※この記事は2019年01月18日にBLOGOSで公開されたものです

今年は天皇陛下が生前退位される。それに先立って85歳の誕生日を迎えた年末に、陛下は会見をされたね。あの全文、どの一文にもしみじみ感じ入ったよ。中でもとくに陛下の思いがより込められていたのが、「平和」に言及された箇所だったと思う。

「平成の時代に入り、戦後50年、60年、70年の節目の年を迎えました。先の大戦で多くの人命が失われ、また、我が国の戦後の平和と繁栄が、このような多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず、戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切であると思ってきました。平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」


戦争に直面したのは父親である昭和天皇だった。そして陛下は皇太子時代からご自身もその責任を感じ続け、戦争で散った命と、残された遺族に思いを寄せて、ご公務と慰問訪問を重ねてきた。沖縄には11回足を運び、そしてサイパン島、ペリリュー島、フィリピンのカリラヤにも慰霊の訪問におとずれた。

そういう歩みを積み重ねてきた内なる思い、平和の持続を希求する思い、それらがひしひしと伝わる会見だったよ。

俺は改めて思った。日本が近代を迎えて、明治・大正・昭和・平成と、天皇陛下は四人いらした。そして明治・大正・昭和の天皇は戦争に関わった。つまり、軍服を着なかった天皇は、今の陛下だけなんだ。それがいかに大きな意味を持つかってことだよ。

その代わり、今の陛下は災害の多い時代と共にあった。阪神淡路大震災、東日本大震災、福島原発事故。さらに熊本、大阪、北海道の地震に、広島の台風被害。地下鉄サリン事件という最悪の人災もあった。他にも被害の大小で語れない多数の「災」があったよな。

その度に陛下は、被災地におもむき、避難所をたずね、被災者を見舞われた。そのときの作業服のお姿が何よりも印象に残っているよ。長靴を履いてさ、ひざまづいてさ、被災者と同じ目線になって、手を握って、声をかけ、時間の許す限り励ましてね。軍服ではないんだ、あの作業着姿なんだ。それが平成の天皇なんだよな。

それ以前は国民とじかに触れあって握手なんて機会はおそれ多くて無かったもの。これはさ、美智子さまという方が民間から皇室に入られたことが大きいよ。そこから徐々に開かれた皇室へと変わっていったんだよな。

あのね、俺はこの50年、ラジオ(「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」TBSラジオ 1969~)を通じて商店街やスーパーや銭湯や色んな場所に出かけ、そこにいる地元の人々と触れあってきた。今も週一回続いてる。くたばりそうなジジイやババアとツラ突き合わせてね、俺なりに励ましたり、悩みを聞いたりしている。そこで握手をして肩を叩きあって触れあったりね。

ときどきやかましいガキをどやしつけたり、安産祈願でよく母乳が出るようにご婦人のオッパイをちょこっと触わったり…陛下が市民と触れあう姿とは「似て非なり」だけどね(苦笑)。でもさ、人と人がお互いに顔と顔を合わせてじかに話をすると、気持ちの中にきちんとね、伝えたい思いが残るんだよ。

陛下が積み重ねてきたのは、そうして、みずから現場におもむいて人に会うってことだった。ご高齢になってこの何年も、遠方に移動して実務をこなすことは、体力的にとてもきつかったはずだよ。だから、心からお疲れさまでしたと頭を深々と下げたいよね。

そしてさ、次の天皇陛下が何度も作業服を着ないで済む、災害の少ない時代が続くといいよな。

しかし、最近の総理は作業服が似合わないよな。着てるんじゃなく、着せられてるって感じだもんな、あれ。服が浮いてるもん。いかにもおろしたての新品だってのもあるけどね。ああいうのはさ、一回洗濯したほうが自然に体になじむんだよな。洗濯は大事だよ。坂本龍馬も日本を洗濯したいって言ってたろ。あれは幕末だったけどさ。これが今の日本だと最低十回は洗濯しないとな。とくに永田町は百回…って、なんだっけ? そうそう、作業服の話だったな。

ま、早い話、服が持つ役割というか本質みたいなものに中身が伴ってないんだよな。それが透けて見えちゃう。だから似合わない。にわか作業着。ガハハハハ、ちょっと口がすべったか? しょうがないよ、ホントのことだから。

ほら、スーパーボランティアの尾畠春夫さんなんかさ、いま79歳か? あの歳でツナギ着て、Tシャツ着て、頭に赤いタオルぐるっと巻いてさ、スコップかつぐ姿が板についてるもんな。作業するぞっていうエネルギーが内側からにじみ出て、着衣にエネルギーがみなぎってるよ。人と服のなじみ具合ってのは、ごまかしが効かないもんだな。

その点、俺なんか若い頃、ウルトラマンの科学特捜隊でアラシ隊員、ウルトラセブンのウルトラ警備隊でフルハシ隊員、あのコスチュームをビシッと着こなしてただろ。地球の平和を願う気持ちが、内面からにじみ出てたからな。でも冬はさ、あの隊員服が薄くて寒いんだ。下にラクダのシャツを着てたらそれがカメラに映っちゃって、監督に怒られたよ(笑)。

(取材構成:松田健次)