バイデン氏からも「支持」得られず東京五輪に黄信号 中止か、開催か、政権へのダメージは - 大濱粼卓真
※この記事は2021年04月25日にBLOGOSで公開されたものです
バイデン米大統領にとって初となるホワイトハウス外交であり、菅総理にとっても初となる日米首脳会談が16日(米国時間)に行われました。報道では、数十年ぶりに触れられた「台湾」記載や、インド太平洋地域の平和に関する中国の記載に多くの注目が集まりましたが、一方で今年夏に延期されている東京五輪に関する両首脳の温度差も浮き彫りとなりました。国際世論が確実に「開催中止」に向かっている中、菅政権はどのように東京五輪問題の落としどころを見つけるつもりなのでしょうか。
菅外交の弱さが露呈した日米首脳会談
コロナ禍にもかかわらず菅総理がコロナウイルスの予防接種までして米国を訪問する形で行われた日米首脳会談は、バイデン米大統領にとって初となるホワイトハウス外交というだけでなく、日本にとっても本格的なホワイトハウス外交の最初の相手に同盟国日本が選ばれたという点において重要なイベントでした。昨年来、諸外国のほぼ全ての外交がテレビ会議方式で行われる中、対面方式で行われる首脳会談によって首脳間が親密な関係を醸成したり、モニター越しには伝わりにくい温度感を伝えることができるという面において、よりよい成果も期待されるところでした。
今回の日米首脳会談の第一義的な目的は、何より強固な日米同盟の軸となっていた「安倍・トランプ」ラインから「菅・バイデン」ラインを引き直すことができるかという点だったはずです。派手さを好む「安倍・トランプ」ラインから、実務的だとされる「菅・バイデン」ラインへのスイッチのためには、両者間で信頼関係がどこまで築けるかというのが大きな課題でした。
首脳会談の日程が、従来予定されていた日程から急遽1週間後ろ倒しになったのも、菅総理がワクチン接種直後に渡米するという日程を健康面から念のため避けた説や、首脳間の会食実施可否といった調整に時間が取られた説など諸説が出回っていますが、いずれにせよロジ周りでの調整に時間が足りず、急遽延期をしたことは間違いなさそうです。
二階氏の「開催中止も選択肢」発言は予防線?
紆余曲折はあったものの無事に開催された日米首脳会談でしたが、結果的に今回の会談が日本に何をもたらしたのでしょうか。
日本としてはこの日米首脳会談の最大の目的が、「菅・バイデン」ラインの確立であったことは間違いないでしょう。では、その目的の下、具体的に置いていた外交成果の目標は何だったでしょうか。
それは他でもない「東京五輪の成功に向けた開催に対する支持ないしは保証」でしょう。開催の最終的な判断はIOCや組織委員会が行うはずですが、一方で主要国の意向、とりわけ米国の意向が重要であることは当然です。主要国が選手団派遣を見送ることがあれば、五輪開催の機運は急激にしぼみ、結果的に開催中止は不可避となります。
まずは大国であるアメリカの支持を取り付けることにより、欧米の足並みを揃えることによって東京五輪の開催を確実なものにしたかったのが日本側の思惑でしょう。しかし、結果的に米国側はそういった回答に真正面から応えることはなく、あくまで開催の努力を支持(expressed his support for this determination.)という表現にとどめました。日本側の目論見は外れたことになります。
この目論見が外れることを予期して、菅総理の渡米直前には二階自民党幹事長が「開催中止も選択肢」と発言する動きがありました。バイデン米大統領から「開催を支持(保証)」という言質が取れないとロジ交渉で決定したことを受けて、国内からの非難を最小限にとどめるための予防線を張る動きだったことがわかります。
五輪中止は政権にダメージを与えるのか
筆者は、最終的には国際世論によって主要国の選手団派遣中止が決まることで、開催中止せざるを得ないシナリオが濃厚になってきていると感じています。今回、米国側が開催を支持もしくは保証する言質を与えなかったことは「保留」であり、最終的な決断は5月中旬から下旬になるはずです。
具体的には、トーマス・バッハIOC会長の来日の前ではないでしょうか。来日スケジュールの調整案では「5月17~18日」とされており、広島における聖火リレーの式典と、東京における菅総理、橋本組織委員長、小池都知事らとの面会がセッティングされる見込みとされています。この会談の後に中止となれば、バッハ会長の聖火リレーの式典参加が無意味に終わり面目丸潰れになることや、IOCに対する批判も強まることが懸念されるため、中止となればその意思決定はその直前までに行われるはずです。
もっとも、この時期に国内におけるコロナ感染が広がりを見せていれば、会長の来日を延期するなど再度「保留」することもできるかもしれませんが、残り2ヶ月という中での意思決定に諸外国がしびれを切らして「選手団派遣見送り」を表明することも十分に考えられます。
最終的に「五輪中止」は、政権にどのようなダメージを与えるのでしょうか。二階自民党幹事長が「開催中止も選択肢」と発言したことは国内外で驚きをもって迎えられましたが、特に国内報道では与党議員らにおいて多少の混乱は見られたものの、国内世論的には「そりゃそうだよね」という雰囲気すら漂ったのもまた事実です。
また、昨年東京五輪の延期を決めた(安倍)総理と、今の(菅)総理が別の人物であるということも重要です。1年前の「延期」決定時に「中止」を決められなかったのか、などといった指摘も考えられますが、それでも最終的に国際世論に押される形ではなく「政府与党」が自ら意思決定する形で東京五輪開催中止を決めれば、ダメージは最小限にとどまる可能性があります。
一方、国際世論によって押し切られる形での東京五輪開催中止は、国内世論も含めた政府与党への不信に繋がる可能性が高いでしょう。聖火リレーなど具体的な五輪イベントも見切り発車した中での中止は経済的なダメージも大きくなる可能性があります。オプションとして「再延期」という可能性も否定はできませんが、いずれにせよ国際世論と政府の論調とに大きな摩擦が生まれる形での開催中止は、政権にとってもダメージになるでしょう。
最後に、ここから1ヶ月でどのように東京五輪を(開催であれ中止であれ)ソフトランディングさせられるかが、政権にとってのダメージに直結すると言えます。いずれにせよ半年以内には衆院総選挙がある中で、菅総理の総裁続投を見据えればここで判断を誤ることは厳しい結果をもたらすと言わざるを得ません。五輪候補地選定では国内世論の後押しの有無も選定評価ポイントの一つでしたが、開催地が決定されている今、この国内世論を無視した開催強行ではなく、誰もが納得する形での軟着陸を選択できるかどうか、国内外の厳しい視線が注がれていると思います。