※この記事は2020年06月19日にBLOGOSで公開されたものです

5月25日、全国的に緊急事態宣言が解除され、社会は少しずつ新しい日常に移行しようとしています。

そんな中「みんなStay Home期間中にパートナーの重要性を痛感したので、今年は結婚するカップルが増えるに違いない。これをコロナ婚と名付けよう!」という話がどこからともなく聞こえてくるようになりました。

しかし、新しい日常の生活様式では在宅勤務、3密回避、マスクの着用が推奨されています。(参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

そのような状況下においては新たな異性とは出会いにくくなっており、パートナーがいない人が寂しい気持ちになる状況は今後もしばらくは続くのです。そのような中、これからコロナ婚は増えていくのでしょうか?

2019年は7年ぶりに婚姻件数が増加

まずは婚姻数の概況を把握するために、直近の婚姻の状況について見ていきましょう。

厚生労働省が6月5日に公表した人口動態統計概況によると、2019年の婚姻件数は59万8965組で、前年の58万6481組より1万2484組増加し、婚姻率(人口千対)は4.8で、前年の4.7より上昇しています。平均初婚年齢は夫31.2歳で前年の31.1歳より上昇しており、妻は29.6歳で前年の29.4歳より上昇しました。(参考:令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況)

ここでのポイントは、2019年の婚姻件数が前年より増えているということです。平成25年(2013)から婚姻件数は減少し続けている中、増加は7年ぶりです。なぜそのようなことが起きたかと言えば、2019年には婚姻を増加させる要因である「改元」があったからです。いわゆる令和婚というものです。令和婚による結婚の増加はデータが分かりやすく示してくれます。

令和婚は2020年の婚姻数にも影響

これは平成29年(2017)~令和元年(2019)の3年間の婚姻件数の推移を月毎にまとめたグラフです。令和元年は5月1日からですが、このグラフを見ると令和元年5月の婚姻数が突出して高く、令和元年になるタイミングを狙って入籍をした夫婦が多かったことが分かります。

この現象は2020年の婚姻件数にも影響を与えると考えられます。なぜなら結婚を前提にお付き合いをしていたカップルの中には、通常であれば2020年くらいが入籍のタイミングとしてふさわしかったにもかかわらず改元を理由に2019年に入籍時期を早めた方々が含まれているからです。

つまり2020年の婚姻件数はそもそもコロナに関係なく、長期の減少トレンドに加え、短期的な調整による減少も予想されるのです。

「震災婚」はどのようなものだったのか

新型コロナウイルスの感染拡大というのはいわば天災や自然災害に類するものです。同じく自然災害である東日本大震災が起きた2011年の婚姻数は時代が近いということもあり、コロナ婚を考える上での大きなヒントになります。

これは厚生労働省が発表している婚姻件数及び婚姻率の年次推移のグラフです。

これを見ると、震災が起きた2011年の婚姻件数は前年と比べて大きく減少していることが分かります。これは興味深いポイントと言えるかもしれません。

2011年3月に震災が起きてからしばらくの間、多少の地域差はあれ、我々日本人の「誰かと一緒にいたい」という機運は過去に無いほどに高まりました。にもかかわらず2011年の婚姻件数は大幅減なのです。

もちろん婚姻件数の増減には様々な要因が関係するので、その機運だけを単体で見れば婚姻数の増加に寄与した可能性も否定はできませんが、2011年はそれを打ち消すだけの「経済の先行き不安」があったということです。

リーマンショック以降の結婚は男性側が有利?

現代日本において、経済動向は人々の結婚願望に強い影響を与えています。詳細な説明は省きますが、景気が良い時期には女性が結婚の主導権を握り、景気が悪い時期には男性が結婚の主導権を握るというのが大まかな傾向です。

そのため2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を経てからの日本では、やや乱暴な説明になってしまいますが、男性側が結婚したいと思わなければカップルは結婚に向けて動き出さないのです。

更に別の要因として「年頃の女性とお付き合いするなら男の責任として結婚すべき」という価値観が「結婚するもしないも個人の自由である」という価値観に置き換わったことも、男性側の主導権をより強いものにしています。

では、その主導権を持つ側の男性たちは、何を持って結婚したいと考えるようになるのでしょうか。私の経験則で断言することが許されるならそれはずばり、この先数年ある程度の収入を得られる見通しが立っていることです。

弊社には結婚したい男性が日々訪れます。その男性たちに「結婚を意識したきっかけは何ですか?」とお伺いするとまず挙がるのが「そろそろ結婚を考える年齢になったから」で、次に挙がるのが「今後の仕事の見通しが立って結婚を考えられるようになったから」です。

前者の年齢に関しては個人の内面の話ですが、後者の仕事の部分については外部環境に大きく左右されます。そして彼らの言う「仕事の見通しが立つ」とは、より詳細に表現するなら「自分は結婚するのに十分な収入を得ており、今の収入をこの先数年は維持できる自信を持っている」ということなのです。

しかしながら今のウィズコロナ社会における日本経済の先行き不安は、男性に結婚を踏みとどまらせるには十分すぎるほどの力があります。おそらく今の状況において「今は結婚のことは脇に置いておき、収入の維持に集中したい」と考える男性は増えているはずで、それは婚姻件数の減少につながります。

コロナ婚が増えない3つの理由

以上より、私はコロナ婚は増えないと考えており、むしろ2020年の婚姻件数は大きく減ると予想しています。減少の要因は大きく3つです。

1. 新しい生活様式(在宅勤務、3密回避、マスク着用等)による出会いの減少
2. 前年の令和婚による増加の反動
3. 経済活動の停滞による先行き不安

加えて「人々が寂しい気持ちになりパートナーを欲するが、経済が停滞している」という状況が今と共通している2011年に婚姻件数が大きく減少していることも、私の仮説を補強しています。

最後に、ここまで読んでいただいた方の中には、今年こそ結婚をしたいと思う方、今年こそご子息、ご息女に結婚して欲しい親御さんもいらっしゃることと思います。

誤解なきようお伝えしたいのですが、仮に私の予想が当たって2020年の婚姻件数が大きく減ることになったとしてもなお、50数万組の夫婦が誕生することはほぼ間違いないのです。

個人がマクロレベルのことを心配する必要はありません。結局のところ、どんな状況においても「結婚はご縁とタイミング」なのですから。