今なお続くアフリカのアルビニズム迫害 残酷な報道は偏見を強めているのか?専門家の見解は - 村上 隆則

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※この記事は2018年12月21日にBLOGOSで公開されたものです

アフリカで今なお起きている迫害の現実を知って欲しい--

11月、「東京アルビニズム会議」が東京・日本財団ビルで開かれた。当日はアルビニズム(白皮症)の当事者や支援者がアフリカから東京に集い、アフリカ各地で起きているアルビニズム迫害についての現状を訴えた。

アルビニズムとは・・・ 白皮症とも呼ばれ、メラニン色素剛性の減少や欠損が原因で、民族や人種、性別に関係なく、出生時から皮膚・毛髪・目の色が薄くなる遺伝性疾患。多くの場合、アルビニズムの人々は白い肌と白い髪を持ち、視力障害も伴うという。また直射日光にも非常に弱く、日焼け止めを使用しないと皮膚癌を罹患することも多い。

サブサハラ・アフリカでは迷信によりアルビニズムの人々に対する偏見が根強く、幽霊だと信じられていたり、その肉体が「選挙に当選する」など幸運を呼ぶものだとして身体の一部を切断されたり、殺害されるなどの被害が数多く報告されているという。

このような重大な人権侵害が行われていることを考えるきっかけとして、今回の「東京アルビニズム会議」は開かれた。冒頭では日本財団の笹川陽平会長が「誤った理解に基づく差別や偏見で人間の尊厳が侵されている」、「どのような貢献ができるか引き続き探っていきたい」と会への思いを述べた。

5歳の少女が襲撃される アルビニズム迫害の現実

会議の中で、自身もアルビニズム当事者であり、アフリカのアルビニズムの人々へ啓発と教育支援を行っているNGO「アンダー・ザ・セイムサン」代表であるカナダ人のピーター・アッシュ氏が、その中で知り合った少女の身に起きた事件について語った。

「夜に男が押し入り、5歳の少女の喉が掻き切られ、手足が切り取られました。そして男は少女の血を鍋に入れて、その場で飲んだのです」(ピーター氏)

ピーター氏はこうした悲惨な襲撃が起きる理由について、「問題は迷信や誤った考え方にあります。アフリカでは魔術、呪術などがアルビニズムへの偏見に深く関わっています」と明かしつつも、こうした偏見はアフリカだけでなく、どの国にもあるとして、ひとつの事例を挙げていた。

「映画『ダヴィンチ・コード』ではアルビニズムの人が時速60マイルで車を運転し、銃を乱射していました。しかし、事実としてはアルビニズムの人は視力障害のため車の運転はできません。このような有名な映画でさえ、アルビニズムの人々を悪魔のように描いているのです」(ピーター氏)

アンダー・ザ・セイムサンはInstagramにも様々な写真を投稿している

「同じ人間同士、理解を深めて」偏見乗り越えてとメッセージ

こうした偏見を乗り越えるためにはどのようなことが必要なのだろうか。

ピーター氏は会議後取材に応じ、「アルビニズムはアフリカだけでなく、世界中で誤解されています。私もカナダで子どもの頃、道を挟んだ向こうから、『アルビノだ!』とからかわれたことがあります。すべては無知が原因です。」と自身の経験を教えてくれた。

また、アルビニズム問題に馴染みの薄い人々に対しては、「アルビニズムの人々は2万人に1人いるといわれています。私たちはメラニン色素が欠損していること、視力障害を持っていることの2つ以外は多くの人々と同じ。偏見を乗り越えるために必要なのは知ることです。同じ人間同士、手を差し伸べて理解を深めていけばいい」とメッセージを送った。

アフリカへの偏見をメディアが強める?歴史を踏まえた報道を

アフリカに対する報道は、アルビニズム迫害に限らずショッキングな問題が取り上げられがちだ。アフリカ日本協議会の稲場雅紀氏によると、こうした問題だけをクローズアップして報じるメディアの姿勢については再考の余地があるという。

「アルビニズム問題のように、アフリカには問題を認識して、自らの手でそれを解決しようという動きがあり、これは非常に価値のあることです。一方、そうした自らの手で自らの問題に取り組もうという運動の存在は報じられず、『こんなにひどいことがある』という部分だけが報じられてしまう。もしくは、そうした運動は全てヨーロッパなど『外部』に由来するものだという思い込みが刷り込まれてしまう。このことがアフリカへの偏見を強めてしまうこともあるのではないか」(稲場氏)

また、アルビニズムの問題では呪術などの伝統医療が問題となるが、それについても「アフリカの伝統医療は『迷信』『おかしな習慣』として取り上げられることが多いが、アフリカの厳しい自然風土の中で、その時点で確立している知の在り方において世界を解釈し、社会を組織し、生き抜いていくうえで必要な集団的な知恵として作られて来た要素もある。近代科学的な思考だけで切り捨ててしまうと、、アフリカの人たちも簡単には受け入れられない」と、アフリカについて考える際には、歴史的背景を踏まえることが重要だと述べた。

稲場氏は最後に、「世界第3位の経済規模を持つ大国である日本が、単に遠いから、『経済的メリット』がないからというような理由で、アフリカについて思考停止で構わない、と考えるとすれば、日本は世界の現実と向き合う大きな契機を失うことになる」と、今後、文化的にも経済的にも、アフリカとの関係を築く戦略の必要性を訴えた。

12億人が55ヶ国に分かれて暮らすアフリカ大陸。植民地時代にもたらされた文化とアフリカ土着の文化が混じり合う中で、人権問題や経済問題にどのような形で介入するのがベストなのかは議論の余地があるだろう。日本が今後、国家レベルでも市民レベルでもアフリカ全体と良好な関係を築いていくために必要なことはなにか、今後も考え続けていきたい。