ワイプ・大喜利・テロップ…バラエティ番組の斬新な演出方法はどこから生まれたのか - 放送作家の徹夜は2日まで

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※この記事は2020年07月29日にBLOGOSで公開されたものです

「ワイプ」「字幕テロップ」「ツッコミテロップ」「Qカット」「大喜利」「24時間テレビのチャリティーマラソン」などなど、バラエティ番組で当たり前となった演出方法のルーツに放送作家が迫りました。

放送作家の深田憲作です。先月は「テレビの楽しみ方」をテーマに記事を書かせていただいたのですが、(放送作家直伝!テレビを楽しく視聴するための3つのポイント)その中で演出方法の1つであるサイドテロップについて触れました。

現在放送しているほとんどのバラエティ番組ではこのサイドテロップ(※サイドテロップとは、画面の右上か左上に表示されているテロップ)を表示しているので、斬新な演出だと思ったことはなかったのですが、冷静に考えるとこのサイドテロップを最初に考え、実行した人は凄いなと思います。

サイドテロップのように、今となっては当たり前だけど最初にやった人は凄いなと思える、いわば“発明”と言えるような演出は数多くあります。テレビ番組の演出に著作権はないので、その多くは誰が考え出したものかは不明ですが、今回は「テレビ番組における発明的演出」について綴ってみたいと思います。

僕はバラエティを主戦場に仕事をさせてもらっているので、これから述べる内容は基本的にはバラエティ番組の話だと思ってください。それでは僕が発明だと思う演出を1つずつ挙げていきます。

その日の放送内容を凝縮して見せる「アバン」

アバンとは、番組の冒頭に流れる、その日の放送のハイライト的な映像で、正式には「アバンタイトル」と呼ぶそうです。番組冒頭にこのアバンを入れることで、視聴者にその日の放送を「面白そうだな」と思ってもらう役割を担っています。

出演者の発言にピー音が入っていて「●●が秘密を暴露!」みたいなナレーションで煽るアバンを見て「なんか面白そう」と思った経験があるのではないでしょうか?

アバンという言葉の意味を調べると「映画・ドラマ、アニメや特撮などでオープニングに入る前に流れるプロローグシーンのこと」と書かれています。プロローグとバラエティ番組におけるアバンでは意味合いが違いますが、想像するにアバンという演出の手法はテレビ制作者が考えた発明ではなく、映画などで使われていた手法をテレビに応用したものではないかと思います。それこそ映画の予告編はテレビ番組におけるアバンと役割が一緒です。

バラエティ番組でこのアバンを最初に取り入れたのはどの番組なのか? 僕は全く知りませんが、画期的な試みだったのでしょう。

出演者のリアクションでよりVTRを面白く感じさせる「ワイプ」

バラエティ番組でよく使われる言葉のため、多くの人がワイプを理解されていると思いますが、一応ご説明すると、ワイプとはVTRが流れている時にそれを見ているスタジオの出演者が映る小さな画面のことです。

このワイプの役割は、スタジオ出演者のリアクションを見せることによるVTRの補強。どういうことかと言いますと…人間は他人が笑っていることで、見ているもの、聞いているものがより面白く感じる生き物です。(ひねくれものを除く)そのため、芸能人がVTRを見て笑っている顔をワイプで視聴者に見せることで、そのVTRがより面白く見えるのです。

これはVTRで視聴者を笑わせたい場合だけでなく、感動させたい場合や驚かせたい場合も一緒。芸能人がワイプで感動している顔を見せることで、そのVTRがより感動的に感じるというわけです。

このワイプ演出を普及させたのは今も続く日本テレビの長寿番組『世界まる見え!テレビ特捜部』とされています。しかし、『世界まる見え!テレビ特捜部』でワイプが生まれたのは先述したVTRの補強の意味合いではありません。

長い時間VTRを流すとビートたけしさん、所ジョージさん、楠田枝里子さんらが出演している番組だということが視聴者に分からなくなる恐れがあるため。苦肉の策としてワイプを入れたという背景がありました。

面白さや分かりやすさを補強する「字幕テロップ」

冒頭でサイドテロップについて説明しましたが、テレビ番組にはこのサイドテロップ以外にも様々な字幕テロップが存在します。例えば、出演者のコメントに入れるテロップ。みなさんも体感されていると思いますが、タレントの発言にテロップが入ることでより面白く感じることができます。

出演者のコメントにテロップを入れる手法を初めて取り入れたのは『探偵!ナイトスクープ』と言われています。演出家たちはコメントテロップの字体はもちろん、文字をキラキラさせたり、文字の出し方にもこだわっていますので、今後コメントテロップを注意して見ていただけると、また違った楽しみ方ができるかもしれません。

発明という言葉が相応しいかは分かりませんが『エンタの神様』という番組で、ネタを演じる芸人のセリフにテロップを入れたのは画期的だったように感じます。正直、この演出にはテレビマンの中でも賛否があり、「芸人に失礼ではないか?」「視聴者が字幕に頼ってテレビを見る習慣を作ってしまうのではないか?」といった否定的な意見もありました。僕の個人的な意見としては「大賛成とは思わないが否定はしない」というスタンスです。

なぜなら、歌番組で歌詞のテロップが流れることにほとんどの人が否定的な感情を持っているとは思えません。おそらく最初に歌詞のテロップを流した時は否定的な意見もあったのではないでしょうか。

「歌手に対して失礼だ!」「歌詞は読むものではなく、耳で聴いて心で受け止めるものだ!」的なことを言った人がいたはずです。要は慣れの問題な気がして、僕は芸人のネタにテロップを入れることを真っ向から否定はできないのかなと思います。30年後のネタ番組ではそれが当たり前になっている可能性もあるでしょう。

話は変わってバラエティ番組におけるテロップで「これは発明だな」と思うのが「ツッコミテロップ」です。ツッコミテロップとは、タレントがボケた時などに画面の下の方にツッコミ的な言葉が表示されるテロップです。あれを考えた人は天才だなと思います。

なぜなら理論的に考えるとあのツッコミテロップは必要ないと思えてしまうからです。ツッコミが必要なのであれば、現場に出演者がいるし、やろうと思えばナレーションで突っこむこともできる。テロップでツッコミを入れようという発想はなかなか浮かばない気がします。

ツッコミテロップがない時代に僕がこの演出について相談されたら、反対はしないまでも「それ、必要なくないですか?」と思っていたでしょう。ただ、ツッコミテロップは出演者のツッコミともナレーションでのツッコミとも差別化できた秀逸な演出になっていると思います。僕の記憶ではこの手法は『めちゃ×2イケてるッ!』がパイオニアだと思っていますが、実際のところはどうなのでしょうか。

CMで視聴者を逃がさないための「Qカット」

番組がCMに入る前に「この後、とんでもない事態に!」みたいな煽りを入れる演出のことをQカットと呼んでいます。CMに入ると視聴者は他のチャンネルで面白い番組をやっていないかとザッピングしてしまうため、CM中は視聴率が落ちてしまうからです。

少しでもチャンネルを変えられないように、もしくはチャンネルを変えた視聴者が戻ってきてくれるように「CMの後に面白い展開がありますよ~」というのをCM前にQカットで打ち出しているわけです。

このQカットには嫌悪感を持つ視聴者の方もたくさんいますが、視聴率を下げないために多くの番組で取り入れられています。

ダウンタウン松本人志が生んだ発明の数々

これらのバラエティ番組における斬新な演出を生み出してきたのは、ほとんどが演出家だと思いますが、演出以外の部分に目を向けると、ダウンタウン松本人志さんが発明したものも数多くあるようです。

例えば、大喜利の時に芸人がフリップに書いた文字を出しながら回答するのが今となっては当たり前のスタイルになっていますが、あれを考えたのは松本さんだそうです。(それまでにも大喜利自体は存在していたが、フリップに字を書いて回答するスタイルは無かったとのこと)

よく考えるとこれはコメントのテロップと同じ役割を果たしていますね。文字がなくても芸人の言葉だけで成立するものを、言葉と一緒に文字を出すことで大喜利の回答がより面白く感じてしまう。

大喜利の発明でいうと『IPPONグランプリ』でよく使われている「写真で一言」というお題もおそらく松本さんが考えたものですね。あれも素晴らしい発明だなと思います。

そして、「熱っ!」「キツ!」「しんど!」といった私たちが普段から当たり前に使っているこれらの短い言葉の言い方も松本さんが普及させたものです。また、お笑い的にスベることを「寒い」と表現するのも、ダウンタウンの2人が使ったことで広まったそうです。やってきたお笑いのネタや企画だけでなく、言葉や言い方まで発明しているところが松本さんの偉大さでしょう。

24時間テレビの発明・「マラソン」に代わる企画は?

このコラムを書いているのが7月半ば。来月にはテレビ界の夏の風物詩である「24時間テレビ 『愛は地球を救う』」が放送されます。僕は24時間テレビで恒例となっているマラソンは発明だなと思っています。

日本テレビの「24時間テレビ 『愛は地球を救う』」も、フジテレビの『FNS27時間テレビ』も甘噛み程度に関わらせてもらったことがありますが、やはり24時間以上の生放送をするうえで縦軸となる企画というのは非常に重要です。今のところ、このマラソンを超える縦軸企画はないと思います。

真夏に100キロもマラソンをすることがキツイことは誰にでも分かります。だからこそ、子どもからお年寄りまでみんながランナーに感情移入して応援する。そして、番組のエンディングに向かってその感情は高まっていく。

主役がはっきりしている。その時の旬なタレントを主役にできる。などなど、「24時間テレビ 『愛は地球を救う』」の太い縦軸の企画としてこれほど良くできたものはないのではないかと思います。

今年は新型コロナウイルスの影響でこのチャリティーマラソンをやらないことが発表されました。果たして、マラソンに代わる縦軸企画で何が用意されているのか? 多くのテレビマンが注目していると思います。

僕は今年の「24時間テレビ 『愛は地球を救う』」には一切関わっていないので宣伝したいわけではないのですが、みなさん今年の24時間テレビの縦軸企画に注目してみてください。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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