アイデアが出てこない人必見!エンタメ偉人たちの「企画の考え方」 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年08月04日にBLOGOSで公開されたものです
エンタメ界の偉人たちがどうやって企画を考えているのか調査してみました。
企画1つで世界が変わることがある
放送作家の松本建一です! 今回は「企画の考え方」について掘り下げてみたいと思います。多くの人を感動させたり笑わせたりする「良い企画」が持つロマンは計り知れません。どんな人気番組でも、必ず誰かが発想した企画から全てが始まります。それはたった1行のアイデアかもしれません。
ただし、そんな素晴らしい企画はなかなか思いつきません。ドラマや映画のように突然アイデアが天から降りてきて「ただそれを紙に書き写すだけだった」なんてことが起これば苦労はありませんが、現実はそんなに甘いはずもなく、今この瞬間も良い企画はないかと試行錯誤が繰り返されています。
僕は放送作家になって約10年になりますが、企画を考えているうちに「どうすれば良い企画を思いつくことができるようになるのか?」ということも掘り下げるようになりました。「数学みたいに方程式を作り出せば、そこにキーワードを入れるだけで自動的に良い企画が生まれたりしないかな…」と、なかば本気になって様々な方程式を模索していた時期まであります。
今のところ、奇跡のような「良い企画の方程式」は見つかってはいませんが、良い企画を考える上でヒントになることはたくさん学んできました。
そこで今回は、エンタメ界の偉人たちがどんな方法でアイデアを生み出しているのかご紹介したいと思います。テレビ業界だけではなく、どんな職種の方でも取り入れられるはずです。「新しい商品を開発して売り上げを伸ばしたい」「面白いプレゼン方法を編み出したい」「宴会での出し物を考えたい」など、ご自身の仕事と重ねながら読んでいただけると幸いです!
「良い企画」の条件とは?
具体的な偉人たちの発想法を見る前に、大前提となる「良い企画の条件」について触れておきます。良い企画には様々な要素が存在しますが、最も重要なポイントの1つとして「知っていることの、知らないこと」を狙うのが大切だとよく言われます。
良い企画とは基本的に何かしらの「新しさ」が必要です。当たり前ですが、誰もが知っていることには興味を持ってもらえません。だからといって、新しければ何でもいいわけではないのが難しいところです。
たとえば「画期的なネジの技術」は多くの人にとって「ただの知らないこと」ですが、「画期的なダイエット法」は「知っていることの、知らないこと」になります。「知っている世界に関することなのに、新しさがあって知らないこと」が興味をひくポイントになっているようです。
特にテレビの場合は何百万という人々が視聴しているため、「日本全国の人が理解できることなのに、まだ誰も見たことがないこと」という一見矛盾したアイデアが必要です。この狭い的をピンポイントで撃ち抜く企画が生まれた時、大きなヒットが生まれます。
この芸当は難易度がとても高いからこそ、何度もヒット企画を生み出せる人々は「偉人」として憧れの存在になるのです。ではいよいよ、エンタメ界の偉人たちがどんな発想をしているのかご紹介していきましょう。
秋元康と宮崎駿の「あえてメモは取らない発想法」
何か新しい企画を考える時「メモを取るようにする」というのは、よく耳にする話です。日々の生活で常にアンテナを張り続け、面白いと感じたことを逐一メモに取っていく。そのメモを振り返ると企画のヒントが溜まっていて、そこから発想が生まれるというのは論理的にも正しいような気がします。しかし、放送作家界の生きる伝説・秋元康さんは違う考えを持っているそうです。
著書『企画脳』の中でも触れられていますが、秋元さんは基本的にメモは取らないそうです。たとえば、ふと面白い出来事に出会った時も書き留めることはしません。それでもなぜ人々の心に残る企画を次々に生み出せるのかというと、記憶のフィルターを利用しているからだといいます。メモを取るということは、本来忘れてしまうような様々な出来事を全て記録するということです。
しかし秋元さんは「企画を考える時に思い出せないような出来事は、インパクトがないということだ」と考えます。逆にいえば、メモを取らずに思い出せるような、ずっと心に残っていることこそ、多くの人の心に刺さる何かがあると判断するそうです。
昔、何かの本で「面白い企画を出せるかどうかは、何回心が震える体験をしたかで決まる」と読んだことがあります。日常生活の中でアイデアを拾おうとするのではなく、それほど強く記憶に残る経験をするべく積極的に行動することこそ、良い企画を思いつく近道なのかもしれません。
ちなみに、この考え方に近い方法をとっている偉人がもう1人います。それが、日本が世界に誇るスタジオジブリの宮崎駿さんです。
宮崎駿さんは何か面白いと思ったことがあると、長い時間をかけて細部まで覚えてしまうそうです。たとえばある建物が気になったら、じーっとひたすら見る。屋根の形はどうか、窓はどういう方式か、間取りはどうなっているか。ぼんやり全体を記憶するのではなく、1つ1つの細部まで覚えていく。
そうして1時間ほど見た後、その日のうちに何度か思い返すそうですが、その後は放っておくといいます。メモを取ったり、何かに書き留めておいたりすることはありません。
そしてたとえば1年後。映画を作っていて「あ、あの建物を参考にしたいな」と思い出したら、使うそうです。ただし、写真や資料を取り寄せることはしません。「じゃあどうやって描くのか?」と疑問に感じる方もいると思いますが、宮崎駿さんが使うのは記憶のみ。
これはスタジオジブリの代表取締役プロデューサー鈴木敏夫さんが語っていたことですが、その建物について100個覚えたことがあるとすれば、思い出せるのは30個ほど。残り70個は想像したり、他の記憶から持ってきて融合させたりするそうです。
だからこそ、リアリティがあるのに、どこにも存在しない「オリジナルの建物」ができあがる。「徹底的に覚えて、あえて忘れて、想像で補う」という作業によって、あの観る者を魅了する世界が生み出されていると知った時はとても感動したことを覚えています。
鈴木おさむ「固定したイメージを転換する」
続いては、あらゆる名物企画を生み出しエンタメ業界にその名を刻む放送作家・鈴木おさむさん。様々な発想法を持ち合わせている方ですが、僕が特に参考にしたいと感じたのが「固定したイメージを転換する」という方法でした。
何事にも、人々が当たり前だと考えている大前提があります。たとえば「机は硬いもの」「ケーキは甘いもの」「コンビニはどこにでもあるもの」などなど。挙げればキリがありませんが、当たり前すぎて意識したことすらないかもしれません。
鈴木おさむさんは、この固定したイメージを転換して進化させる仕掛けを考えることにワクワクすると語っています。それは言葉を真逆にするだけでいいかもしれません。先ほどの例でいえば「柔らかい机」「辛いケーキ」「行くのに3時間かかるコンビニ」という感じでしょうか。たったこれだけでも興味が湧くワードになりますし、新しい発想が生まれそうな予感がするから不思議です。
企画を考える時は、何かしらの条件が与えられることがほとんどです。そんな時はその条件について、誰もが当たり前だと思っていることを挙げてみて、真逆にしていくだけでも良いアイデアが生まれるかもしれません。
企画を採用するのは人間である
エンタメ界の偉人たちの発想法を紹介しましたが、最後に企画を実現する上でもう1つ重要なことを書いておきたいと思います。これは秋元康さんが著書の中でも語っていたことですが、忘れてはならないのは「企画を採用してくれるのは人間である」ということです。
どんな優れたアイデアであってもアイデアが存在するだけではダメで、ほとんどの場合“企画を採用してくれる人”がいて初めて世に出すことができます。つまり企画を採用してくれる人との信頼関係なしにアイデアをゴリ押ししても、うまくいくとは限らないと秋元康さんは言います。
むしろ突き詰めていえば、人を動かすのは「心のつながり」であり、仮に採用する側の人間がそのアイデアの価値を理解できなくても「お前がそこまで言うならやってみよう」と思わせることができるか。そう思わせるだけの日頃の行いができているか。企画を考えることと同じくらいそれが重要である、と。
アイデアだけで他人を魅了できる圧倒的な能力を持っている秋元康さんでも、そこまで考え抜いて企画を実現させています。企画を実現して世の中に感動や笑いを届けたいと決めたのであれば、企画内容だけではなく企画の通し方まで考えることが必要不可欠だと感じました。良い企画が生み出すロマンを求めて、改めて身を引き締めて精進していきたいと思います!
松本建一
放送作家
担当番組/「それって!?実際どうなの課」「ポケモンの家あつまる?」「全国高校サッカー選手権」など。