見えた! M1A2「エイブラムス」最新改良型 半世紀現役戦車へ 「X」の傍らで開発進む
「エイブラムスX」が派手なデビューを飾った傍ら、既存のM1A2「エイブラムス」戦車の改良も進んでおり、その次期パッケージの開発中と見られる画像がネット上に投稿され話題となりました。バージョンアップの内容などを見ていきます。
世界中が注目した「エイブラムスX」
ロシアのウクライナ侵攻では一時期、いわゆる「戦車不要論」が耳目に上りました。しかし、最近では逆に「陸戦を決するのはやはり戦車である」ということが実証され始めています。
制式採用から40年あまりが経過したM1A2「エイブラムス」戦車。
アメリカはこの一連の騒動が起きる以前から、戦車戦力を見直してきました。海兵隊は組織改編で戦車部隊を全廃することにし、陸軍の次世代戦闘車(NGCV)プログラムに従来の戦車の居場所は無く、120mm主砲クラスを搭載したロボット戦闘車(RCV-H)が戦車の役割を行うことになっています。MPF(機動防護火力)というひと昔前の軽戦車のようなカテゴリーも登場しています。
しかし戦車を軽視しているわけではなく、現在のM1A2「エイブラムス」戦車は延命改修して2050年まで使おうと計画されています。同戦車は制式採用された1981(昭和56)年以来、これまで7年から8年というスパンで改修が行われてきました。その現行最新版であるSEPv3(システム拡張パッケージ バージョン3)が登場したのは2015(平成27)年ですので、そろそろ次の改修が行われてもよい時期です。
そうしたなか、2022年10月10日から12日にかけ開催されたアメリカ陸軍協会年次総会「AUSA2022」で注目されたのが、ゼネラルダイナミクス・ランドシステムズ(GDLS)の「エイブラムスX」です。同年6月にパリで開催された国際防衛安全保障展示会「ユーロサトリ」にてヨーロッパメーカーから出展された未来的フォルムの新型戦車へ対抗するように、同時期に思わせぶりな画像をデイザーサイトに公開していたもので、この「AUSA2022」にて初めて全容を明らかにしました。
「エイブラムスX」はGDLSの技術実証デモンストレーターであり、改修タイミングを狙って公開されたのは間違いありません。
既存車両の改良型がネット上に…開発進行中
「エイブラムスX」が派手なデビューをした傍ら、同年10月6日、テキサス州フォートフッドに拠点を置くアメリカ陸軍第1騎兵師団第1機甲旅団戦闘団の第12騎兵連隊第2大隊の公式Facebookページに、次世代M1A2といえるであろうSEPv4プロトタイプと思われる写真が初めて投稿されました。
アメリカ陸軍第1騎兵師団第1機甲旅団戦闘団の第12騎兵連隊第2大隊の公式Facebookに投稿された、M1A2 SEPv4のプロトタイプと思われる車両の写真。
その写真を見ると、車体右側の前端部に「M1A2 SEPv4」と記され、さらに車体の各所に「PV05 SEPV4」とあり、アリゾナ州の米陸軍ユマ試験場でテストが行われている時のものと思われます。この投稿は削除されたものの、その内容や写真はすでに広く拡散しています。
写真から、外見はSEPv3との違いはあまりないようですが、国防総省の運用試験評価局長室が昨年発表した報告書によると、SEPv4のおもな仕様は以下のようになっています。
・第3世代前方監視赤外線(FLIR)センサー、改良型レーザー測距機、フルカラービデオカメラを搭載した改良型砲手用サイト(GPS)の搭載。
・第3世代FLIRとフルカラービデオカメラ、レーザーポインターとレンジファインダーが搭載された車長用サイト(CPS)の搭載。
・再プログラム可能な新型XM1147高性能多目的(AMP)弾とデジタルデータリンクできる機能を120mm主砲に追加。
・命中精度向上のため、データを収集できる新しいオンボード気象センサーを搭載。
・通信、データ共有、車載自己診断システムのアップグレード。
以上はSEPv3にも搭載されていた機能のバージョンアップで、SEPv4はこのほか、生存性向上のため新たに対戦車ミサイルなどのレーザー照準を検知するレーザー受信警報(LWR)システムを搭載します。
なお、車長用と砲手用サイトのセンサーシステムは、F-35戦闘機にも採用されている電子光学ターゲティングシステム(EOTS)の流用とされています。
またSEPv4の開発とは別に、既存のM1A2に対戦車ミサイルを迎撃するトロフィーアクティブ防御システム(APS)を搭載する作業も行っており、爆発反応装甲(ERA)キットも用意されています。さらに、増える電子機器や電源から発生する熱を抑制する統合熱管理システム(ITMS)が追加されます。
中身を別物にしてM1「エイブラムス」は半世紀現役へ
M1「エイブラムス」戦車の改修は、システム拡張パッケージ(SEP)のバージョンアップという形式で、主にソフトウェアが中心になります。主砲や機関系に大きな変化は無く、外見上あまり変わらないように見えますが、中身は全く別物になり戦闘力は各段に向上しています。
現行最新型SEPv3の、プロトタイプテスト時の姿。砲塔前部に新型装甲の代りにカウンターウエイトを取付けている(画像:アメリカ陸軍)。
SEPv4は2017年にレイセオン社が試作改修案の契約を結んでおり、2025予算年度の配備、2026予算年度の戦力化を予定しています。プロトタイプのテスト開始時期は不明ですが、2022予算年度は9月30日で終了しているにもかかわらず、Facebookの投稿をみるにテストはまだ行われているようですので、その納入は遅延していることがうかがえます。
GDLSが発表した「エイブラムスX」は、このSEPv4の特徴をおさえ、さらに軽量化、乗員数の削減、燃費を向上させるハイブリッド駆動システムを搭載しています。今後の世界の戦車市場環境の変化を見据え、単にシステム拡張パッケージのバージョンアップに留まらず、ハードウェアも根本的に改修することでヨーロッパメーカーとも対抗しようという意思のあらわれと見られます。
アメリカ陸軍は2021年時点でM1A2を1995両、運用しています。現在のSEPv3改修は2017予算年度から執行され、2019予算年度に最初の24両が納品されています。予算要求は毎年継続されており、2022予算年度には累計483両のSEPv3が完成します。さらに承認された予算で2024予算年度までに累計674両が完成することになっています。それでもまだ1300両以上がSEPv2のまま残っていますので、SEPv4の開発が予定通り進めば、2023予算年度か2024予算年度よりSEPv4への改修も同時に進められていくようです。
ただし、上記のようにSEPv4の計画はやや遅延気味で、予算の制約もありますので、M1A2全数がSEPv3とSEPv4になるかはわかりません。制式採用の1981(昭和56)年から2050年まで半世紀以上使い倒されるM1「エイブラムス」。いったいバージョンはいくつ積み重ねることになるのでしょう。