊万里市、唐津市まで、玄界灘を眺めながら海岸線を乗り継ぐこともできます。さまざまな海を座席から心ゆくまで眺められる路線バス乗り継ぎコースですが、一部区間の本数の少なさもあり、全てを路線バスで移動すると丸一日かかるのでご注意ください。