※この記事は2020年06月20日にBLOGOSで公開されたものです

放送作家の深田憲作です。今回は、私ごときが大変恐縮ですが「テレビの楽しみ方」なるものをテーマに書かせていただきます。日頃からテレビマンは多くの人に番組を楽しんでもらうためにどんな工夫をしているのでしょうか?今後テレビをより楽しく見るために注目していただきたい、3つのことについてご紹介します。

チャンネルを止めてもらうための演出「サイドテロップ」

テレビ番組では必ずと言っていいほど画面の左上と右上にテロップが常に表示されています。これをサイドテロップと呼んでいます。

サイドテロップは基本的に「今、番組でどんな内容をやっているのか?」が書かれていて、主に視聴者がザッピングしている時にチャンネルを止めてもらうための役割を担っています。

サイドテロップに表示されている言葉が視聴者にとって興味深いものであれば、チャンネルを止めて見てくれますし、興味がなければそのまま違うチャンネルに変えられてしまいます。

みなさんも心当たりがあるかと思いますが「今日のこの時間はこの番組を見よう」というものが特にない時は、リモコンでパッパッパとチャンネルを変えていき、なんとなく面白そうだと思った番組をそのまま見続けるはずです。

その際、1つのチャンネルにつき5~10秒くらいで「見るか?見ないか?」の判断をしているのではないでしょうか?

テレビマンはそこでチャンネルを止めてもらうために、視聴者を惹きつけるサイドテロップを本気で考えています。

テレビマンによってサイドテロップへの考え方は違うと思いますが、僕は先輩から「サイドテロップは1行につき15字以内が理想だ」と教わりました。「パッと見で内容を理解してもらうためには文字が多すぎてはいけない」と。

では、実際の番組ではどんな言葉がサイドテロップに使われているのか? 僕がこのコラムを書く直前に見ていた『金スマ(中居正広の金曜日のスマイルたちへ)』を例に見てみましょう。

この日はヒロミさんがゲストの回。(新型コロナウイルスの影響で内容は2017年の放送を再編集したもの)

サイドテロップの言葉は1回の放送の中でも何度も変わりますが、ヒロミさんがかつてテレビ番組の収録で大きなヤケドを負ってしまったエピソードを流している時のサイドテロップが以下の内容でした。

画面左上のサイドテロップは『金スマSP』
画面右上の1行目が『ヒロミが10年間テレビから消えた真相』
2行目が『収録中に起きた…死にかけた大事故』

このサイドテロップによってザッピングをしている視聴者は、ほんの数秒で「その番組が金スマである」ことが分かり、「この日のゲストがヒロミさんである」ことが分かり、「この日はヒロミさんが“10年間テレビから消えた理由”を紹介する内容である」ことが分かります。

画面に中居正広さんやヒロミさんが映っていない場面でザッピングしてきたとしても、サイドテロップで無意識に番組内容を理解しているというわけです。

1行目も2行目もひと目で興味を惹かれてしまう強い言葉で、ザッピングから多くの視聴者が流入したのではないでしょうか。極端な話、このサイドテロップが『ヒロミが好きな四字熟語とは?』では、ザッピング中にチャンネルを止めて見ようとは思わないですよね。

文字数を数えてみると『ヒロミが10年間テレビから消えた真相』は18文字。『収録中に起きた…死にかけた大事故』が16文字。僕が先輩から教わった15文字は超えていますが、色々な番組のサイドテロップを見ていると、なんとなく20文字以内に収めるという意識の番組が多いのかなという印象を受けました。

余談ですが、僕の経験上、年配のディレクターほどサイドテロップの文字数を少なくしたがる傾向があるように感じます。実際、昔のテレビ番組を見るとサイドテロップの文字数が少ないことが分かります。というか、サイドテロップ自体がない番組もあります。

サイドテロップという演出がいつ頃に始まって、どんな変遷を辿ってきたかは分かりませんが、視聴率を獲ることを突き詰め続けてきた結果、サイドテロップの文字数が増えていったのかもしれません。

YouTubeなどの影響もあるのだと思いますが、おそらく以前に比べて視聴者がその番組に見切りをつけるスピードも早くなっているはずですから、ザッピング対策も昔より今の方が繊細に行わなければいけないのかもしれません。

そしてもう1つ余談ですが、YouTubeでサイドテロップにあたる役割を果たしているのがサムネイルですね。(YouTubeの動画内にもサイドテロップを使うことがあるのでややこしいのですが)

ユーザーは数ある動画のサムネイルの中から興味を惹かれたものをクリックします。だからYouTubeチャンネルを運営している方々はこのサムネイルに命を懸けているわけです。

僕の知り合いは「YouTubeの再生回数はサムネイルで9割決まると言っていい」と話していました。「動画の内容よりもサムネイルに使う言葉と画像が大事」と言うのです。

「短い時間でいかにユーザーの興味を惹くか?」これは映像メディアに限ったことではありません。それぞれの業界が苦心に苦心を重ねて工夫をしているのでしょう。コンビニの商品や本屋に並ぶ書籍にも、私たちが無意識に誘導されている工夫が散りばめられています。

話がそれましたが、今後テレビを見る時にはサイドテロップに注目すると、今までとは違ったテレビの世界が広がります。

MCと肩を並べる重要な役割「ナレーター」

番組制作においてナレーションは要になる部分。番組によっては放送で最も声を発しているのがナレーターのため、MCと同じくらいに人選が重要であると言っても過言ではありません。

ただ、ナレーターのテクニック面を語れるほどの見識が僕にはないため、ここではバラエティ番組で活躍するナレーターについてご紹介させていただきます。

バラエティ界における売れっ子ナレーターで僕が真っ先に思い浮かぶのが服部潤さん、佐藤賢治さんです。名前だけではピンと来ない方でも番組名を挙げればきっとその声が浮かぶはずです。

服部潤さんの現在の担当番組は『水曜日のダウンタウン』『ゴッドタン』『王様のブランチ』『ミュージックステーション』『ジョブチューン アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』『関ジャニ∞クロニクルF』など。

佐藤賢治さんの現在の担当番組は『ロンドンハーツ』『アメトーーク!』『月曜から夜ふかし』『乃木坂工事中』『スクール革命!』などです。

同じ話をしても噺家によって面白さが別物になる落語のように、ナレーションもそれを読むナレーターで番組の印象は大きく変化。テレビマン目線かもしれませんが、服部潤さんや佐藤賢治さんが担当する番組は面白く見えます。

テレビマンは新番組を作る時に、他の番組と被りたくないという気持ちがありつつも、ヒット番組のナレーターを起用したいもの。そのためヒット番組が生まれると、番組を担当するナレーターが新規の番組で起用されることが増える傾向にあります。(これはタレントや裏方のスタッフにも当てはまることですが)

僕がテレビ業界に入ってからのこの10数年で言えば、『世界の果てまでイッテQ!』の視聴率が毎週20%を超えるようになった頃、ナレーターを務める立木文彦さんを起用する番組がやたら増えた時期がありました。

時期的なところは記憶が曖昧ですが、総合格闘技の『PRIDE』で選手の煽りVTRのナレーションを読んでいたのも立木さんでしたから、『世界の果てまでイッテQ!』『PRIDE』の合わせ技で仕事が激増したと思います。『PRIDE』の煽りVTRも大変面白かったですからね。

他に、僕が個人的に好きなナレーターで浮かぶのは佐藤政道さん。『奇跡体験!アンビリバボー』『GET SPORTS』を担当されている方です。僕は構成作家として『GET SPORTS』を担当させてもらっていますが、やはり佐藤政道さんがナレーションを読むことでVTRに深みが出ます。

こんなことを言っていいのか分かりませんが、ナレーターが佐藤政道さんでなければ、それはもう『GET SPORTS』とは言えないのではないかとすら思ってしまいます。それほどナレーターは番組制作において大きい存在です。

当然、テレビマンは「あの番組とあの番組のナレーターは一緒」という意識はありますが、テレビ業界以外のみなさんはナレーターの存在をそこまで意識したことはないでしょう。

今後は好きな番組を見る時にエンドロールでナレーターの名前と、その人が他にどんな番組を担当している人なのかを意識して見てみると、これまでと違った楽しみ方が出来るかもしれません。

音を使って笑いを演出した『めちゃ×2イケてるッ!』の凄み

サイドテロップ、ナレーターに続いてもう1つ、テレビを楽しむ上で欠かせないのが音響効果(音効)。番組制作において「音」は非常に重要な役割を持ちます。

視聴者を感動させたい場合も、笑わせたい場合も、驚かせたい場合も、音の使い方が重要。みなさんが思う以上にテレビ番組では色々なところで音が使われています。再現ドラマの感動のシーンで、いい感じの音楽が流れていることは認識されていると思いますが、スタジオメインのトーク番組でも音楽や効果音が数多く使われていることはあまり認識されていないのではないでしょうか。

芸人さんがエピソードトークをしている時に音楽が流れて、音楽が止まった次の瞬間にオチの一言、みたいな編集がされていたりします。

また、トークに対するツッコミテロップが出る時に「ポン!」という効果音がついていることでよりそのトークが面白くなっていることなどにも気づいていただければ、番組制作の演出の細かさを感じられると思います。

余談ですが、あるディレクターの先輩が「現在のバラエティにおける音の笑いは『めちゃ×2イケてるッ!(以下、めちゃイケ)』の影響が大きいのではないか?」と言っていました。

確かに思い返してみると『めちゃイケ』は音で多くの笑いを作っていた印象があります。『めちゃイケ』を担当していたディレクターに聞いたことがあるのですが、めちゃイケの音効担当はジブリ映画も手掛けていた天才音効なのだとか。それを踏まえて改めてめちゃイケを見返してみると面白いですね。

テレビ番組の編集に関して放送作家が深く関わることはあまりないため、音効の奥深さは僕もそこまで理解出来ていませんが、今後、テレビ番組を見る時に音を意識するとより楽しくなりますよ。

テレビの楽しみ方として紹介したい点は他にもたくさんあるので、またどこかで第2弾を綴りたいと思います。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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・日本放送作家名鑑