マクドナルド、ワタミの取り組みにヒント?正念場を迎える対消費者ビジネスのニューノーマル対応とは - 大関暁夫
※この記事は2021年04月17日にBLOGOSで公開されたものです
コロナ禍で対消費者ビジネスには明暗
コロナ禍の我が国で、最初の緊急事態宣言が出されたのが昨年4月7日でした。あれから1年。自動車産業を中心とした我が国の製造業は、自社のコスト圧縮や効率化に向けた努力と中国、米国といった大国経済の復調により、昨秋以降急激な回復基調に転じています。
BtoBビジネスは、世界における「ものづくり日本」の立ち位置の確かさにも支えられ、コロナ禍にあって新たな安定状態に行き着いた感が漂います。
対して国内でコロナと戦う対消費者ビジネス(BtoC)は、回復基調にある企業といまだどん底であえぐ企業のまだら模様にあるようです。コロナ禍の対消費者ビジネスにおける明暗の実情と、その行方を探ってみます。
ビジネスの新たなステップ突入を象徴する「ニューノーマル」
振り返ると、昨春は「ステイホーム」なる新用語が一躍主役となり、何を警戒していいのやらまだまだ暗中模索状態の中、ほとんどの対消費者ビジネス業種は休業状態となりました。
食品スーパー等生活必需品を扱う店舗を除き、小売・サービス業はほぼ全業種で休業。飲食店は20時閉店を基本とする時短営業。人が集まる興行、イベントも軒並み中止を余儀なくされ、プロ野球やサッカーJリーグなどは、開幕が6月に遅れ開幕後もしばらくは無観客開催となるなど、あらゆる対消費者経済活動がストップしました。
5月25日に最初の緊急事態宣言が明け、前後してステイホームの次に登場した新用語が「ウィズコロナ」と「ニューノーマル」でした。
ステイホームは経済活動の基本停止を意味し、「とにかく、じっと息を殺してコロナが過ぎ去るのを待て」的な意味合いでした。
対して、ウィズコロナ、ニューノーマルは、この先続くコロナ禍の中で感染を抑えながら、いかにビジネスをつくっていくのかを意味しているわけです。
すなわち、緊急事態宣言が解除されたものの、それはコロナ終息ではなく一時的な感染停滞を意味しただけと誰もが理解しており、特にニューノーマルはコロナ禍のビジネスが新たなステップに入ったことを象徴する用語だったと言えます。
"徹底したコロナ対策"だけでは回復が見込めない業種も
ニューノーマルの代表例は、来店・来場を伴うビジネスにおける「徹底したコロナ対策」の実施でしょう。すなわち、入場時の検温、消毒、店員・来場者間のアクリル板等での非接触処置、空間人数制限等がそれです。
この1年で業種を問わずこの「徹底したコロナ対策」に本気で取り組まない企業は、既に論外扱いが常識となった感が強いですが、この取り組みを真摯に押し進めることで一定の回復をみた業種とそうでない業種があるのも事実です。
例えばイベント関連事業は、緊急事態宣言の有無に関わらず入場人数制限を継続し、2回目の緊急事態宣言下においても事業の継続が可能になり、一定の業績回復につながっています。
しかしながら、本格的な回復にはまだ遠く、今も続くマイナス分の埋め合わせをいかにするかがポイントです。そのような中、「オンライン化(参加)」というニューノーマルは大きな武器であり、今後これをリアルといかにバランスさせていくかが課題かと思います。
一方「徹底したコロナ対策」だけでは回復が見込めない業種の代表は、利用・来場を大前提とする大きな償却資産を持つ装置産業の類です。
例えば運輸・航空業やホテル・旅館業。これらの業種は人が移動してくれないことにはどうにもならず、かといって容易に償却資産を手放すこともできず。「徹底したコロナ対策」に取り組んでもサービスの「オンライン化」ができるわけではないので、利用・来場者の減少状態が続く限り業績回復は見込めません。
GoToトラベルは危機的状況を凌ぐ支援策に過ぎない
その意味では、一部で特定業種優遇との批判がある国の支援策「GoToトラベル」も、装置産業としては過渡期の一定期間を乗り切るために必要であろうと思えます。
しかし、昨夏以降「GoToトラベル」の実施で一時回復基調にあった運輸、航空、ホテル・旅館業界ですが、第三波の到来による二度目のコロナ緊急事態宣言であえなく再度低迷しています。
これら装置産業に関しては、人の移動が以前の水準に戻る見込みがない今、現業にこだわっていても業績の回復は見込めません。海外渡航の回復はおろか国内の観光・ビジネスの移動も当面最小限に抑えられた状態が、続いていくことが想像に難くないからです。
「GoToトラベル」はあくまでつなぎの支援策にすぎません。冷酷な言い方ですが、緊急融資等で確保した流動性資金が続く間に資産の圧縮をすすめ、蓄積ノウハウを活かし脱装置的ビジネスのソフト化を本格的に検討しないことには、早晩経営危機への直面が避けられないのではと考えます。ハードルは高いですが、残された時間は決して多くはないでしょう。
飲食店の苦境打開にマクドナルドの取り組みがヒントに
対消費者ビジネスにおいて、今一番危機的な状況にあるのは飲食業でしょう。大手企業から個人経営レベルの零細事業まで規模は様々ですが、この業界には規模に関係なく共通して対応すべきニューノーマルが存在するように思います。
ただし、食事中心の店とアルコール中心の店とでは事情が異なっているので、そこは分けて考える必要がありそうで。
まず、食事系飲食店で最も多く見られるニューノーマルの取り組みが、テイクアウト対応です。
しかし、テイクアウト対応は一般的にその効果は限定的であり、現実に「来店客の減少をテイクアウトだけで埋め合わせるのには無理がある」というのが、個人的に付き合いのある飲食業経営者の共通した声です。
ではどうしたらいいのか。ヒントはコロナ禍の2020年12月期決算で、営業利益ベースで最高益を更新したマクドナルドにあるように思います。
マクドナルドは、テイクアウト対応だけにとどまらず、宅配、ドライブスルー対応充実等考え得る店舗内飲食以外のニューノーマルなサービス拡充に、早期かつ積極的に取り組んできたことが、今回の業績回復の原動力になったと言われています。
感染防止を念頭においた消費者の基本動向は、「極力、店ではなく家で食べる」という姿勢であり、それを前提とした新たな取り組みは何でもやってみるということでしょう。
マクドナルドに学ぶなら、宅配業務はやろうと思えばどこの店舗でも対応が可能であり、これはテイクアウトと共に真っ先にニューノーマルとして取り組む必要があると思います。
特に規模の小さい個人経営店舗は、国の支援金頼りにコロナ禍の終息を待っているだけでは早晩資金ショートして閉店に追い込まれるのが関の山です。考え得るすべてのニューノーマルへの早期の取り組みが、生き残りへの道を開いてくれるように思います。
アルコール系飲食店の状況はさらに深刻です。この1年間の間に、気がつけば「最も感染を警戒すべき場所」として悪者扱いされるに至りました。
こうなってしまうと、営業時間の自粛要請が仮に完全解除となったとしても、年配者を中心としてアルコール系飲食店を避ける傾向はコロナの完全終息が実感できるまでは変わることはないでしょうから、この先も客足の完全な戻りは期待薄というのが常識的な見通しではないかと思います。
焼き肉店の増強で業種転換を狙うワタミ
大手業者の多くは支援金頼みでは立ち行かない現状を踏まえて、コロナの長期化を前提とした店舗閉鎖、アルバイト人員の整理等で大幅なコストダウンを断行しています。
もちろんそれで事足りる話ではなく、テイクアウト、宅配が功を奏する業種でもなく、引き続き厳しい状況が続いています。そんな状況下、自社の強みを活かしつつ需要のある領域への業種転換という選択肢も出始めています。
代表例は、直営居酒屋店舗の3分の1を焼き肉店に転換すると発表したワタミでしょう。肉の仕入れに強みを持つ同社が、肉系飲食マーケットの成長力も勘案してひねり出した苦肉の策と言えます。こうした動きは続々出ることでしょう。
個人規模のアルコール系店舗は食事系の個人店舗と同じく、支援金頼りで生きながらえていても、その支給がなくなった後に客足が早期に元に戻るとは思えません。
支援金が出ている今のうちに自店の強みを活かした発想の転換を伴う行動をしておかないと、飲食業に対する銀行の支援もこの先は決してあてにはできず、このままでは窮地に追い込まれるのが目に見えています。
例えば、夜はお酒も出しながらも、手作り料理を前面に出した宅配もする食事系飲食店への業態転換など、この段階での思い切った切り替えが肝要かもしれません。
コロナ禍2年目を迎え対消費者ビジネスは正念場
いずれにしましても、対消費者ビジネスにおける事業タイプごとにある程度有効なニューノーマル策が見えてきた今が、今後の事業浮沈のカギを握る分水嶺であるように思います。
事業規模の大小を問わず、オンライン化、宅配、業態転換といったキーワードを念頭に、今行動に出るか出ないかが雌雄を決するように思うからです。
待っている、あるいは迷っている時間はありません。コロナ禍時代2年目の入口で、対消費者ビジネスはまさに生き残りを賭けた正念場を迎えていると感じています。
中小零細企業が大半を占める対消費者ビジネスは、我が国の雇用や消費経済の根底を支える存在でもあります。過去に飲食業に携わっていた立場からも、対消費者ビジネスを運営されている皆さんのこの正念場での頑張りを心より応援してやみません。