日本人が日本人の面倒を見るという当たり前の介護を - 毒蝮三太夫

写真拡大

※この記事は2019年01月25日にBLOGOSで公開されたものです

最近さ、タレントや芸人が政治の問題に対して発言すると、その度に「よく言った」とか「立場をわきまえろ」とか騒がしくなるけど、誰が何を言ったっていいんだよ。言いたいことがあればどんどん言っていい。

だけど、知名度があって世間に顔が知られている存在なら、公での政治的発言は自分自身にも返って来るからな。自分がきちんとしてるなら堂々としてればいいし、表のパフォーマンスだけで裏でおちゃらけてるヤツだったら信用もされずに叩かれるだろうよ。結局、中身が問われるってことだ。

俺の盟友だった立川談志は、政治的発言なんてレベルからも飛び越えてたな。世間が北朝鮮の拉致問題で大いに騒がしくなった時期に、独演会の高座でしょっちゅう「キムジョンイル、マンセー!」ってやってた。もちろん本気でそんなこと思っちゃいないよ。客がどんな反応するか見たいだけなんだ。もっとも談志を聴きに来る客は大人だからね。言葉の表面だけ捉えて「不謹慎だ」なんて騒ぐやつもいなかったよ。そのうち「談志のやつ、またキムジョンイル、マンセーって言ってるよ」って呆れたりしてね(笑)。

談志は1971年から参議院議員を6年やったけど、よく俺にね「お前さ、都知事選出ろよ」って言ってたよ。「出れば絶対通るよ。お前みたいにあちこち走り回ってさ、ほんとのドブ板見てるヤツは他にいないんだから。都知事になっちゃえよ」って。確かに俺はラジオ(「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」TBSラジオ)の中継で、毎日毎日どれだけの町を訪ねて、地元の声を聞いてきたか…。

でも俺が選挙出て都知事に選ばれてもさ、議会で質問がしつこい女性議員相手に、いつもの調子で「うるせーなこのババア!」なんてすぐ言っちゃうんだろうな。そしたら、真っ先に懲罰委員会かけられてクビだよ(笑)。

俺なんかはさ、こうしてタレントをしてるからいいのであって、ジジイはジジイ、ババアはババアって言いたいように言えるからいいんだ。始めから都知事をやるような器じゃないってことは自覚してるよ。

でもね、ラジオの現場を通じてさ、あたり前の庶民がどんな暮らしをして、どんなことを良いと感じ、どんな問題に腹を立ててるのかってのを、常に見聞きしてるからね。「あれは、ああしてほしい」「これは、こうしてほしい」なんて次々に聞かされてさ、「まむしさん、何とかしてよ」って陳情されっ放しだよ(笑)。

志望者が減り続ける介護業界

中でも切実なのは福祉の問題だな。俺ね、福祉関係の大学で長らく授業を受け持ってるんだ。そこでは介護職志望の学生がこの10年、段々と減ってるの。あのね、10年ぐらい前は介護業界が世間的にもクローズアップされて、学生の志望者が大勢いたんだ。

だけど今では状況一変。人が集まらないから介護系の専門学校も徐々に潰れ始めてる。少子化で定員割れの大学も目立つし、学校側は外国人を受け入れる方向に舵を切っているよ。

なぜ介護職の志望者が減っているか? 介護の現場は要するに「仕事がきつい」「社会的地位が低い」「収入が低い」ってことなんだ。介護職は他の職業と比べたときに収入が低いから、就職しても結婚して家庭持って子育てするのも経済的に難しい。介護という職場に興味があったとしても、自分自身の将来を考えたら…って、そりゃあ成り手も減ってくよ。

介護は見ての通り、モノを売る仕事じゃない。健康な人が弱っている人の世話をするという福祉事業だよ。現場で働く人々の給料を下支えするのは、国民の税金と介護保険料で収めた金だ。これが介護職の人件費に補填されるんだ。

だけど介護保険料で徴収される額には上限がある。給料は上がらない。待遇が向上しないから介護職は増えない。むしろ減っている。年々高齢者は増え、要介護者の数は増えている。そうなると一人あたりの仕事量が増える。現場がどんどんきつくなる。だけど給料は上がらない。他の業種のほうが条件がいい。やむをえず離職。そういう業界に入ってくる若い人は先細り…。介護職の業界はマイナスのスパイラルに覆われてるんだ。

現在、どれぐらい介護職が足りてないのか。厚労省の発表によると2020年に必要な介護職員数が約225万人で、供給が予想される人員が205万人。約20万人足りないそうだ。そして、団塊の世代(1947年~49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になり、要介護者の大きな増加が予想される2025年には、必要な介護職員が約245万人で、供給が予想される人員が211万人。約34万人が不足する見通しらしい。

人間誰だって必ず老いる。いつ介護が必要になるかわからない。決して他人事ではなく、ごく身近な自分自身の問題なんだ。そりゃまあ、一部の金持ちは金を積むことでさ、倉本聰さんのドラマでやってた「やすらぎの郷」みたいなさ、何から何まで不自由のない高級な有料老人ホームに入れるだろうよ。

でもそんな老後はごく限られた一部の人のもの。庶民の大多数は費用をなんとか安く抑えられる「特養(特別養護)老人ホーム」の入居待ちだったり、訪問介護ヘルパーのデイサービスでしのいだり、老老介護で綱渡りの暮らしになったりさ、切実なんだよ。

介護を受けたくても、介護職者がいないから介護を受けられない、にっちもさっちもいかず放ったらかしになる…まもなくそういう日本になるってことだ。

外国人労働者で介護事業を乗り切ろうとする我が国

そして先日、国会で「入国管理法改正案」が可決されたね。外国人労働者をより積極的に受け入れて、日本の労働者不足を補っていこうという話だ。そこで、介護職も5万人から6万人の外国人を受け入れることを想定しているんだ。

ああ、そうなれば介護職の不足が少しでも解消されるね…って話じゃないよ。いいかい、これは国の在り方の根幹に関わる話だよ。

老いた日本人の面倒を日本人が看きれないから、外国人に助けてもらう。そういう社会に舵を切ろうってことだろ。国が介護職不足の問題――要するに低賃金の問題――を先延ばしにして、今の低い待遇でも請け負ってくれそうな、低賃金でも従事してくれそうな、そういう外国人に頼るってことだろ。

しかもこの「入国管理法改正案」って、外国人が5年は日本で働けるけど家族の帯同は認めない、とかさ、家族も一緒だとややこしくなるから、とにかく単身赴任で来てくれと。あとは期限が来たら国に帰ってくれと。もちろん正社員でも何でもない、まるで国境を越えた「ハケン」だな。

あとさ、受け入れた外国人が高度な技術者と認められたら滞在が10年に延長できて、家族も帯同できるって話だ。「使える」外国人はいるけど「使えない」外国人はいらないよって、世知辛いよな。

これさ、もしもの話だけど同じ制度が他国にできて「いま我が国では介護職が不足してます。今後、日本人労働者を5年まで単身で受け入れます。我が国の高齢者の介護をしてください。なお、家族の帯同は認めません。5年働いたらどうぞ国にお戻り下さい。基本的に低賃金です」とか言ったら、「ふざけんなコノヤロウ」ってなるんじゃないの?

結局さ、日本人がやりたくない仕事を外国人にやらせるって、そういう話だろ。自分達がやりたくないことを外国人に押しつけようってことだろ。早い話、差別だよな。ホントにそれでいいのかね。

しかもさ、政府は最初すっとぼけてたけど、野党が資料を調べたら、外国からの技能実習生がこの3年で69人も凍死、溺死、自殺で死亡してたって。遠い国から来た働き手をきちんと受け入れる環境、心身のケア、そういうのがおざなりでさ、とにかく働けってことだったのかね。まるで「命の使い捨て」だよな。3年で69人が死ぬの? どっかの国の強制収容所みたいな話だぞ。

外国人が日本語で介護をする難しさ

改めて介護職の問題だけど、日本人が日本人の面倒を見る、この当たり前の倫理に向きあわないで、外国に頼る方針を選んだ時点で、国としての尊厳を見失ってるよ。

とくに介護はさ、言葉のコミュニケーションが大事なんだ。言葉が不自由な外国人にはハードルが高くて難しいと思う。日本人だって現場でコツをつかむのに経験が必要なんだ。外国人が懸命に日本語を覚えたとしても、現場で受けるコミュニケーションのストレスは相当なものになるよ。

それにさ、介護される高齢者のほうも老化で物忘れが増えたり、ワガママになって乱暴な言葉を吐いたり、認知症でボケが入って何言ってんだかよくわかんなくなったりするんだから(笑)。介護するほうもされるほうも言葉がよくわかならないって、笑うに笑えないぞ。

そういう日常のストレスがさ、高齢者虐待につながったり、痛ましい事件につながったりしかねないんだ。日本人同士だって実際にそういうニュースが出てきてるだろ。

もしね、外国人でも日本語が堪能で介護の仕事を希望したい、そういう人がいるならぜひ現場で働いてほしいよ。でも、そういう外国人に何万人も頼らないと日本の介護現場が成り立たないっていうのはおかしいよ。

べつに難しいことを言うつもりはない。日本人の面倒は日本人が見る。若い人が働きたくなるような「普通の」給料にする。さらに介護職を補う為に、例えば家庭で介護経験のある主婦に新たなライセンスを与えて介護現場にいざなう。そういう臨機応変な方策も必要だ。

安倍さんもさ、日本人の介護職を増やすことは放っておいて、昨夏に参議院の定数をしれっと6人増やしただろ。おいおい、どこ増やしてんだよ!

これで参議院議員が総数248名。俺、82歳になって冷静に思うけど、参議院いらないよ。参議院無くしてその歳費を介護職の給料に充ててやりなよ。ここは声を大にして言わせてもらうよ。参議院いらない、あとニュース番組に出て当たり障りのないことしか言わないお笑い芸人のコメンテーターもいらない。どうしてもお笑い芸人を出したいなら、松元ヒロを使え! 松元ヒロが出るなら俺は見るぞ。でも、あいつは当たり障りがあるからな…生放送の初回ですぐクビかもな(笑) 。

とにかく、介護職の待遇改善は急務だ。この問題、俺はこれからも言い続けるよ。

(取材構成:松田健次)