声優・内山昂輝が『ヒロアカ』で感じた「原作が週刊連載中のアニメに出演する醍醐味」とは?
堀越耕平氏の同名コミックが原作の人気アニメ『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)。待望の第6期シリーズが放送スタートしたことを記念して、主要キャラクターを演じる声優たちの連続インタビューが実現! 第4弾はヒーローたちを脅かす敵(ヴィラン)を代表するキャラクター、死柄木弔(しがらきとむら)役の内山昂輝さんが登場する。
■ヒーローのように、死柄木も戦いによって成長した
――死柄木弔は作中では初期から登場しており、主人公・緑谷出久の宿敵といえる存在になりました。演じていくうえでキャラクターの印象に変化はありますか?
内山 ヒーローたちと同じように、死柄木にも成長は感じます。雄英高校の生徒たちに比べると、彼は年上なんですよね。冷静に作戦を考えられる頭脳がある一方で、初期の頃は言動に幼稚な部分も混在していました。
――実際に戦ったオールマイトからは、「幼児的万能感の抜けきらない、子ども大人」と評されていました。
内山 最初は僕自身も、そういったところを意識して演じていました。でも、死柄木たちの狙いが完璧に成功することはなく、組織を大きくする必要に迫られていく中で、彼の内面も変化していったように感じます。もともとはワガママで、人を率いるタイプには見えなかった。それが6期では超常解放戦線という約11万人の構成員を抱える組織のトップまで上り詰めました。
内山昂輝さんが演じる死柄木弔
――そこまで成長した死柄木のターニングポイントは、どこにあったと感じていますか?
内山 ここっていう明確なところがあったわけじゃなく、「先生」(ヴィラン)側の黒幕であるオール・フォー・ワン)が捕まった神野の事件や、自分たちを利用しようとした死穢八斎會(しえはっさいかい)とのやり取りだったり、それこそ5期で描かれた異能解放軍との抗争だったりと、ひとつひとつの戦いが死柄木弔の成長にとっては重要だったと思います。
――ヴィランではあるんですけど、ヒーローと同じように戦いを通じて成長していったというか。
内山 まさにそのとおりです。死柄木はヒーローを倒して世の中を変えたいと思っているんだろうけど、最初は組織も小さくて思うようにいかないことが多かった。しかし、試行錯誤を重ねて、彼も学習していったのだと思います。
■壮絶な過去を知ったことで「演じ方も変わりました」
――以前、「死柄木は顔が見えないところが演じる側にとっては難しい」とおっしゃっていましたね。
内山 初期の死柄木は顔を「手」で覆っていたデザインだったので、表情が見えなかったんです。感情の動きを察する手がかりが少ない分、セリフの言い方の自由度は高くなるんですよ。それに口パクの動きすら見えなかったので、セリフの長さも他のキャラクターと比べると厳密に決められていない。そこには楽しさもある反面、難しさも感じていて。
――それが最近では顔を見せるデザインに変わってきたことで、演技のアプローチも変わりましたか?
内山 かなり変わりました。作中では1年くらいしか時間が流れてないですけど、放送期間としてはもう6年以上ですよね。僕自身の声も変わっているし、初期の頃とはアプローチの仕方が全然違っています。オールマイトに評された「子ども大人」というのが死柄木の典型的なイメージでしたけど、最近はそれを意図的に消す方向で演じています。
段々と「子ども大人」の「大人」の比重を大きくしているというか。言葉の雰囲気を重く、硬くするようにしています。
――死柄木の過去とは、幼いときに自身の"個性"の暴走によって家族を殺めてしまったという壮絶なエピソードでした。
内山 「こんな悲惨なことがあったのか」と驚きました。原作で読んだときは本当につらい気持ちになりましたし、少年少女もたくさん読むであろうマンガ雑誌で、かなりハードなことを描こうとしているとも感じました。
週刊連載を追いかけるようにアニメ化は進んでいきますから、最初に死柄木を演じたときは当然ですけど、彼の過去を知らないでやっていたわけです。自分が演じているキャラクターの過去があとからわかって、それを頭に入れたことでキャラクターの全体的な印象も変わってくる。不思議な気分ですけど、それは連載中のマンガをアニメ化する醍醐味でもあると思います。
■『ヒロアカ』のヴィランの魅力とは
――内山さんは死柄木を演じる中で、ヴィランの発言や行動に思わず共感してしまったことはありますか?
内山 彼らのやっていることを一般的なモラルの観点から肯定することは難しいですけど、5期では、死柄木以外にもヴィランの過去が描かれる展開が続きましたから、彼らのこれまでを知ると、ヴィランも人生のどこかで、ボタンの掛け違いが良い方向へあれば、今とは違った道を歩んでいたんじゃないかって。
例えば、死柄木だってオール・フォー・ワンじゃない人に出会っていれば、雄英高校でデクや爆豪と同じようにヒーローを目指していたかもしれない。そういう「あのとき、もしも......」っていう運命の呪いみたいなものをヴィラン側のどのキャラクターからも感じるんです。だから、共感というと違うのかもしれないけど、ヴィランにはなんとも言えない複雑な思いを抱いちゃいます。
――内山さんからみて、『ヒロアカ』のヴィランの魅力とは?
内山 原作を読んでいると、堀越さんはもしかしてヴィランを描くのがかなり好きなんじゃないかなと思うことがあります。どのヴィランの描写も、ヒーロー側と同等にすごく力が入っていますよね。絵はもちろん設定とか、キャラクターの奥行きの作り方も、筆が乗っている印象を勝手に受け取っています。
そのうえでヴィランの魅力は......やはり現実社会のモラルとか、当たり前とされている既存の価値観を壊そうとしている感じが、ある種の爽快感を生んでいるのかもしれない。人がアンチヒーローに惹かれる要素が、『ヒロアカ』のヴィランにはあるのだと思います。
――では反対に、内山さんにとってヒーローとは?
内山 月並みな言い方ですけど、心の拠り所ですかね。自分がリスペクトできる対象であり、なにか悩んだ時に「あの人ならどうするだろう」と思い浮かべる人。自分にとって行動の指針となるような存在だと思います。
――そう考えると、死柄木にとっては「先生」と慕うオール・フォー・ワンこそがヒーローだったのでしょうか。
内山 状況を見るとそうかもしれないけど、ただ、死柄木には先生しかいなかったわけですよ。家族を失い、世間は誰も助けてくれない中で、先生だけが手を差し伸べてくれた。だから、行動の指針になるヒーローというよりは、自分を支えてくれた貴重な存在だったんじゃないでしょうか。
■6期は「最初から最後までフルスロットル」
――『ヒロアカ』のキャストのみなさんは一つのチームのようになっていると伺っていますが、ヴィランを演じている死柄木さんは、アフレコ現場ではどのような立ち位置ですか?
内山 死柄木はこれまで絶えず出番があったわけじゃないんですよ。ヴィランなので、体育祭や文化祭のような学園パートではほとんど出てきません。だから、雄英高校のキャラクターを演じている方々が一つのチームだとすると、それを隣のクラスの話のように聞いている立ち位置というか(笑)。
実際、ほかのお仕事で関係者に会ったときに、今のアフレコ状況を聞いて、「その辺りの展開ならしばらく出番はないかな」って確認することもありました。もちろん、『ヒロアカ』に限らず、ずっと一緒に仕事をしてきた業界の仲間ですから、協力していい作品にしていこうっていう意気込みは共有できていると思います。
――6期の全面戦争では死柄木がヴィラン側の中心人物となります。どういったところに注目してほしいですか?
内山 5期の死柄木はパワーアップするための手術を受けるところで終わりましたが、6期も最初の時点ではまだその最中です。でも、彼が目覚めるときにはヒーロー対ヴィランの戦況が一気に変わります。だから、僕自身としても死柄木が手術を経てまたさらにレベルアップした感じを表現できたらと思っています。
『ヒロアカ』は長く続いてきたアニメですから、6期では世界観やキャラクター設定はもう知っていただいているという前提のうえで、最初からクライマックスに突入していきます。そこから最後までフルスロットルで視聴者のみなさんを引っ張っていくので、ぜひ毎週楽しんでいたただきたいです。
■内山昂輝(うちやま・こうき)
8月16日生まれ。埼玉県出身。幼少期より子役として、テレビドラマへの出演や海外ドラマの吹き替えなどで活躍。主な出演作に『僕のヒーローアカデミア』、『呪術廻戦』(狗巻 棘)、『機動戦士ガンダムUC』(バナージ・リンクス)、『風都探偵』(フィリップ)など。最新情報は、事務所HPをチェック!(https://profile.himawari.net/view/1559)
取材・文/小山田裕哉 撮影/持田 薫