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スターバックス(Starbucks)の店舗環境は、昔からのレイドバックした(くつろいだ)雰囲気から、今後数年間で、様相が変わるだろう。コーヒーチェーン店である同社は、より迅速に、よりデジタル空間に対応し、外出中の消費者に対してより投資することを目標としているからだ。スターバックスは9月13日、北米の店舗で「より効率的」に、「複雑性を低減」するため、来年4億5000万ドル(約644億円)を投資することを発表した。また同社は、2025年までに米国の店舗数を2000店舗増やし、カフェや、店頭受け取り、ドライブスルー、デリバリーに業務を拡大することを計画している。「当社のパートナーは、我々により多くを期待するようになってきた。顧客もまた、我々により多くを期待するようになってきた。そして、この期待に応えるため、実店舗の現代化が必要なことは明白だ」と、北米グループのプレジデント兼最高執行責任者を務めるジョン・カルバー氏はプレスリリースで述べている。

「サードプレイス」からの移行

コロナウイルスの大流行が引き金となり、自宅待機の注文や店舗の閉店を促した2020年以降、消費者のコーヒー習慣は大きく変化した。今日の顧客は、事前注文や、カーブサイドピックアップ、配達など、対面でのやり取りがあまり行われないサービスを多用するようになってきた。スターバックスは、人々の仕事や社交のための広くて快適な場所を何十年にもわたって提供し続けてきたが、このような小売モデルについては、店舗の編成やマーケティングの方法の再考が必要となってきている。そのため、同社が掲げている「サードプレイス」、すなわちオフィスと自宅の中間の第3の場所になるという小売コンセプトは、カフェのビジネスモデルにはあまり当てはまらなくなりつつある。「スターバックスだけでなく、それ以外のチポトレ(Chipotle)や、バーガーキング(Burger King)などがすべて、QSR(クイックサービスレストラン)体験を支えるテクノロジーを強化し、より顧客の利便性を上げようとしている」と、ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるカッシー・ソチャ氏は米モダンリテールに語った。ガートナー社のディレクター・アナリストであるカッシ・ソチャ氏は、Modern Retail 誌に次のように語っています。「スターバックスだけでなく、チポトレやバーガーキングなど、QSR 体験を支える技術を強化し、顧客にとってより便利にするための多くの変化が見られると思います」。スターバックスは8月に行われた第3四半期の決算発表で、前年同期比9%増の82億ドル(約1兆1700億円)の収益を報告した。特に北米において、同社は平均チケットが8%も増加している。また同社は、9億1300万ドル(約1310億円)の純利益を計上した。同社は先週、長期業績予想を上方修正し、2023年度から2025年度にかけて、全世界での収益が10〜12%増加すると予想している。同社はこの要因のひとつとして、パートナーとの連携、デジタルプログラム、商品のイノベーションの強化をあげている。

運営上の大きな変更

スターバックスは現在、ドリンクのなかでも、特に夏場の顧客の注文の8割を占める冷たいドリンクを簡単かつ迅速に準備できるようワークスペースを再編成している。同社の新しい「サイレンシステム(Siren System)」では、ミルクや氷などの材料をカウンターの下ではなく上に配置するため、バリスタは腰を曲げずにドリンクを用意できるようにした。また、食品を個別ではなく、まとめて加熱するオーブンを使用することで、下ごしらえに必要な時間を短縮している。同社の新しい技術「コールドプレス・コールドブリュー(Cold Pressed Cold Brew)」により、ドリンクをわずか数秒で提供でき、材料を最高で20時間蒸らす必要がなくなった。「これは、店舗の前年比売上額で2ケタ成長を続けるための有効な戦略だ」と、D2Cブランドと協力している小売コンサルタントのレベッカ・コンドラット氏は米モダンリテールに語った。コンドラット氏は2004年から2009年までスターバックスで勤務し、最初はバリスタ、後にスーパーバイザーやマネージャーとして活躍した。「何がうまく働くか、どこに利益があるのかを見ると、もっとも利益率が大きいアイテムは、作るのに長い時間を要する特製ドリンクだ」。「効率と技術を導入し、これらの商品を迅速に作り上げることは、時間やコスト、株主への配当という観点からも、非常に理にかなっている」と、同氏は付け加えた。スターバックスは、レストラン業界の多くの同業他社と同様に、待ち時間は収益に影響するということを理解しており、可能な限り多くの顧客に対応するために、オペレーションのスピードアップを望んでいる。シーレベルHX(SeeLevel HX)による最近の調査では、ドライブスルーで待ち時間が30秒増えると、あるレストランでは、12カ月で最高3万2091.33ドル(約459万円)の損失が発生する可能性があるという。デジタル面では、モバイル注文を強化し、空港や食料品店など、より多くの場所にサービスを広げようとしている。同社はリワードプログラムに、Web3テクノロジーを活用した拡張機能を追加する。さらに、ドアダッシュ(DoorDash)と提携し、全米で宅配サービスを拡大している。

「オフプレミス」を基軸にした新小売モデル

これらの変更は、スターバックスの小売戦略の大きな移行を示すものだ。同社は数十年にわたって「サードプレイス」の代表的存在だった。この用語は、人々が仕事と自宅との中間で時間を過ごす場所を示すものとして、社会学者のレイ・オルデンバーグ氏によって作り出されたものだ。同社は現在、「あらゆる場所で顧客と結びつきを持つ」ために「サードプレイスでの体験を実店舗以外にも拡大する」過程にある。この新しい環境で、スターバックスは、「よりゲストセントリック(顧客中心)になる」と、カンター(Kantar)のグローバルコマースエキスパートであるバリー・トーマス氏は米モダンリテールに語った。「同社は顧客中心主義を忠実に守っており、その多くはオフプレミス(店舗外)で行われている。顧客はスターバックスを訪問して、飲み物を買い、デジタルドライブスルー、配達のいずれかの方法で受け取り、出ていく。オフプレミスはレストランのもっとも急速に成長している分野のひとつだ」。「小売店やレストランが実店舗で何をしているかを見てみると、その主な目的は、流通仕様、つまりフルフィルメントセンターになっている」と、同氏は付け加えている。スターバックスはすでにかなりの期間にわたって、この方向への移行を進めてきた。同社は2020年、今後18カ月で米国内においてドライブスルーやカーブサイドピックアップなど「利便性を重視したフォーマットを増やす」と発表した。「アンビエント・コーヒー」と呼ばれるモデルを採用するコーヒー・コンセプトも増えていると、トーマス氏は指摘している。ニューヨークで創業され、最近ロンドンに進出したブランクストリートコーヒー(Blank Street Coffee)は、店舗スペースがニューヨークの平均的なコーヒーショップの半分のサイズだと語る。同じニューヨークのアバウトタイム(About Time)は、モバイルファースト世代を意識して、「直感的な注文、カスタマイズオプション、迅速な受け取り」のすべてを提供しているという。コカ・コーラ(Coca-Cola)のコスタコーヒー(Costa Coffee)は、完全自律型のコーヒー自動販売機を構築している。「コーヒーの世界を見渡せば、すべての業者がコーヒーの行く末を考えてこの道をたどっているとわかる」と、トーマス氏は説明している。

雰囲気より効率を重視する顧客

同様に、スターバックスの場合、「体験の中心になるのは、雰囲気ではなく、効率性だ」とコンドラット氏は述べている。「スターバックスがまったく新しい顧客と結びつきを持つことができる世界が実際に存在すると思う。その新しい顧客は雰囲気を重視しないだろう。このような顧客が重視するのは、コーヒーを注文できるか、すぐ飲めるか、そこに行くまでのあいだに準備ができているか、ということだ」。それでも、これが、サードプレイスの終わりを意味するものだとコンドラット氏は見なしていない。「サードプレイスには、オフィス空間の一部としてのニーズはまだあると思う」と、同氏は述べている。「振り子は片方に大きく振れた。そして今度は、その振り子が反対側に戻りつつある。オフィス文化は永久的に変化したと思う。しかし、職場でも家庭でもない、そして生産的な気分になれる場所は、依然として求められ続けると、私は考えている」。[原文:As Starbucks changes its growth strategy, the ‘third space’ café model fades from view] JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)