※この記事は2010年08月26日にBLOGOSで公開されたものです

 連日続く猛暑の影響で、福島県内でカメムシが大量発生しているそうである。(*1)
 カメムシが吸った米には黒い斑点が発生し、これが出荷した米に混ざっていると、米の等級を下げられ、買い取り価格が安くなる。
 そうした事態に対処するために、農家では農薬を利用してカメムシの除去に努めている。また米の直接販売を行う農家などでは、色彩選別機を導入して着色米や斑点米の除去に努めているようである。

 米は、麦などのように、小麦粉やパンなどの精製や加工した形で流通することは少なく、米そのままか、炊いて「ご飯」の形で流通することが多い。こうして生産した姿に近い形で一般消費者に届き、それを食するために、素の色に対する反応は、どうしても過敏になってしまう。
 記事中では「食べても人体に影響はない」とし、味にも影響がないとは言われているが、味と言うのは決して単純な味覚だけではなく、見た目やその場の雰囲気など、多様な要因によって知覚するものであり、見た目を損なう斑点米を、わざわざ食べたいとは、多くの人が思わないだろう。
 米穀検査から「着色米」の項目を外すようにと国に要求している市民団体などもあるようだ。こうした団体は、味に影響のない斑点米の原因となるカメムシを除去するために、農薬を利用することが、農薬の過剰な利用であると考えているらしい。
 しかし、「白いご飯」を要求するのは消費者であり、消費者がご飯に斑点米が混じることを嫌がる以上は、それが市場価格に反映されてしまうことは、当然であり、市場価格をあげるために努力なのである。

 消費者と言うものは、基本的にワガママである。
 米や野菜に「無農薬」を要求しながら、その一方で、色や虫がついているものは、忌避する。自分なども、いくら「虫がついている野菜は、安全な証拠」とは頭では理解していても、もしスーパーなどで買った野菜に虫がついていたら、しばらくそのスーパーで野菜を買うことは避けるぐらいのことはするだろう。それは米についても同様である。
 食堂や弁当屋で、ご飯に黒い米が混じっていたら、あまり良い気はしないだろう。それがクレームに繋がればまだいいが、それで怒りはしないものの、その店に二度と来なくなると言うことは、普通にありうる事態である。だからこそ、米を買う側は、黒いものの入っていない米を求めるし、黒いものの入った米の市場価格は下がるのである。
 そうした、斑点米を「味に代わりはないから」としてあえて食べるのはいいだろう。しかし、やはり了承していなければ、基本的に「ご飯は白いもの」であり、白いお米を提供するために農薬を利用することも、また必要な農薬利用の1つであろう。
 私は基本的に、農薬は必要だから使い、不要であるならば使うべきではないとは考えていない。そうではなく、生産性や市場価値を高め、農家の人が楽をするために使うべきであると、私は考えている。
 もちろん、無農薬を否定するつもりはないが、無農薬や低農薬に対する要求が高まる中、農家の人が「うちは無農薬でがんばるんだ!」と意欲的に取り組むのであればかまわないが、そこまで手間をかけたくない農家の人が使う農薬まで否定するのでは、本末転倒だと思う。
 消費者に向けて農薬を使って白いお米を守ることは、決して消費者本位で生産者が犠牲になっているのではなく、消費者の志向に合わせることによって、生産者にとってもメリットがある。その両側面から考えないと、「白いご飯」が本当に正しいお米のありようなのか否かの議論は始まらないだろう。

*1:<カメムシ>猛暑で大発生 出穂期、福島県が注意呼び掛け(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100820-00000006-maiall-soci


■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。