【特別寄稿】津田大介氏「政治家のTwitter利用術」 - BLOGOS編集部
※この記事は2010年07月13日にBLOGOSで公開されたものです
<前回の続き>ツイッターを政治的な目的で利用している政治家は日に日に増加しているが、その使い方に目を向けると、政治家個人の置かれている立場やスタンス、ネットリテラシーのレベルなどによって大きく違いが見られる。7月11日に投開票が行われた第22回参議院選挙で民主党全国比例区から立候補し、見事当選した藤末健三議員は、本格的なツイッターブーム到来の前から積極的にツイッターを使っていた「ツイッター議員」の一人だ。
今回の選挙で「ネットで5万票取りたい」と具体的目標を掲げた藤末議員は、ツイッターだけでなく、大手SNSのmixiやニコニコ動画・ニコニコ生放送などの動画サイトなども活用している。
「うちではオバマ選対がやったように、ネットでできることは全部やって、ネット戦略を立案してくれるスタッフとともに、どのサイトが投票行動に一番効果があったのか効果測定してるんです。もし、今回の選挙で5万票取れたら、3年後の参議院選挙は二大政党という枠組みの中、ネットだけで20万票取りたい。はじめに『俺はネットだけで選挙活動する!』って宣言して。これは壮大な実験です」
藤末議員がそこまでネットに信頼を寄せる理由は何か。それは彼がネットを政治活動に利用してきて感じた「ネットは個人が裸になる」という確信に基づくものだという。
「ネットは人間性が丸裸にされるから、結果“頭の良い人”が残る。僕がやっていることはすべて表に出て、結局はその人の資質が出てしまう。芸能界ではあるまいし、政治という点で考えたとき、この公正さが生きてくる。そう考えると、これまでとは全く違った新しい議員の作り方ができるだろうし、『俺の政策はこれだ!』とネットだけで訴え続けるという手法も有効になってくるはず。ネットだけで政治家は作れるし、政治は動かせるんだということを証明したい」
政局のゴタゴタで今回の選挙ではネット選挙解禁とはならなかった。だが、その中でも法律面の解釈と同時に、ツイッターの特性を理解した上で「音声のみの更新」という形で公示期間中も連日ツイートを続けていたのは、藤末議員らしい発想だ。
ツイッターに限らずネットを政治家のプロモーションツールとしての位置づけ、有権者の投票行動に結びつけていくかということについて、民主党内でもっとも自覚的に活動しているのが藤末議員と言えるだろう。
一方、2005年の衆院選で自民党の「コミュニケーション戦略チーム」を率い、ネットも含めた自民党のメディア戦略を一手に引き受け、名を挙げた世耕弘成参議院議員も藤末議員と同じくツイッターの活用法がうまい議員として知られる。
「選挙運動でもツイッターは絶対使える」と豪語し、ネット選挙解禁についても古くから自民党内で活動を行ってきた世耕議員がツイッターに期待しているものとは何か。
「もっとも効果的なのは“動員”ですね。従来の選挙運動では、動員をかける際、ほぼ違法の行為をやらざるを得なかったから」
現在の公職選挙法下では「菅首相が○月○日にここに来る!」というビラを街角でまいたり、立て看板を立てたりすることは違法行為とみなされる。たとえそのビラや立て看板に候補者の名前が記載されていなくても選挙運動においてはそれらは「文書図画」扱いになるからだ。
「候補者そのものの名前が書いていない」という言い訳は可能だが、「菅首相は自分のために来るわけでなく、候補者のために来るのだから、それは選挙運動だろう」と指摘されたらアウト。場合によっては警察に摘発されることにもなりかねない。
「ネット選挙が解禁となって、ツイッターも認められれば、こうした告知行為を堂々と行えるようになります」
クリーンな形で“動員”できるようになることで、政治家や政治を身近に感じてもらい、票につなげていく――これに限らず、世耕議員のツイッターの使い方は徹頭徹尾実利的だ。
「最近私はツイッターのプロフィールの現在地情報を(自らの選挙区である)『和歌山』にしている人や、ツイートを検索して和歌山県人だとわかる発言を一所懸命コレクションしています。こうしてリスト機能で自分だけの『和歌山リスト』を作って、少しずつ蓄積しているんです。自分の選挙(2013年予定)の際には、このリストが絶対に武器になる。ただ、和歌山のユーザーは絶対数が少ないのでなかなか溜まらないんですが……」
世耕議員が悩んでいることを裏付けるように、和歌山県のツイッター人口は非常に少ない。ツイッターのプロフィール情報から都道府県別の人口を算出している「まちツイ」というサービスによれば、都道府県情報を掲載している約81万ユーザーのうち、和歌山県に在住しているのはわずか2300人程度。割合で言えば0.3%程度しかない。多くのネットサービスのご多分に漏れず、ツイッターも利用層の大半は大都市部のユーザーだ。
こうした状況を変えるため、世耕議員は地元の『和歌山新報』に「初心者向けツイッター登録方法」のコラムを寄稿した。
「パソコンやネットがわからないような人でも、コラムを読みながらやればできるというくらい細かく説明したんですよ。そういう地ならしが功を奏したのか、最近だんだん和歌山県で『ツイッター見てますよ』と声をかけられることが増えた。ただ、そういう人に『じゃあ、アカウント教えてくださいよ』というと、『見てるだけですから』という人が多い。自分ではツイートせず、単に情報としてみてる人が結構多いみたいですね」
世耕議員は藤末議員のように全国比例区の出馬ではなく、和歌山県という単位で出馬している。そのため、藤末議員のように選挙区を気にせずネット戦略を推し進めるより、票に直接つながる和歌山のツイッターユーザーとつながるローカルな戦略を採っている。
「小選挙区制度でツイッターを活用するのは難しいですが、比例区の候補者にとってはツイッターは武器になる。自分から『和歌山県に住んでます』と言ってくれた人には必ず返事をしています。それだけじゃなく、『東京にいるんですけど、実家は和歌山の○○町で建具屋をやっていて……』なんて言ってきたら、すぐさま和歌山県の事務所にいる秘書に『その建具屋に行ってこい!』と指示を出し、秘書から『ツイッターでお目にかかったので来ました』と挨拶をさせてます。そういう地道なことをやらないと支持は広がっていかないんですよ」
ツイッターという最新のソーシャル・メディアを駆使しつつ、「挨拶」というアナログで確実に票につながる手段で地盤を固める。地方の選挙は往々にして「ドブ板選挙」と呼ばれるが、世耕議員がツイッターを使ってやっているのは、まさにドブ板のIT化、もしくは“デジタルどぶ板”とも呼べるのではないだろうか。
世耕議員のツイッターの使い方は実に多彩だ。“デジタルどぶ板”的ローカルな選挙活動だけでなく、ツイッターの特徴である強力なリアルタイム情報発信力や、一般市民の政治的思考が自然に表出される特徴に着目し、自らの政治活動に活かしている。
世耕議員がツイッターを始めたのは、2009年12月だが、始めて間もない段階で彼のツイートは多くの耳目を集めることになった。当時、メディアで注目を集めていた天皇陛下と中国の習近平国家副主席の会見に関連して、永田町の風景について下記のようにツイートしたのである。
「今車で走っていて驚愕しているのですが、国会、霞ヶ関近辺の各所の街灯に中国国旗『五星紅旗』が掲揚されています。これって国家元首の来日の時にしかやらないことのはずだ。誰の判断でやっているのだろう? 官邸か? 外務省か?」
メディアでは報じられないこの「内部情報」は、彼のフォロワー8000人以上に配信され、瞬く間にリツイートで拡散していった。世耕議員はこの反響を受け、外務省に確認作業を行い、問題の「裏取り」を行い、適宜ツイッターで報告した。誰でも“記者”並みの発信力を持てるツイッターならではの出来事と言えるだろう。
「国会内記者」としても活躍する世耕議員はツイッターとブログの違いをこう語る。
「自分の考えや仕事の反応がすぐわかるという部分がツイッターで最高にありがたいところ。このレスポンスの良さはブログにはなかった。ブログは炎上が怖いので『コメント欄は付けない方がいい』ということをほかの議員の人にも言っているんですが、ツイッターとは全然違いますね。衆人環視の下、本人からクイックな反応があるかもしれないという緊張感があって、その緊張感がユーザーにあまり乱暴なことを書かせないという空気を生んでいるように思います」
ツイッターの魅力と力を十分に認識している世耕議員は、ツイッターを「ミニ世論調査」のツールとしても利用しているという。
「ツイッターを見ていて冷静で良い意見をツイートしている人がいたら、そういう人をいくつかピックアップして、自分用に作ったプライベートリストに入れています。数でいうと、僕の3万人のフォロワーの中から100人くらいをリストアップしている。この人たちが、僕の発言や行動に対してどのような反応を返してくるのかは、とても参考になっています」
「ミニ世論調査」が具体的に生きたのは、原口総務大臣が参院予算委員会に続き、参院総務委員会に2回目の遅刻をしたときのことだ。
「そのとき私は野党の立場だったので、遅刻に対して机をひっくり返さなければならない。結局委員会は流会になり、その経緯をツイッターに報告して、ツイッターでどのような反応が来るかチェックしました。結果、僕がリストアップしている100人のうち55人が『けしからん!
流会にして当たり前だ。もっとやれ』という反応。残りの45人が『遅刻もけしからんけど、流会させる方もさせる方だ。謝罪させて議論を再開させるべき』という冷静な意見だったんです。賛否両論だったということですね。実は、翌日の国会対策委員会で上司から『もっと揉めさせろ』と言われたのですが、僕はそれを無視して翌日から事態の収拾にかかることにしました。民主党に連絡して『党が一言謝ってくれたら正常化させる。お互いのためにならないから早く終わらせよう』と話して、事態が収まりました。これはツイッターでミニ世論調査をしなければ決断できなかったことです」
世耕議員のプライベートリストの100人は、すべてが彼の支持者というわけではない。中には辛口な意見を直接返信してくる場合もある。辛口な意見の中からも聞くべき意見をきちんと取り入れ、政治活動に活かされるという新しい「陳情」の経路がツイッターで生まれているのだ。
世耕議員と同時期にツイッターを始めた自民党の山本一太参議院議員も「ツイッター議員」の代表格だ。世耕議員と親交が深い山本議員は自民党の部会や委員会、勉強会などに参加した際、世耕議員と一緒にその内容をツイッターに逐次実況している光景がよく見られる。
山本議員も世耕議員と同じく、ツイッターを議員による「一次情報源」として積極的に活用している。
2010年1月、太平洋戦争で旧日本海軍が使った人間魚雷「回天」や航空特攻兵器「桜花」の胴体に、キューピー人形の顔をあしらった携帯ストラップが全国の自衛隊基地内の売店で売られており、その旨を小池百合子元防衛大臣から聞いた山本議員がツイッターに「どうかと思う」とツイートした。
この話は2009年12月16日の山本議員のブログでも取り上げられ、ネット上で批判が噴出した。その後新聞など既存メディアが後追い報道を行い、最終的に販売中止に追い込まれた。
山本議員がユニークなのは、メディアとしてツイッターを使うだけでなく、一般ユーザーとのコミュニケーションも積極的に行っているところだ。山本議員自ら「夜の弾丸返信ツイート」と名付け、毎日深夜に20分間だけと時間を決めて、山本議員宛に来た質問や意見に返信をしている。
ツイッターは本質的には、140字以内のショートメッセージをネットに投稿し、登録者に届けるというシンプルな機能しかない。その分、自分でルールを決めることでオリジナリティーのある使い方を演出することができるのだ。山本議員と積極的にコミュニケーションをしたい人にとっては、返信がルーチン化されていることには大きな意味がある。毎日彼が訪れるタウンミーティングが開催されているようなものだからだ。
■関連記事
・「当選確実なう」
・「Gov 2.0 Expo」速報レポート1日目
・「Gov 2.0 Expo」速報レポート2日目
津田大介
メディアジャーナリスト。大学在学中からIT・ネットサービスやネットカルチャーをフィールドに新聞、雑誌など多数の媒体に原稿を執筆。現在、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師、情報通信政策フォーラム(ICPF)副理事長、(財)デジタルコンテンツ協会発行「デジタルコンテンツ白書2010」編集委員。著書に、「Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)」など。
・津田大介 (tsuda) - Twitter
・MIAU|%A4%CE%B4%E3%B8%F7%BB%E6%C7%D8&x=0&y=0">MIAUの眼光紙背