※この記事は2020年03月08日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスに対する日本政府の対策は遅過ぎる。全てが後手後手となっているのが現状である。

政府は5日、新型コロナウイルスの感染防止に対応する「新型インフルエンザ等対策特別措置法」について、西村康稔経済再生担当相を新たに担当相に任命し、来週10日に閣議決定した後、12日に衆院を通過させ、13日にも参院本会議で可決、成立させることを確認した。

それでも成立するのが1週間後である。

五月雨式の場当たり対応

安倍晋三総理がスポーツや文化に関するイベントの開催について「中止・延期、または規模縮小等の対応を」と各方面に要請したのは先月26日のことだった。続けて3月2日からは「全国全ての小中高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校」を呼びかけた。

「これはどうか」「これでもか」「だったら、これならどうか」と、五月雨式に発表する対策は、とにかく場当たり的。その挙句が、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案である。

自民党国会対策委員長の森山裕氏は、集まる記者団に「早く法案を成立させることで(与野党の)気持ちは一致している」なんて言っていたが「トロトロし過ぎだろう」だ。こんなもの、いちいち改正せずとも現在の新型インフルエンザ等対策特別措置法でも通用する。さっさと実行すればいいだけだ。

本来、こういった法令はスポーツやイベントの開催自粛や小中高校などの臨時休校を要請するのと一体となっているものだ。にも拘らず…やはり安倍総理は民主党政権下で作った法令などは適用したくなかったのだろう。思った以上に意地っ張りだ。

そもそも、安倍総理が指定したスポーツや文化に関するイベントの開催自粛の目安は3月15日までである。ところが、改正した法令が13日に可決、成立なんていうこと自体、ズレている。間抜けである。対策そのものが、単に自分の理屈に合わせたかっただけのことで、場当たり的だと言われても仕方がない。

それだけではない。中国と韓国からの入国者全員について、検疫法に基づき、医療施設などで停留するか、政府指定の施設で2週間隔離した上で入国許可を出すことになった。さらに、実施には批判もあるが中国と韓国に発行済みの査証(ビザ)は効力を停止し、観光客の来日自粛を要請したことについては「今さら感」はあってもとりあえず評価はできる。が、これにしても遅過ぎる処置だっただろう。

いずれにしても「感染拡大防止」を叫ぶのはいいが迷走しきっており、安倍総理もそうだが、厚労省や「専門家会議」なども何だかなぁと言った感じである。

カラオケボックス禁止よりパチンコ禁止に

確かに、専門家会議などでも言われている小規模な感染者の集団「クラスター」の発生防止策というのは理解できる。しかしその一方で10代から30代の若者層に対して、風通しの悪い場所、密集地を避けるように呼びかけていくということについては、その明確な根拠がわからない。

つまるところ、若者層の感染者に明確な症状が確認されていない――ということらしい。

しかもそれは若者層が「医療機関に行っていないため」だとか。そもそも検査に行ったとしても、症状が出ていなければ検査することさえ拒否してきたのに、いつの間にか「若年層がリスクの高い場所に行って感染し、さらに別の場所でクラスターを発生させる恐れがある」というのはどうなのか?

その避けるべき場所として挙げているのが「ライブハウス」や「カラオケボックス」、さらには自宅での「飲み会」である。

確かにライブハウスは理解できても、カラオケボックスに行くときは大抵数人だろうし、自宅での飲み会にしても不特定的多数が集まるとは考え難い。

いずれにしても、このご時世である。言われたら「そうだよね」となるだろうが、わざわざカラオケボックスや自宅での飲み会を挙げる意味があったのか?

だとしたらスナックやクラブ、キャバクラの方が危ない。しかも、そこには個室やカラオケルームを備えているところも多い。

そう考えてみると、何となく専門家会議のメンバーの思いつく、当たり障りのない場所だったのかと理解するが、敢えて最も危険な場所として挙げるべきは「パチンコ店」だったはずである。さらに、ライブハウスやカラオケボックスを挙げるのなら映画館だって危な過ぎる施設だろう。

しかも、わざわざ10代から30代と限定することではない。ここにきてクラスターとされている、大阪のライブハウス「Arc」と「Soap opera classics Umeda」の2店の訪問者は20~60代と幅広いが、感染者の年齢層を見ると40~50代が比較的に多い。その他にも屋形船、スポーツジム…新たなクラスター発生を防ぐための対策と言われているが、どうも的外れのような気がしてならない。

疑問なのは今回、クラスターを発生させているライブハウスが大阪のライブハウスに集中していることだ。果たして、そのことについては調査されているのだろうか?

IOCの東京五輪発言で慌てた安倍政権

それにしても、どうしてここまで対策が迷走するのか?

要は、最初から安倍政権には「新型コロナウイルス」に対しての危機意識がなかったのだ。「中国・武漢で流行っている妙な肺炎」程度の認識しかなかったに違いない。

その安倍政権が急に対策を考え出したのは、国際オリンピック委員会(IOC)で委員を務めるディック・パウンド氏(カナダ)が、「東京オリンピック・パラリンピック」の開催に言及したことだった。

「開催するかどうかの判断の期限は5月下旬」

と発言したことから、大慌てになった。つまり、ここにきて安倍総理が必死になっているのはIOCに対して「日本は感染拡大に対しての対策をしていますよ」とアピールしているに過ぎないのである。

だが、今やその対策が逆効果になっているとも言われている。

スポーツやコンサートの自粛、延期もだが、小中高校と特別支援学校の臨時休校は、諸外国――特に米国に対して日本への危機感、あるいは不安を与えたように思う。ここにきて米国が日本の入国規制を検討しているというが、安倍総理の唐突な行動はイメージ的にも少なからずの影響を与えているに違いない。

しかも、緊急事態宣言も可能にした「新型インフルエンザ対策特別処置法改正案」にしても今後どう見られていくか。全ては感染の状況次第ではあるが、不透明な部分が多い。

ある大手のイベント関係者は、政府が一番気にしている東京五輪の開催について「もはや7月開催は絶望的」と言い切っている。事実、橋本聖子五輪担当相も、3日の参院予算委員会で「20年中であれば延期できる」なんて言い出している。

もっとも、IOCの報道官は「現在の状況から判断して変更する理由はない」とし、バッハ会長も中止や延期の可能性について議論していないことを明言。その上で「成功に向けて尽力する」としているものの、現実は不透明だ。

前出のイベント関係者は「国内のスポーツやコンサートが何とか回り出すのは5月に入ってから」と予想するが、五輪については「出場を辞退する国や地域が出てくるはず。米国にしてもバスケなど団体チームは来ないかもしれません。そうなったら延期ではなく、間違いなく中止でしょう」

さらに「この際、五輪のために建設中の選手村などを緊急の治療と隔離施設にした方が有効。おそらく2万人以上は収容できるのではないでしょうか。新たな特措法が成立し、選手村を含め周辺の施設を利用する緊急事態宣言を出せば、政権は評価されるかもしれません」

いずれにしても、五輪開催の運命はIOCというより、多額の放送権料を出している米NBCと選挙を前にしたトランプ米大統領が握っていると言っても過言ではない。

森友、加計問題や財務省の改竄、さらには昨今の桜を見る会、カジノ疑惑、検事長の定年延長問題など、安倍政権を巡っては様々な問題が浮上してきたが、それぞれ批判はあっても安倍支持は揺るぎがなかった。

ところが新型コロナウイルスで一転。一気に日本中を不安に陥れ、揺るぎなかった支持率も急降下となっている。これも国民性か?

極端なことではあるが2月29日と3月1日のコンサートを中止にしなかった椎名林檎(6日以降の5公演は中止)には、批判が殺到している。良くも悪くも日本中がヒステリックになっているのだ。もっとも、その椎名林檎が東京五輪の音楽監督を務めることになっているのはご愛嬌だろうか?