※この記事は2018年11月20日にBLOGOSで公開されたものです

2018年1月5日、愛知県名古屋市名東区のマンション9階から、同市立中学校の女子生徒・真美(仮名、当時13)が転落し、死亡した。愛知県警は自殺と判断した。名古屋市教育委員会は遺族の求めに応じ、「いじめの重大事態」として、調査委員会「名古屋市いじめ対策検討会議」で、いじめの有無や因果関係などを調査している。遺族の父親が、筆者の取材に応じた。

真美は2017年9月1日、関西地方の学校から転校。父親の転勤が理由だった。当初、友達と離れるのが嫌だったのか、真美は引越しを渋ったが、父親が「バラバラになるのは嫌だな」などと説得し、最終的には真美は納得した。1学期が終わる7月末には名古屋に来ていたが、2学期からの転校という形をとり、11月からソフトテニス部に正式入部した。

亡くなった真美(仮名)

「通学路や駅までのルートを確認し、家の近くを一緒に見て歩いた。転勤族が多い場所のほうが転校生に慣れているだろうと思い、学校を決めた。家は学校の近くのマンションにした。転校後は家と学校の往復なので、娘の行動範囲は広くない」

自殺当日は、テニス部の合宿。集合場所に行くはずだったが…

自殺したのは2018年1月5日。7日までの2泊3日の予定でソフトテニス部の合宿があり、真美は朝早くに家を出た。集合時間は午前7時前。目覚ましは午前5時にセットしてあった。自分で起きて、一人で家を出たため、朝は、家族と会話していない。そのため、最後の会話は前日の夜だったという。

父親「明日は部活で早いんでしょ」
真美「うん」
父親「早く寝なさい」
真美「わかった」

どこにでもある家族の会話だ。

合宿の前日に、ユニフォームの背番号をつけるボタンを縫い付けていた。写真は、そのユニフォーム。

6時45分頃に「まだ来ていない」と連絡があった。父親は「とうに家を出たはず。もしかして迷子になっているのでは?」と思った。引越して4ヶ月。真美は土地勘もない。先生たちも探した。さらに20分ほど過ぎても「まだ見つからない」との連絡があり、学校とは反対方向にある駅のほうも探すが、見つからない。

その間、近隣住民がジャージ姿の女子中学生を発見し、「女の子が血を流して倒れている」などと110番通報がされていた。そうとは知らない両親は、50分ほど経って、「これはおかしい」と探しに行こうと外に出ると、パトカーのサイレンがなっていた。エレベーターで降りると規制線が張られていた。

父親「警察に連絡しようと思っていたんですが、うちの子が見つからないんです」
警察官「女の子ですか?特徴は?着ていた服は?自宅は?」

詳細に質問された。警察を自宅に案内すると、刑事が入ってきた。「娘に何かがあったんだ」と、とっさに父親は思った。刑事は本棚やノートを見ている。そのうち、捜査が落ち着くと、「9階に来て欲しい。荷物が通路にあるので、見て欲しい」と言われた。

父親「娘の荷物です。買ってあげたバッグです。間違いない」

自宅に戻ると、警官から「病院に行っていただきたい」と告げられた。胸のざわつきを抑えつつ、車で病院へ急いだ。病院には警官が待っており、緊急治療室へ案内された。いつもと変わらない寝顔で横たわっている真美がいた。

父親「先生、寝ているんですよね?」
医師「すいません」
父親「苦しんだんでしょうか?」
医師「即死だと思います」

顔にけがはない。寝ているような表情だったという。亡くなった事実を受け止めるしかなかった。

「涙が止まらなかった。口からでる言葉は、『なんで?』しか出なかった。何度も何度も…」

遺書もメモもない。しかし、直前に気になる出来事が…

遺書やメモはない。日記も書いていない。携帯電話は使っていない。「みんなは持っているけど、私は要らない」と言っていた。関西時代は、LINEも母親の携帯を使ってしていた。引越し後は、携帯を使っているのも見たことがないというから、SNSで悩みを打ち明けている可能性も高くない。

直前の出来事で、気になることはなかったのか。

「年末の12月28日までは部活だった。その後は、家で恋愛ドラマの再放送を一緒に見ていた。お餅も食べていたし、成人式には『着物も着ないとなあ』などと言っていた。1月3日まではほとんど一緒にいて、リラックスしていた」

ただ、部活が休みになる前の12月24日。有志で行われるソフトテニス部の試合「クリスマスカップ」があった。そこで何らかのトラブルがあったようだが、そのことについては会話していない。翌日も「疲れた」と言うだけで、そのまま寝てしまうようになった。

「妻は何かおかしいと思っていた。普段は聞かなくても、何でも話をする娘。しかし『試合どうだった?』と聞いても、『うーん』と言うだけではっきり言わない。どんなに疲れても必ず着替えて休む娘だが、25日から28日までの4日間は着替えずに寝ていた。娘の中では、激動なことが起きていたのではないか。だから疲れたのではないか」

ちなみに、この部活動では土日も平日もほぼ休みなし。土日は午前8時から午後4、5時まで。ブラック部活と思われるルールもあった。ルーズリーフの手書きで書かれた詳細なルールを手渡されていた。

調査でのヒアリングでは、けがで休んだとしても、グラウンドを3周走らなければならず、休むたびに3周ずつ増えていく。休みにくい雰囲気があり、休むと行きたくなくなり、退部した生徒もいる。挨拶が他の部活よりも厳しく、先輩が気がつくまで挨拶するというルールがあった。

ただ、部活ノートに真美は毎日のように気が付いた点を書き続けていた。しかし、着替えずに寝てしまった12月25日は1行だけ。それ以降は書いていない。

「部活ノート」。最後は1行のみ。

「9日の始業式で校長が全校生徒へ話をしたが、内容を事前にもらった。そこには『転落死』とあったので『自殺』にしてもらった。すぐに調査が始まった。最初は無記名式でアンケートをしてほしいと言ったが、学校や教育委員会側は『無記名では後追いがしにくい』と言っていた。でも『無形名でないと、書ける人も書けない』と伝えたが、記名式での実施を押し切られた」

アンケートにはいじめの関連する記述があったが、調査委での調査継続は遅れる

対象も当初は1年生のみと聞かされた。「なぜ1年生だけなのか?意味がない」と主張した結果、全校生徒が対象となり、不登校と病欠以外の生徒が記入した。

アンケート当日の1月10日。指定された時間よりも先に、父親は学校へ出向いた。「何かがひっかかっていた」というので、一番最初に内容を確認した。「部活はいじめがひどいと聞いている」「上下関係が厳しく、いじめがある」など、いじめに言及した内容もがあった。原本のコピーをもらうこともできたが、確認後に校長が最初に口にした言葉が忘れれない。

「どうですか。お父さん。学校側が隠そうとしてないことがお分かりですか」

その発言に対し、父親は怒りをぶつけた。

記名式でも、いじめの可能性が高いことがわかり、父親はすぐに無記名式でのアンケートの実施を願い出た。学校側は「この記名式アンケートの調査でも大変」との理由で、なかなか実施を決めなかったが、結局2回目は1月23日に無記名で実施した。

1月末、父親は「いじめの重大事態としてとらえているのか」と教育委員長あてに質問状を出すと、「とらえていない」との回答だった。しかし、父親は納得がいかず、何度も教育委員会へ聞いたが、毎回、「証拠がない」と言われるだけだったが、ようやく、2月中旬、市教委は「いじめの重大事態」として扱うと遺族に伝えた。

「『娘が○○さんから無視されることがあると言っていた』と市教委に伝えた。文科省には『重大事態ではないか』と報告は上げているようですが、理由は私が伝えた内容だけが記載されている。アンケートでいじめの可能性が疑われたことは書かれていない」

また、アンケート内容から関連する生徒91人をしぼり、面談の同意があった66人の聞き取りを行った。しかし、アンケートから浮かんだいじめのキーマンとなる人物に対しては、「親が協力をしてくれない」と、聞き取りはされなかった。

4月、市教委は「いじめの有無もふまえ、直接的な自殺の要因は特定できない」との報告書を提示した。しかし、アンケートには「いじめ」に関すると思われる記述があるため、納得いかない遺族は、調査委員会の設置を求めた。市教委はその求めに応じ、「いじめ対策検討会議」で調査を継続すると決めた。ただ、調査委員には遺族推薦の委員を入れない方針をとり、9月からいじめの有無を調査している。

名古屋市いじめ対策検討会議条例によると、検討会議は、いじめ防止対策推進法によるいじめ防止に関する措置をする「常設委員会」と、いじめによる自殺や不登校など「重大事態」が起きた場合に調査をする組織とを兼ねていることになる。いわゆる「第三者性」はなく、内部調査に近い。

調査に対する不信感から情報公開請求。職員会議の議事録は作成していない?

「検討会議」による調査がスタートしても、遺族側の不信感はまったく払拭されなかった。

「『聞き取りをする生徒は少なく、調査として成り立つのか』との問いに、成り立つと根拠のない説明ばかり。熱意は全く感じられない」

父親はあまりの不信感に、調査に関する資料の情報開示請求を実施した。しかし、出てきた資料は、捺印もサインも、文章ナンバーもない資料ばかり。市教委や学校で行われた会議や職員会議の議事録は「作成していない」と、非開示通知に記載してきた。

「請求していた生徒への聞き取りの録音テープ等の証拠も、開示通知書類には記載されていたが、開示当日、『あるかないか分からないので確認するので、後日連絡する』というのだ。開示期日を1ヶ月延長してまで準備されたにも関わらず、おそまつすぎる話だ」

後日、市教委から聞き取りの録音やメモはないと告げられた。

情報開示後、別件で学校に出向いた父親は「教職員会議の議事録は残っていないか」と質問した。すると、学校は「ある」と言った。この事を市教委へ伝えると、こう回答したという。

「学校は職員会議の議事録は残しているが、娘さんのことが話題にでたことはなかったので記録には残っていない」

取材に応じる父親

生徒が亡くなったことに関して議事録がないのは不自然。また事故報告書もいまだに提示されていない。父親は言う。

「自校の生徒が自殺で亡くなっているにも関わらず、職員会議で話題にならないことがあるのだろうか?人の命の尊さを生徒へ教えていく立場の人間の行動とはとても思えない」