小池都知事に振り回される夜の歌舞伎町 「やっている感」しかない見回り隊の声かけも - 國友公司
※この記事は2021年04月29日にBLOGOSで公開されたものです
3度目の緊急事態宣言でも、都の対策やマスコミの注目が集まる新宿・歌舞伎町。現地に住むライターが夜の歌舞伎町の現在をレポートする。
「歌舞伎町に小池百合子がやってくる?」
4/23金曜日の20時半、2日後から3度目の緊急事態宣言を迎える歌舞伎町の路上は人であふれかえっていた。というのも、ある報道が拡散され、歌舞伎町の住人間でひとつの噂が出回ったのである。以下は同日の15時頃、「朝日新聞DIGITAL」が報じた内容の一部だ。
小池百合子知事は23日、定例の記者会見を開き、繁華街近くの公園や路上で飲酒するグループがあとを絶たないことを受け、都職員や警察が合同で見回りをすることを明らかにした。(中略)都によると、23日午後8時半から、新宿区の歌舞伎町周辺で、都や区、警察や消防の職員で編成されたグループで、見回りをして呼びかける予定という。
このニュースにより街では「歌舞伎町に小池百合子がやってくる」と噂になった。筆者も20時半から歌舞伎町をうろつくも、結局やってきたのは警察と都の職員や消防庁で編成された見回り隊のみだった。
「早めに帰りましょう・路上飲みやめて」と書かれたボードを両手に持ち、都の職員がシネシティ広場に整列している。はじめは、「何か始まるのか」と動画を回したり、配信をしたりと見物客で人だかりができたが、いつまでたっても都の職員が棒読みの声で帰宅を促すだけ。しばらくすると耳を傾ける者はいなくなり、彼らを見ているのはマスコミのビデオカメラのみになっていた。
また都のビブスを着た職員たちは、シネシティ広場で路上飲みをする若者たちに、「路上飲みを止めていただくよう、宜しくお願いいたします」と注意して回っていた。しかし、この時期に歌舞伎町で路上飲みをする若者たちが、どんな若者たちなのか考えてみてほしい。全員がそうというわけではないが、家や学校や社会に居場所を持てずに歌舞伎町にやってきては、気の合う仲間と時間を過ごす――。そんな若者たちが普段は歌舞伎町にまったく来ないだろうスーツとネクタイを締めた真面目そうな都の職員に、棒読みで「帰りましょう」と言われたところで、何の意味もなさないということがわからないのだろうか。
つまりは小池都知事の目的は、路上飲みの削減ではなく「何かやっている感」を出すことなのである。世間に「何かやっている感」を見せるためには、とりあえず歌舞伎町を悪者にしておけばいいだろう――。仮にそのような意図がないとしても、これではそう受け取られてしまってもしょうがない。筆者は歌舞伎町に住んでいるため連日歌舞伎町に住む人々と会話をするが、少なくともそう思っている住人は多いはずだ。毎日、ひしひしとその思いを感じる。
歌舞伎町の上空にはヘリコプターが飛んでいた
4/25日曜日、緊急事態宣言初日の夜、歌舞伎町の上空にはヘリコプターが2台飛んでいた。都はこの日から酒類やカラオケ設備を提供する店に対して休業を要請。それ以外の飲食店については20時までの短縮営業を要請した。小池都知事は以下のように「ネオン自粛」の計画も語っている。
午後8時以降、街頭の照明を伴う明るい看板、ネオン、イルミネーションなども停止をしていただくようにお願いする。夜は暗い。街灯のみが灯るということに結果としてなると思う。街灯を除いて、すべての明かりも消すように徹底していきたい。このあと関係団体に、協力いただくよう要請していきたい(小池都知事)。
街の明かりが一斉に消える瞬間を収めようと、マスコミがヘリコプターを用意したというわけだ。しかしすべてのネオンが消えるわけもなく、「歌舞伎町一番街」も「さくら通り」も、看板の明かりは付いたままだった。
金曜日よりは明らかに人出は減ったものの、路上飲みをしているグループもいくつか。「お姉さん、これからどこに行くの?」「お姉さん、初回ホスト行かない?」と道行く女性に声をかけるスカウトマンとキャッチも多数。21時を過ぎた時点での話なので、酒を提供するホストクラブが20時を過ぎても営業していることになる。
「性風俗営業は社会一般の道徳観念に反するもので、国庫からの支出は国民の理解を得られない」と性風俗店は持続化給付金と家賃支援給付金の対象から除外された。歌舞伎町の風俗案内所に長年勤める男性はこの日の歌舞伎町を振り返る。
今日はヘリがたくさん飛んでいたけど、報道陣さんたちはいい画が撮れたんですかね。靖国通りにもネオンが消えるのを心待ちにしているカメラがありましたが、残念でしたね。ヘリまで飛ばして僕たちの街を見世物にして。この街で働いてこの街で生活している人間も大勢いるってことを忘れないでほしい。
月曜日で人がいないのか、ただいないのか……
月曜日ということもあるかもしれないが、前日と打って変わって26日の歌舞伎町は人出が一気に減り、休業もしくは20時で閉店する店がかなり多くなった。シネシティ広場で路上飲みをする若者は多少いるものの、数は減っている。居酒屋を中心に客引きをする70代の女性はこう話す。
普段は数十軒紹介できる居酒屋も今日はたったの2軒しか紹介できない。ほかは全部休業か20時に閉めちゃったよ。一番街のネオンも今日は消えちゃっているし、やっている店がないんじゃどうにもならないよ。月曜日というのが原因ならいいんだけどね。そう願うしかないよ。
また、歌舞伎町の花道通りで声をかけてきた客引きの男性は、「大変なのは風俗店ですよね」と街の内情を教えてくれた。
闇スロ・インカジはどこも営業してますけど行きませんか? 元々が非合法なんだから、こっちは緊急事態宣言とかまったく関係ないですから。客が来るか来ないかは別として、ホストやキャバクラは営業しているところは多いです。でも居酒屋は20時以降ほとんどやっていない。風俗店は街に飲みに来る男性が減れば当然客入りも減ります。となると休業するしかないけども、国からの補償は何もないですからね。
都の対応やマスコミの報道次第で大きく様子が変わる歌舞伎町。明日はどんな街になるのかは住人もわからない。歌舞伎町の暗く長い17日間が始まった。