※この記事は2018年11月05日にBLOGOSで公開されたものです

「段取り」で、仕事の生産性を上げる--?

そんな段取り術を提唱するのが、くまモン、茅乃舎など、数多くのプロジェクトを手がけるクリエイティブディレクター・水野学氏だ。新著『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書(ダイヤモンド社)』が好調な同氏に、独自の段取り術を語ってもらった。

段取りは「心や時間に余白を作ること」

-- 「お前、段取り悪いな」というのは多くのビジネスパーソンが受けたことのある指摘だと思いますが、水野さんの考える「段取り」の本質とはなんでしょうか

水野学氏(以下、水野):実は、「段取り悪いな」と言っている人も、段取りとは何か本当の意味ではわかっていないことが多いんです。

ほとんどの人は、「段取り」を「予測する」という意味で使っています。でも僕はそれだけではなく、段取りというのは、「様々なことの組み合わせで心や時間に余白を作ること」だと考えています。

-- 確かに、仕事の段取りをしっかりしておけば、気持ちにも余裕が持てますね

水野:段取りをしっかりとおこなうことで、段取っている部分以外のことが大事にできるようになります。考えてみてください、段取りで想定できる範囲のことには面白いことはほとんどありませんよね。でもその周りにはアイデアだったり、時間だったり、さまざまな宝物があふれています。

たとえば、僕は「くまモン」というキャラクターをデザインしましたが、あの仕事はもともとロゴ制作の依頼でした。でも、余白があったことで「ロゴじゃなくて、キャラクターもいた方がよくないかな」ということを思いついたんです。

もし余白を持たず、「ロゴを作ること」だけに必死になってしまっていたら、ロゴしか作れない。でも段取りをしっかりとやって、頭の中に余白を作ることで、「くまモン」という新たなアイデアを生むことができた。

「ルーティン化」で仕事の質とスピードをアップ

-- 頭の中の余白を作るために、実際にどんなことをされていましたか

水野:余白を作るためにもってこいなのが、仕事を「ルーティン化」することです。僕は、どんな仕事も、やり遂げるまでのタスクの基本は同じだと考えています。

たとえば、デザイナーの仕事は以下の5つのステップで表すことができます。

調べる→手描きのラフを描く→「たたき台」となるラフをパソコンで描く→カンプを出す→最終カンプ(修正版)を出す

ところが、多くのデザイン事務所ではこのような形でタスクを明文化していません。いざ、「デザインをするぞ」となっても、プロセスを途中で省いてしまったり、思いつきで方向性を決めたりして、いいデザインが出るも八卦、でないも八卦というやり方をしている会社が多いのではないでしょうか。

そうではなく、デザインをするにしても、企画書を書くにしても、こうやって仕事をルーティン化すれば、仕事の質とスピードを上げることもできますし、トラブル対応も余裕を持ってできるようになるんです。

-- どんな仕事にも一定のやり方を採用するようにすれば、効率的に仕事ができそうです

水野:欲を言えば、生活や連絡の仕方など、仕事以外の何もかもルーティンにしたほうがいいくらいです。

でも、全部ルーティンにできるはずもなく、予想外のことは起こります。そのときルーティンによって余白があれば、すぐに対応することができて「段取りがいい」と言われるようになるんです。

-- そこまでできれば、確かに段取りがいいと言えますね

水野:こんなことを言っておきながら、実は、うちの会社でもトラブルが起きることはあるんです。

でも、そのときは大体ルーティンを外している。するとあわてて「なんでこうなるの?これはやった?」と確認することになります。この時間はとてももったいない。

僕たちの仕事のひとつに、「撮影」があるのですが、これは「段取り命」と呼べるほど様々なことをやらなければいけません。僕の会社には、初めての人でも絶対に撮影がこなせる段取り表があります。内容は納品日の確認やミーティングの調整、お弁当の手配のタイミングなど、細かなタスクがいくつも並んでいます。

ここまで決まっていれば、本当に余白ができるので、同時に他の仕事もできるし、撮影にまつわる色んなことをプラスアルファでやっていける。でも、この通りにやる人はうちの会社にもなかなかいない(笑)

-- なぜ、必要だとわかっていながらも人は段取りをないがしろにしてしまうんでしょうか

水野:「目の前の面倒くさい」を面倒くさがるんですよね。

詳細な段取り表があっても、その指示通りにタスクをこなし、チェックを入れていくというのは一見面倒なことです。でも、その指示を見過ごしたばっかりに後からトラブルが起きたり、上司に小言を言われたりという、もっと大きな面倒がやってくる(笑)。

段取りで自分の時間を作って、自分のやりたい仕事をやってきた

-- 水野さんから見て、段取りを頑張ったほうがいい人はいますか

水野:時間や上司など、何かに支配されるのが嫌だという人。それと、若い人。若い時って、上司から仕事とあまり関係のない雑用を頼まれたりしますよね。

今はそんなこともないと思いますが、20数年前、僕が社会人になりたての頃は、集中して仕事をしているときでも、平気で「水野、タバコ買ってこい」って言われていました。僕はこれが本当に嫌で、どうやったら回避できるか考えた。

それで、ある時から先回りしてタバコを買っておくようにしたんです。そうすると、「水野、タバ…」くらいで上司にタバコが出せるようになる(笑)。さらに進むと、事前にお金をもらって、タバコをカートンで買って上司の机に入れておくようになった。


いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書

僕はこうやって、段取りで自分の時間を作って、自分のやりたい仕事をやってきた。なので、すべての段取りは自由を得るためのものだと思っています

-- なんだか、段取り上手になれば、自分だけじゃなく、周りの仕事もスムーズになって、みんなが幸せになりそうですね

水野:そうなんです。もしかすると、僕がほんとうにやりたいのは余裕のある世界を作るという、壮大なことなのかもしれないですね。(笑)

プロフィール
水野学(みずの・まなぶ)
:good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント。ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。おもな仕事に、相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」など。著書に『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義(誠文堂新光社)』、『センスは知識からはじまる(朝日新聞出版)』など。