※この記事は2020年07月22日にBLOGOSで公開されたものです

「見舞金欲しさにホストが集団検査を受けている」との憶測が、ネット上を中心にささやかれている。7月に入り東京都の感染者数は爆増。東京都新宿区が新型コロナウイルスに感染した区民に1人当たり10万円の見舞金支給を決めたこともあり、因果関係として結び付けられてしまった印象だ。本当のところはどうなのか、歌舞伎町の住人たちを取材した。

“形だけ”マスク着用をするホスト

これまでの報道を見ればわかることだが、「夜の街」とりわけ歌舞伎町のホストクラブにおいて感染が拡大している。歌舞伎町ホストのA君は現在の接客状況をこう話す。

「うちの店では客もふくめ、検温と手指消毒はやっています。ぼくらホストはマスク着用を義務付けられていますが、女の子たちは途中で外しちゃう子もいるっすね。おしゃべりしながら飲む場所ですから、ホストたちはお酒を口に含むたびにひょいってマスクを取っています」

マスクを外してお酒を飲んで、またマスクを付ける。その繰り返しのなか当然会話もしている。さらにお酒がすすんでくれば、顎にマスクを引っかけているだけのホストや女性客たちの姿は容易に想像できるだろう。歌舞伎町にはじつに200店舗以上のホストクラブがあると言われている。「大手グループになればなるほど、厳重な感染防止策を取りながら営業をしている」(ホストクラブ関係者)という。

しかし、「ないことの証明」は不可能であり、それだけの数があればA君のように感染防止の意識が薄いケースもある。10万円がもらえるなら検査をしてみようというホストがいてもおかしくはない。だが、ホストクラブ全体を一括りにして憶測で批判をすることは非常にナンセンスである。

ホストたちがこぞって検査に行く理由は

7月16日に新宿区役所で行われた新型コロナ対策連絡会において、ホストクラブなど16店舗を経営する手塚マキ氏(42)は「ホストクラブがPCR検査を積極的に受けた結果、感染者数が増えている面がある」と話した。いまホストたちがこぞって検査を受けている理由は何なのだろうか。歌舞伎町ホストのB氏はいう。

「私は自分の意志で検査を受け陰性でしたが、経営者の方針で従業員に検査に行かせている店舗も多いです。その理由はいうまでもなく、6月18日に行われた繁華街の組合関係者やホストクラブ、キャバクラの経営者やスタッフらと新宿区の間で開かれた会合です」

ホストBの話によれば、歌舞伎町のあるホストクラブでは経営者の指示で従業員たちが医療機関を受診。自覚症状のない者がほとんどで、その経営者も「自分たちもお客たちもお互いに安心しながら営業するために受診させた」というが、結果7名が陽性と診断されてしまった。

また別の歌舞伎町ホストクラブでは、7月頭に従業員1人が陽性になったことを機に、経営者自ら保健所に「全従業員の検査をしてほしい」と要請。結果、全従業員の8割の感染が判明し、すぐに営業は自粛となった。このホストクラブ経営者は歌舞伎町ホストクラブの状況をこのように話す。

「ほかのグループもふくめ、ぼくたち経営者側は保健所や国からの要請には最大限対応していこうという姿勢なのですが、若い子たちに関してはコロナを軽視している傾向があります。シャンパンコールを禁止にしている店は多いですが、いつから再開するのかなど不満が溜まっているようです」

10万円を目当てに検査を受けているというよりむしろ、経営者側の判断によって検査を受けさせられているという印象を受ける。さらに陽性と診断されたところで本人が新宿区民でなければ10万円は受け取ることができない。実際のところ、上京してきたものの住民票を新宿区に移していないホストは多いのだ。

本当にヤバいのは表に出てこない風俗店

ホストクラブ従業員間での感染は上記でもわかるように確実に広がっているわけではあるが、そこに来ている客ははたして大丈夫なのかという問題が放置されているように感じる。「ホストクラブの客の9割は風俗嬢であり、そのなかには出稼ぎ嬢も多くいる」(ホストクラブ経営者)ことから、風俗業界でも同じように感染が拡大していると思われる。歌舞伎町のデリヘルと吉原のソープランドを兼業する女性に聞いた。

「風俗店においては、お店から女の子にも、ホストから女の子にも、検査を促すような話は聞いたことはあまりありません。おっしゃる通り、ホストの客は風俗嬢なので感染者はいるはずですよね」

7月10日、新宿・歌舞伎町のホストクラブを利用した翌日に新幹線で青森市に移動し、市内のデリバリーヘルスに勤務していた女性がPCR検査で陽性反応となったことが明らかとなった。そのほかにも同様の事例が相次いでいるようだが、「そんなの氷山の一角だと思う」と女性は話す。

「自殺や性病であればすぐにあのお店のあの子が……という風にかなり特定された噂が回るのですが、不思議なことに風俗業界内であの店コロナ出たよとはあまり聞かないんです。なぜかというと、単純にみんな検査なんか受けないからです」

東京と地方を行き来する風俗従業員

その原因は「出稼ぎ」という労働形態にあるという。

「風俗嬢の出稼ぎは1週間単位が多いんです。1週間青森で働いたら次は四国、といったようにスパンが非常に短い。そうなると店側は女の子のことを“自分の店の従業員”とはとらえないですよね。出稼ぎ嬢の具合が悪くなったからといって、責任を持って検査を受けさせるなんてこと、普通に考えればしないですよね。だって自分の店の従業員じゃないんですから」

そして出稼ぎ風俗嬢たちは、歌舞伎町のホストクラブをハブとし、また地方へと飛び回っていくというわけだ。ホストクラブがいくら感染に対して意識を高めようと、店を開けば風俗嬢たちは来店する。では風俗店の営業を取り締まればいいのだろうか? だが、そんな簡単な話でもない。風俗嬢たちが働く店を失えば、出会い系などの援助交際がよりいっそう盛んになるだけだろう。そうなれば衛生的対策は今以上に希薄になり、感染経路を追うことなど到底できなくなる。

「見舞金欲しさに検査を受けたホスト」など探せばいくらでも出てきそうではあるが、問題はそんなところではない。「夜の街の感染拡大」について考えれば考えるほど、出口のない闇が広がっているように思えてならない。