手越祐也はYouTubeの申し子!? プロが驚嘆する凄さと新時代の芸能活動 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年07月18日にBLOGOSで公開されたものです
クロスボーダークリエイター・放送作家の谷田彰吾です! 普段はテレビ番組の構成はもちろん、YouTubeのプロデュースもやっています。特に力を入れているのが芸能人のYouTube。Wednesdayという会社で「デジタルメディアレーベル(DML)」を立ち上げ、様々な芸能人のチャンネルを企画・運営しています。現在、講談師の神田伯山さん、芸人のMr.都市伝説 関暁夫さん、元メジャーリーガーの上原浩治さん、『おかあさんといっしょ』元体操のお兄さんのよしお兄さん、ファミリーで大人気の芸人・はなわさんなどのチャンネルを微力ながらお手伝いさせていただいています。
芸能人のYouTubeチャンネルは怒涛の戦国時代に突入していて、ついにあの大物芸人も参入しました。とんねるずの石橋貴明さんです。業界内の風のウワサで「タカさんが始めるらしい」とは聞いていたのですが、さすが素晴らしいスタートを切りました。7月13日現在でチャンネル登録者数63万人超。いまやタカさんのレギュラー番組はゴールデンタイムにはありませんし、芸人とガッツリからむような番組もありません。テレビでは見られないからこそ、むしろYouTubeに希少価値があるわけです。タカさんといえばテレビの申し子のような人ですから、世の中ずいぶんと変わったものです。
今日するお話は、そこにポイントがあります。「テレビで見られない」。これがキーワード。今のYouTube界や芸能界を考える上では、かなり重要な要素になっています。そんな中、「テレビで見られない」怪物級のYouTubeチャンネルが誕生しました。1発目の動画から驚異の1000万回再生を叩き出し、まさに桁違いのロケットスタートを切った、手越祐也さんのチャンネルです。
手越さんといえば、言わずと知れたジャニーズ事務所・NEWSの元メンバー。ステージではアイドル道に並々ならぬプライドを見せる一方、テレビでは『世界の果てまでイッテQ!』で体を張ることをいとわないサービス精神の旺盛さを発揮。そして、ここ最近はジャニーズでありながら、たびたび週刊誌を賑わせる破天荒なキャラクターでもおなじみになっていました。
手越さんのチャンネルは、他の芸能人のチャンネルとは一線を画しています。YouTubeの使い方そのものが大きく違うのです。それでは、詳しく考察していきましょう。
テレビでは見られない元ジャニーズが裸一貫で出直す生々しさ
先日、ジャニーズ事務所を退所した手越さん。レギュラー出演していた『世界の果てまでイッテQ!』と『サッカーアース』は降板となり、テレビで手越さんを見る機会は大きく減少しました。ジャニーズ事務所のタレントはテレビとステージが活動のメインですから、退所すると露出が一気に減る印象があります。しかし、これがYouTubeにはプラスに働くことになるのです。
ジャニーズとは対極ではありますが、典型的な例はチャンネル登録者数211万人(7月13日現在)を誇る江頭2:50さんでしょう。お笑いバラエティ番組の減少やコンプライアンスの波によってテレビ界に居場所を失いつつあった江頭さんは、今年2月にYouTubeでの活動を開始。わずか9日間で登録者100万人を突破すると、まさに伝説と呼ぶにふさわしい快進撃を見せています。
先日、チャンネル登録者数100万人を突破した雨上がり決死隊の宮迫博之さんもそうです。自身が引き起こした騒動によってテレビ番組から遠ざかった宮迫さん。背水の陣として挑戦したYouTubeは最初こそバッドマークの嵐だったものの、徐々に視聴者に受け入れられ、約5ヶ月で見事100万人に到達しました。
芸能人YouTubeの先駆けともいえるカジサックさんも少し近いものがあります。つまり、なんらかの理由でテレビ出演が減ってしまった芸能人が覚悟をもって挑むYouTubeは共感を呼びやすい。「もう後がない」という雰囲気を醸し出している人の奮闘ぶりを人は見たいのでしょう。成功の前提には潜在的なニーズが必須ですが、「ここで勝負するんだ!」という熱量は何よりも大事です。
手越さんは、まさにこのレールに乗っています。しかし、他の方々と大きく違うのは、彼が芸人ではなく、つい先日まで現役バリバリのジャニーズアイドルだったこと。日本のキラキラの象徴である天下のジャニーズアイドルが裸一貫でリスタートする姿は、これまで誰も見たことがないものでした。
僕は手越さんが「YouTubeの申し子」になるかもしれないと予感しています。それは、YouTubeを始めたシチュエーションだけではありません。他にも条件がたくさん揃っているからなのです。
まず、手越さんが巨大なコンサートホールを満員にするグループの中心メンバーであったこと。YouTubeをはじめとするネットコンテンツでは、熱狂的なファンを持つ人気度の高さが重要視されます。それに加えて、手越さんは『世界の果てまでイッテQ!』の出演によって幅広い年代に認知されている。この2つを両立しているのは凄いことです。
さらに、僕が特にYouTubeに向いているなと思っているのは、手越さんの性格。めちゃくちゃ明るくて前向き、何よりもYouTubeを全力で楽しもうとしている姿勢が素晴らしい。そして、自分を厳しい方向に追い込み、すさまじいエネルギーでハードルを越えようとする圧倒的なポジティブ感は、サッカーの本田圭佑選手を彷彿とさせます。僕は手越さんのファンではありませんでしたが、動画を見ていると思わず勇気が湧いてきました。
では、そんな手越さんのチャンネルはどこが新しいのでしょうか?
手越祐也チャンネルは生き様を見せるドキュメントである
手越さんのチャンネル登録者数は7月13日時点で134万人。6つの動画がアップされています。平均再生回数は、衝撃の約500万回再生。どえらい数字です。まだ始まったばかりなので変わっていってしまうかもしれないですが、誤解を恐れずにいえば、このチャンネルのおもしろさは「エンタメにしすぎていないところ」だと思っています。
芸能人の中には、YouTubeをテレビの延長上として考える人が多くいます。視聴者のニーズに合わせて、企画を練り上げていく。しかし、手越さんはそれとは一線を画します。とにかく「俺が伝えたいことは、こう。ついてきたい人はついてきて!」というスタンス。さぁ、動画のラインナップを見ながら考察していきましょう。
手越祐也チャンネルのファーストコンテンツは、ジャニーズ退所について明かした緊急記者会見でした。普通、芸能人のYouTubeは、「○○、YouTube始めます!」というような自己紹介&所信表明的な動画が多いのですが、初手に記者会見を持ってきたことでこのチャンネルのコンセプトが浮き彫りになった気がします。
手越祐也チャンネルは、手越祐也の「生き様」を見せるドキュメントチャンネルである。下手な小細工はいらない。大切なのは企画よりもメッセージ。手越さんの本音を誰にも邪魔されずに伝えるツールとしてYouTubeを利用する。そんな思いが見て取れるのです。
結果、記者会見の動画は1000万回以上再生され、他に類を見ない最高のスタートを切ると、2本目の動画は記者会見の舞台裏ドキュメント。会見前の臨場感あふれる映像は、まさに生き様を感じさせるものでした。
そして、3本目に持ってきたのが、チャンネルの方向性を決定付けるかのようなメッセージ動画。サムネイルは、HIKAKINさんをはじめとする多くのYouTuberがかつて使用した「好きなことで、生きていく」。この動画で手越さんは、カメラに向かって自分の信念を熱く訴えかけます。そのしゃべりが本当に素晴らしい。滑舌やよどみのなさとかではなく、一言一言に魂がこもっているというか。かつてのレペゼン地球・DJ社長さんの独白動画を彷彿とさせる圧巻の13分でした。
この動画こそ、手越さんとYouTubeの相性の良さが存分に出たものでした。僕は、手越さんは動画でこそ生きてくる人だと思っています。もしも彼のメッセージを文字にしてブログやTwitterで公開しても、どこか絵空事に聞こえて伝わらなかったのではないでしょうか。コロナでいろんなことが縮こまってしまっている世の中で、ジャニーズの看板を捨て、ガムシャラに突き進んでいく32歳。その痛快なキャラクターは、動画があってこそ伝わるものだと思うのです。
そして、4本目はモーニングルーティン、5本目は引越し動画。ジャニーズ時代は謎のベールに包まれていたプライベートを明かすことで、ファン以外の新規の集客を狙う巧妙な戦略です。
でも、チャンネルのブランディングは徹底しています。それが表れていたのが、引越し動画のタイトルにある『逆張りの手越』というフレーズ。ジャニーズ事務所を辞め、不安定なフリーになったのに、あえてジャニーズ時代よりも高い家賃の豪邸に住む。これぞ生き様チャンネルの真骨頂。手越祐也の新居という誰もが興味ある間口の広いコンテンツを見せつつ、コンセプトはしっかりと打ち出している。個人的には、とても良いブランディングだなと思いました。
手越祐也が仕掛ける新時代の芸能活動
さぁ、次はどんな動画を出すのかと注目していたら、手越さんは攻めの一手を打ちます。『俺と一緒にスターを目指そうぜ!』というタイトルで、まさかの楽曲オーディションの開催をぶち上げました。フリーになった手越さんが楽曲をリリースするのは簡単ではありません。作詞作曲してくれる人も、レコーディングしてくれる人も場所も、販路もプロモーションも、すべて自分たちでやらなければなりません。
そこで、手越さんがとった戦略は、「巻き込み型」の楽曲制作。手越さんの「曲を作ってくれる人がいない」という需要と、「有名になりたい」「一発当てたい」「手越さんが好きだから手伝いたい」というアーティストの供給をマッチさせる形。
メリットはいくつかあって、まずアーティスト側は受発注の雇われ仕事ではなくパートナーとして関わるのでモチベーションが非常に高いこと。まだ世に出ていない歌い手やボカロPなど、ネットを中心に活動する才能あるアーティストを発掘できる可能性があること。そして、ネット上のクリエイターたちを巻き込むことで、拡散性を高められること。
事実、すでに作曲に名乗りを上げ、YouTubeに動画を投稿している人が存在します。つまり、手越さんが動画を上げなくても、他者が勝手に拡散してくれるという効率的なシステムが組みあがったのです。この戦略も非常に良くできたものだと思います。
このプロジェクトが成功するかはわかりません。しかし、エンタメ界(特に芸能界)にとっては注目度の高いものになるでしょう。今、様々な芸能事務所から大物タレントが独立しています。芸能マネジメントとは何なのか? その答えがあやふやになっている中、あらゆる芸能活動を、事務所やテレビや音楽レーベルの力を借りずに自己完結できてしまったら… 芸能のあり方は全く違うものに様変わりします。
手越祐也チャンネルは、その闘いをリアルタイムでウォッチできるドキュメント。これからがますます楽しみです。
谷田彰吾
放送作家/TVクリエイターギルドVVQ代表/Wednesday取締役ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』『情熱⼤陸』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。過去に『中田敦彦のYouTube大学』アドバイザー。放送作家だけでなく広告プランナーとしてもAmazon、Nikonなどを手掛ける。Wednesdayで芸能人YouTube制作レーベル「DML」を運営。TVクリエイターギルド「VVQ」代表を兼任。
・https://vvq.tokyo
・https://webnesday.net
・https://note.com/showgo_wednesday