※この記事は2020年03月15日にBLOGOSで公開されたものです

キーボードを打つ手が少し震える。

PCの画面を見ながら、目が涙でいっぱいになった。

私はほんの数分前に、自宅で卵巣の年齢をチェックできる検査キット「F check(エフチェック)」の診断結果を見た。

28歳独身の私の卵巣年齢は、43歳だった。

その数字が自分の予想外なもので、画面を見つめたまま呆然とした。顔は青ざめ、先ほどまで外から聞こえていた生活音が、無音になった。

「いつかは子どもができるだろう」となんとなく考えていた過去の自分をぶん殴りたくなった。

「卵巣年齢」からわかるのは「妊娠を望める残りの期間」?

卵巣年齢は、卵子のまわりの細胞から出る「AMH」(アンチミューラリアンホルモンまたは抗ミュラー管ホルモン)というホルモンを測定し算出され、いわゆる「卵子の在庫」の数を示すものだ。

AMH普及協会のサイトによると、卵子のもとである原始卵胞は、生まれる時には卵巣に約200万個蓄えられているが、月経のはじまる思春期頃には、約20~30万個まで減少。

そしてその後も1回の月経の周期に約1000個が減少していき、1日にすると30~40個が減り続けているとされている。

このホルモン数値は通常、年齢を重ねると減少するが、必ずしも相関関係があるわけではない。

私のように実年齢よりも高く出る場合は「残りの卵子が少なく妊娠できる期間が限られている」という可能性があるようだ。(数値が高ければ高いほどよいというものでもなく、高すぎる場合も不妊の可能性がある)

まだ妊娠したくなかった20代

現在28歳。周囲は結婚と出産のピークを迎え、SNSでは、新卒時代の会社の元同期が続々と結婚や出産の報告をSNSでしているのを見かける。

でも、どうしても私はまだ産みたくなかった。

取引先に「工藤さんは子どもとか考えてないんですか?」と聞かれても「まずは自分のキャリア形成の方が大切です」とキッパリ答えてきた。

理由は明確で、大学生の頃から「子ども1人を自分1人で満足に育てられるくらいのスキルと経済力を身に着けてから産むかどうか考える」と決めていたからだ。新卒時代に面接してくれた面接官にもこう答えていた。

今、28歳の私は、ほぼほぼ自分が思い描いた通りのキャリアを築くことができている。

今も30歳まではこのまま独身でいる予定だ。少なくとも、20代のうちに子どもは望んでいない。

そう思っているが、この先、いつかは子どもという存在が欲しいと思う可能性があるし、その時のために今回卵巣年齢をチェックしようと思ったのだった。

まず、いくつか病院を探してみた。しかし、卵巣年齢チェックの診察は「ブライダルチェック」と呼ばれる検査のセットに含まれている病院が多く、「ブライダル=花嫁の」という表現に少し抵抗があったので、自宅で検査できるものを選んだ。

「妊娠できないかも」は、どこか他人ごとだった

結果が出るまでは友人達に「50歳だったらどうしよう!」と冗談で言ってたし、実際にそうした診断結果になったとしても私はそこまでショックを受けると思っていなかった。

いや、実際のところ現実的に考えていなかったのかもしれない。

初潮を迎えてから、私は生理不順を経験したこともなければ、母親も3人子どもを産み、姉も2人出産している。身体的にも、遺伝的にも問題ないはずだと思っていたのだ。

「私は、絶対に大丈夫だ」と。

30歳の知人女性から「AMHの検査が40歳想定でショックを受けて、焦って妊活した」と話を聞いたことはあったが、どこか自分には関係がないと思っていた。

まさか自分がそれ以上の年齢だと思っていなかった。

「自分ごと」のように考えているようで、実際はどこか「他人ごと」だったのかもしれない。

卵巣年齢が43歳という診断結果が出たあと、すぐに知人の紹介で丸の内森レディースクリニックに行き、再度病院で卵巣年齢の検査をした。今度は0.98という数値が出た。これは卵巣年齢にすると「46歳」という数値だ。

淡い期待を持ちながら望んだ病院での診断だったが、結果は検査キットのものよりも高い結果になった。少しの誤差があったが、私の卵巣年齢は紛れもなく40代であることには間違いないようだ。

落ち込みながら「私は早く妊活した方が良いのでしょうか…?」と恐る恐る診断してくれた医師に尋ねると「この結果は、20代の方の場合あまり参考になりません。妊娠できるかどうかは卵子の『数』ではなく、『質』が大切だからです」と答えが返ってきた。

妊娠するために重要なのは卵子の「質」と「量」。

どれだけ卵子の量があったとしても、卵子自体の質が悪ければ受精ができない。しっかり細胞分裂ができ、正常な染色体をもつ「質のよい卵子」があるかどうかが妊娠において最も重要なのだ。

実際に医師自身もAMHの値は年齢相応だったが、35歳と39歳で妊活をした時には高齢出産にも関わらず毎回1回目で妊娠したという。

また、20代のうちは年齢的に若いので全ての卵子からAMHを出していないことがあるとのことだった。つまりホルモンを出さずに眠っている卵子があり、それは今回の診断で測れなかった可能性があるのだ。

医師からは診察の最後に「妊娠するにしたら早い方がいいですけど、予定がないのであれば30を過ぎたあたりでもう一度測りましょう」と告げられ、2年後にまた受診することにした。

ネットの情報だけでは不安の気持ちを拭うことができなかったが、専門家からの声を実際に聞くだけで大分心が軽くなった。

キャリアを考える前に自分の身体の検査を

人材会社で営業をしていた時、とある企業に妊娠や育児のため数年間ブランクがある候補者を紹介し、その人の職務経歴を説明したところ、採用担当者から「ネックですね」と言われたことがある。

1~2年の働いていない期間は、仕事で頑張りたい女性にとって「マイナス」になる。思うがままのキャリアを描く上のハンデになるのだ。

そのような現場を少なからず見ていからこそ、私は20代のうちは自分のための時間として動いていく予定だった。

しかし、「いつかは子どもが欲しい」そう思っている女性は、仕事がようやく楽しくなってくる20代後半に、妊娠とキャリアについて一度考えなければならない。残念ながら、妊娠にはタイムリミットがあるから。そして、タイムリミットがあるということの他に、「そのタイムリミットは、人によって違う」という事実を痛感した。

自分のタイムリミットがいつなのか。

私は、今回「30歳になったらまた来てください」と言われたが、もしかしたら医師の言う30歳を過ぎたとしても数値の変動はない可能性だってある。

だが、その可能性を感じながら過ごす残りの2年間と、何も考えないまま過ごす2年間は違う。

今後のライフプランを考え直すとするならば、「30歳までは絶対に産まない」という”自分ルール”を見直し、産めそうなタイミングがあれば妊娠にも前向きに検討していきたいと思う。そして、30歳のタイミングでもう一度検査に行き、卵子凍結も視野に入れながら再度ライフプランを設計する予定だ。

「卵巣年齢」のチェックは、妊娠力に直結はしないが、ライフプランについて改めて考える機会になるだろう。ほんの少しでも「子どもが欲しい」という気持ちがあるのであれば、一度30歳になったら自身の「妊娠について」や「自身の身体について」知る機会を設けても良いのかもしれない。