【BLOGOS対談】堀江貴文氏、″政治のウラ″を語り尽くす(後編) - BLOGOS編集部
※この記事は2010年07月05日にBLOGOSで公開されたものです
経済学者の池田信夫氏がゲストに堀江貴文氏を迎え、6月30日にUstreamで生中継された対談で、「参院選で政治は変わるのか」をテーマに議論を繰り広げた。7月11日に迫った参議院議員選挙に向けて各党のマニフェストを検証したほか、堀江氏が総選挙に出馬したさいのエピソードや、明治時代から続くという日本の官僚機構の歴史など、テレビや新聞ではまず語らなれないであろう真実も続々と飛び出した。前編に続き、独自の視点を持つ両氏による、日本の政治を語り尽くした対談の模様の後半をレポートする。(前編の続き)池田:僕も安倍さんを後継にしたのが大きな間違いだったと考えていて、そこはやはり小泉さん自身が、自分の力をあまりよく知らなかったんじゃないかと思うんですよ。というのは、小泉さんははっきり言って経済政策に詳しいわけじゃないし、政策通という政治家でもないじゃないですか。それでも彼がすごいのは、人を見る力というか、まあその辺は飯島(勲)秘書官のほうが得意だったみたいだけど、とにかく小泉政権は人の使い方がすごくうまい、というのがあった。僕もこの間初めて知ったんだけど、経済財政諮問会議というのが橋本政権のときにできていたのに、それまで誰も使いこなせていなかったんです。ところが小泉政権になって、あそこに竹中(平蔵)さんを据えたことで、諮問会議が非常に強力なマシーンとして霞ヶ関を席巻していったんですね。
堀江:そこも竹中さんの才能をうまく引き出したということですね。
池田:それって小泉さん個人のひとつの芸だったと思うんですよね。非常に名人芸的で。悪いけど、安倍さんにはそこまで名人芸をお持ちではなかったから…。
堀江:それに何で安倍さんの人気があったのかというのがわからない。何でですかね?
池田:あの人はいわばシングルイシューで人気があったんだよね。要は北朝鮮問題で強硬なことを言って、それで人気はあったんだけど、彼自身は経済政策のことなんてあんまり知らなかったし、人の使い方という点では小泉さんと比べるまでもないし。
堀江:拉致問題で名を売ったからって、首相としての能力で見ると明らかにダメだと思ったんですよ。
池田:でも、いまの日本の首相ってものすごく弱い立場なんですね。憲法の中で言うと、内閣というのはほとんど足場がないわけです。各省庁には採用されて入ってくる公務員がちゃんといるけど、首相官邸はそもそもスタッフを持っていません。すべて各省庁からの出向です。内閣官房にしても全員が出向だし、内閣府も、内訳を見ると行政管理庁とか経済企画庁とかの弱小官庁の集まりだから、要するに首相官邸にも内閣府にも求心力がないんですね。だから首相個人が小泉さんみたいなキャラクターを持っていないと、すぐだらけてしまうんですよ。それはもう日本の行政機構のつくりがまずいわけ。基本的に日本の内閣というのは、明治憲法においては天皇が最高権力者という建前になっていて、天皇に仕える各省庁がその下にあって、それらの合議機関として内閣がある。だから首相というのは各官僚のまとめ役なんですよね。しかもその明治以来の機構がずっと続いてしまっているから。首相というのは本当の意味での指導者じゃないんです。
堀江:とはいえ、いちおうリーダーだという認識はあるわけですから、嫌々ながらもみんな従うわけじゃないですか。実際、小泉さんは「こうだ!」と言い続けてきたんだから。でも安倍さんは「…こうじゃないでしょうか?」みたいな感じで、全然リーダーシップがないなと思っていました。僕はたまたま今日も某候補者の応援に行っていて、そこで言ったのは「いまの政治家に一番欠けているのはリーダーシップだ」ということ。議員になったんだから「首相になる!」と言って首相をめざし、ぐいぐいみんなを引っ張っていって、首相になったらある程度はみんなの声を聞きながら、ただし全部を聞くんじゃなくて取捨選択しながら聞いた上で、自分のやりたいことを押し通すというか。そういう方がいないのが問題なのかなと僕は思っています。自民党の中にもそういう素質を持っている人たちがいるんだろうけど、なかなか露出してこないですよね。
池田:小泉さんが自民党の総裁になったのも"まぐれ当たり"みたいなところがあって、ああいう人は普通は総裁選で勝てないんです。この間も自民党の総裁選に河野太郎さんが出ていたけど、全然ダメだったでしょ?
堀江:でも小泉さんにしたって(総裁になるまでに)3回かかったわけじゃないですか。1回だけでは通らないのはしょうがないにしても、2回、3回とチャレンジすることは大事。ただやっぱり資金の問題ってあるんですよ。自分のグループを作ったらある程度は面倒を見なければいけないし、自分の政治団体からお金を回さないといけない、というのは絶対あると思うんですね。みんなは政治に金はかからないと思っているけど、「金のかからない選挙を実現させよう」なんてどだい無理な話ですよ。だって落選したら給料もないんだし、いろいろな人たちの講演会とか集会とかに会費1万円払って行って、そこでまた名刺を配って…というのをやらなければいけないんですから、いくら「お金をかけない選挙」と言ったところで、ちゃんと真面目にやろうと思ったらそりゃかかりますよ。だから資金力というのが効いてくるのはしょうがないんです。
池田:問題は金の力とリーダーシップというのが必ずしも同じところにあるわけではないということ。言っちゃ悪いけど、資金力はあっても指導者として適任ではない鳩山さんみたいな人もいますから。
堀江:そうなんですよ。だから鳩山さんをうまく利用しながら「でも首相になるのは自分だ」みたいな、もっと図太いやつが出てくればいいのに…と僕は思うんですよ。
池田:僕が個人的に思うのは、ここ20年くらい日本の政治がよれよれになった原因の、かなり大きな部分を小沢一郎さんが占めているんじゃないかということ。堀江さんは実感がないかもしれないけど、90年代前半くらいまで、小沢一郎というのはすごい政治家だった。それから自民党を飛び出し、93年に一度政権交代したんだけど、あの頃は日本の歴史を一人で動かしたという感じがあったわけです。その彼が、「新自由主義」と言われるような、サッチャーやレーガンの後を継いでやりましょうみたいなことになって、世界中の誰もがそういう風に行くのだろうなと思っていたら、それがある日ポシャっちゃって、それから後は延々と日本の政治はぐちゃぐちゃのままで来たんですよね。「小沢史観」なんて言われるかもしれないけど、やっぱり小沢さんが迷走したことが、その後20年くらいの日本の政治をわけのわからないことにしてしまった原因じゃないかなと思うんですね。
堀江:まあでも個人的には、やっぱり政治家ってある程度の力とかリーダーシップとかの問題だと思いますけどね。
池田:そういう意味では、小沢さんはリーダーシップはすごくあるんですよ。90年代、自由党の頃までの小沢さんというのは考え方も一貫していたわけ。いわゆる保守のほうの考え方だった。ところが民主党になってから急に社民のほうに振れちゃって。僕はあれもある種の戦術的なもので、バラマキだけやって政権取ったら昔の自由党の頃のように戻るのかなと思っていたけど、全然そんなことはないでしょ? 逆に大昔の田中角栄みたいな感じに戻ってしまって。
堀江:そうですね。完全にそうなりましたね。
池田:最近はむしろ、小沢一郎という政治家は、本質的に田中角栄みたいなものだったのかなと、90年代のあの頃のほうが彼の気の迷いだったのかなと僕は思うようになりました。
堀江:そのあたりは小沢一郎さんに聞いてみたいですね。そういう意味で言うと、あの人は面白い人ですよね。
池田:あの人がここ20年くらいの日本の政治を全部動かしてきたわけだから。
堀江:なのに表舞台には立たないわけじゃないですか。あるいは肝心なところで足元をすくわれそうになったりとかしますよね。
池田:いろいろな意味で魅力のあるキャラだし、日本の政治家の中でも最大級に力があるわけです。本当は彼がもう少しちゃんと論理的な政策を出してくれればいいんですけどね。
堀江:そこに関してはメディアと検察の問題のような気がするんですね。小沢さんの問題を分析する中で考えたんだけど、小沢さんって田中角栄の系譜じゃないですか。あの系譜の人たちはみんな検察と対峙していて、マスコミに叩かれ、検察に捕まって、世の中から葬り去られていったんですよね。あれはどうしてなんでしょうね? 検察はあの系譜の人たちが嫌いなんですかね? そこまで別に嫌う必要もない気がするんですけど。たぶんその辺に天皇に関する問題だとか、いろいろ絡んでいるような気がしていて。小沢さんって、わりと天皇を軽視していると思うんですよ。この間の宮内庁長官との問題とかあって猛反発を受けていたし。
それって、最近あったタイの政変とけっこう近いものがあるかもしれない。タイはタクシンが首相でしたよね。彼は日本で言えばNTTドコモみたいな会社の創業者で、会社を上場させて巨万の富を得て、何百億円という資産をもって首相になり、バラマキをやったんですよね。タイって、日本の東京一極集中以上に「バンコク一極集中」で、都市住民と地方住民の格差が日本とは比べものにならないくらいすごいんです。タクシンは地方にバラマキをして、地方から熱烈な支持を受けたんです。票田としては地方のほうが大きいですから、選挙ではいつもタクシンの党が勝つわけ。でもクーデターが起き、彼は軍に追い出されてしまいました。ところがその後、もう一度選挙したら、またタクシンの身内が党首の党が勝ったわけです。タクシン本人は国外に逃げていたんだけど、そこから資金を送っていて、復権しました。そしたら今度は首相がタイの料理番組かなにかに出て、それがなにかの規定に引っかかり、いわば微罪で別件逮捕みたいな形で警察に捕まってしまい、裁判所で有罪判決を受けました。それでまた選挙が行われ、今度は保守勢力のほうが勝っちゃったんですよね。
タイではいまだに混乱した状態が続いているんだけど、小沢さんの問題って、それにすごく似ている気がするんですよ。「赤シャツ隊」と言われるタクシン派に対して、「黄シャツ隊」にいるのは国王、それから日本で言うところの最高裁にあたる憲法裁判所、それに検察と軍、あと都市部のインテリ層とか。この2つが対立している構造って、まさにロッキード事件で田中角栄さんが検察にやられたときと変わらないし、その後も金丸信さんとか、連綿とやられてきているじゃないですか。両方の構造ってすごく似ている気が、僕はするんですよね。
池田:自民党の中にはずっとその2つの流れがあるんですよね。主流は安倍晋三さんのおじいさんの岸信介とか。それこそ戦争を起こした軍部の、極右の人々の流れですよね。
堀江:もっと前から言うと、要は明治維新の頃から変わってないですよね。長州閥ですよね。
池田:日本は国家社会主義の流れってものすごく強いんですね。北一輝なんて、普通の人なら「とんでもない右翼だ」と思っているかもしれないけど、岸信介というのは北一輝の弟子なんです。そしてその岸信介の孫が首相をやっていたわけだから。日本の国家社会主義の伝統はそれだけ主流なんですよ。しかも岸信介はCIAのスパイだったんです。これはもうCIAのドキュメントではっきりしていることだから公然と言ってもいいんだけど。CIAから10万ドルとか、いまのお金で言えば何億円というお金をもらったエージェントですよ。それが日本の首相をやっていたというとんでもないことがあったのに、岸信介の系列はまったくお縄にならないわけ。やられるのは全部田中角栄の系列ばかり(笑)。
堀江:結局、保守側についている権力というのは、ものすごく強い力を持っているわけじゃないですか。僕も期せずして検察についていろいろ調べましたけど、要は平沼騏一郎が検察のマジックを発明して以来の伝統なんですよね。明治時代に日東事件という大疑獄事件を摘発し、国民の喝采を浴びてから調子に乗ったんです。もともと司法省というのは、明治維新の直後は二流三流の官庁で、一流省庁だった大蔵省や内務省、陸軍省、海軍省というのはすべて長州閥や薩摩閥で占められていました。よって維新の第二勢力である土佐とか肥前の人たちが司法省に入ったんです。ゆえにすごく蔑まれていたわけで。日東事件を経て、「これは権力につながる」ということを発明し、大逆事件では幸徳秋水さんも含めて何十人も政治犯として治安維持法違反でとっ捕まえていきました。その後、軍は第二次世界大戦で大失敗して解体されたのに対し、検察はしぶとくGHQの司法制度改革を生き残り、その後も権力を維持してきました。そういう意味では、権力の構造と密接に関わり合っているような気がしていて、それが政治闘争において、最終的にそれを持っていない側が確実に負けている気がします。田中角栄しかり。小沢さんも結局負けてしまったわけじゃないですか。ちなみに平沼騏一郎の養子が平沼赳夫さん。だからたちあがれ日本はまさに保守中の保守。
池田:日本の官僚機構のコアにあるのは、まさに北一輝たち以来の国家社会主義の伝統が強固なものとしてあるんですよね。田中角栄とかの流れというのは、ある意味ではそういうものに対するアンチじゃないですか。自民党の中でも、保守を本流としているのに対し、党人派の流れというのもずっとあったわけです。それがいまだに、ねじれた形で民主党に持ち込まれていて、小沢さんは金と力はあるんだけど、結局最後のところで国家権力のコアのところとうまくいかなくてやられてしまう、それの繰り返しで来ているんです。
堀江:今後もそういう流れは続くんじゃないですか? 根本的な改革をやらないと、検察に権力が集中してしまいます。ちなみに特捜検察って、公安検察と闘って勝ったという歴史がありますよね。ある事件でニセのスクープをつかまされ、それがきっかけで公安検察は力を失ったんですよ。だからいまの検察って、公安部のほうは全然力ないでしょ? 特捜検察は力を持っているけど、こちらもある程度どうにかしないと、そっちとつながっていない勢力が確実にやられてしまいます。検察は当然マスメディアとつながっていますから、マスメディアが叩いてから検察が乗り出すパターンとその逆の2パターンあって、いわば彼らは運命共同体です。ここの改革というのがじつは重要。たとえば電波を解放してオークション制にしたり、放送局の上下分離をしたり、いろいろやることは思うんだけど。総務省って、すごくその辺に関して怖がっているみたいなんですよね。僕はこの間、鳩山邦夫さんの第一秘書の方とゴルフしたんです。
そしたらその秘書のところに、総務省の役人から急に電話がかかってきて、「堀江さんと仲良いんですか?」って。もともと鳩山邦夫さんって総務大臣だったじゃないですか。総務大臣になると、その秘書官ってものすごくいい思いができるらしいんですよ。テレビ局から接待接待で、たとえばゴルフトーナメントで有名プロに会えたりとか、女子アナと合コンできたりとか…。「波取り記者」っていますよね? あれってけっこう優秀な記者がなるんだけど、ああいう人たちがずっと接待要員でやってきているわけですよ。
池田:波取り記者というのはNHKにずっとあって、たとえば昔の郵政省の担当記者が2人いたんだけど、ひとりは取材する記者で、もうひとりは原稿を書かない記者(波取り記者)。海老沢さんも波取り記者だったんですよ。NHKに限らず、政治部の記者って原稿を書かない人が一番出世するんです(笑)。
堀江:なるほどね。だから僕は「そんなものがいるのか。すごいな」と思って。ライブドア事件の直後くらいにそういう話を聞いて、じつはそれまであまりよくわかってなかったんですけど、言われてみれば「取材」と称して情報を引き出しているんだな、というのがやっとわかりましたよ。要はスパイというか諜報活動をしているんですよね。それで「この人たちは検察のスパイなんだ」と思って。「検察のCIA」にあたる組織がマスコミの波取り記者なんだということがわかって、なるほどと合点がいったというか。
池田:日本の官僚機構というのは、戦争で破壊されなかったんですよね。軍は完全に叩きつぶされ、財閥も解体されたんだけど。GHQが日本に来たとき、官僚機構をつぶすかどうかの判断もあったわけだけど、彼らは日本語もわからないんだから、官僚機構をつぶして完全に無茶苦茶な状態にしちゃうとよくないと判断したわけ。彼らが一番恐れたのは昔のドイツみたいになることで、ドイツは第一次大戦の後、あまりにも無茶苦茶につぶされたことでヒトラーが出てきて、また戦争になったわけでしょ? だからGHQは「完全につぶしたら危ないことになる」と思って、天皇制と官僚機構だけは残さないといけないという判断になったんです。よって軍と内務省はつぶされたけど、大蔵省はまったく無傷で残った。おかげで戦後は完全に大蔵省の一極支配になったんですよ。言ってみれば明治以来のマシーンがそのまま残っているんですね。以前、2008年頃だったかな、自民党によって一度公務員制度改革が成立しましたけど、じつはそのときの改正まで50~60年くらいにわたって、日本の公務員制度は明治以来の制度が続いていたんです。日本の公務員制度に関しては、1950年頃にGHQが職階法というのを作ったんだけど、これはアメリカの公務員制度を完全に輸入したものでした。アメリカの場合はすべて試験で受かるようになっていて、ものすごく細かい専門職制度になっているんです。でも日本の公務員制度には全然合わないから、結局法律は備わっているのに運用しなかったんですよ。どうやっていたかというと、戦前の高等官や判任官という、いわゆるキャリア・ノンキャリアにあたるものだけど、それをそのまま非公式の法律みたいなものにして、50~60年間まったく職階法を運用しないで明治以来の官僚制度でずっとやってきたんですよ。渡辺喜美さんが作った公務員制度改革というのは、戦後初めて作られた公務員制度法なんですよ。明治以来の制度がようやく、ほんの少しだけ変わり始めたけど、それも民主党政権になってからは全部元に戻ってきちゃって、この間も天下り制度みたいなものがまた出てきたでしょ? 天下りをやめる代わりに、省内に特別キャリアみたいなものを設け、天下りできない窓際のおじさんたちを処遇するというのが省令かなにかでできちゃって、それで渡辺喜美さんも怒ってたけど。官僚制度の持つ力って、昔からのものすごく強いんですよね。
堀江:僕ね、公務員の人には悪いんですけど、何の仕事してるかわからないんですよ。あんまり公務員の人とかと交流したことないし、僕の仕事に役立ったことは一回もないんで、いまいちよくわからないんですよね。どうなんですかね? 役に立ってるんですか?
池田:戦後については役立ったかもしれないですけどね。農林水産省なんて、いまの予算は2兆5000億円くらいあるわけだけど、何に使っているのかよくわからないでしょ? つまりもう仕事がなくなっちゃった官僚がいっぱいいるわけよ。天下りよりもむしろそっちのほうが問題で、天下ってなくて省内で仕事もないのに予算を使っている人が何百万人もいるわけ。
堀江:それはクビにするしかないですよね。
池田:だから天下りの問題だけで騒ぐ人がいるけど、天下りなんて枝葉の問題だと思っているんですよ。一番大きいのは、日本の官僚機構は明治以来まったく変わっていなくて、それを変えていくのはものすごく難しい仕事なんです。ちょっとでもその件に触ると、それこそ弾き飛ばされてしまいます。僕も一時期経済産業省の内部にいたんだけど、異分子に対する拒否反応がものすごく強いわけ。やっぱり日本の伝統的な組織としては最大で最強ですよ。民主党ではとてもじゃないけど太刀打ちできないでしょうね。
堀江:法律を作っているわけで、法律のエキスパートですからね。
池田:普通だったら、官僚は立法業務に従属するものなんですよ。ところが日本は、官僚が立法までしているものだからものすごく強い。下手すると司法までやっちゃいますからね。それこそ行政処分という形で、犯罪者を裁くような仕事まで役所が平気でやってしまいます。だから三権分立じゃなく、役所に一権集中してしまっているところが日本の大きな問題なんです。
堀江:その最たるものが検察ですよね。検察は立法もしていますからね。つまりは三権分立がちゃんと機能していないということですね。
池田:鳩山さんが所信表明かなにかで「国の形を変えなければいけない」と言っていて。僕はそこの問題意識に関しては賛成なんですよ。明治以来、官僚機構に全部の権力が集中している状態で、それはなんとかしなければならない、そのために政治家がもっとしっかりしなければいけない。それに関しては小沢さんも、昔から「政治主導」という形でやってきたわけです。それを彼は20年くらい言い続けて、まあ昔に比べればほんの少し政治主導になってきたかなと思うんだけど。しかし残念ながら、日本の政治家と官僚の関係が、あまりにも官僚側に一方的に権力が偏った形で戦後60年くらい来ているんですよね。それをもういっぺん政治の側に戻さなければいけない。でも、60年間ずっと何も変わらなかった状態から、10年くらいで元に戻すのは相当難しいですよね。
堀江:でもそれを実現しようという意気のあるような者がいないとダメですよね。
池田:その点では、やはり小沢さんくらいのパワーがないと簡単には動かないですよね。言っちゃ悪いけど鳩山さんみたいなのではダメですよ。菅さんにできるかといえば、菅さんにもその力はないと思うけど。
堀江:要はリーダーですよね。小泉さんみたいな強烈なリーダーがいないといけない。僕は思うんですけど、たとえば衆議院議員の任期が4年としたら、4年でできることってたぶんひとつかふたつくらいな気がして。だから「これを絶対やる」という風に集中特化してやらないと難しいでしょうね。郵政改革にしたって、みんな郵便のことばかり考えると思うけど、郵政の本質って郵貯と簡保なわけですよね。郵貯と簡保で持っているお金に関して改革することが一番大きな問題だったから、そこに手をつけて絶対やり遂げると言い、いちおうやり遂げたことに関しては僕はすごく評価しているんです。でもそれすらも、何年か経ったらああいう風に、いま亀井さんを筆頭に抵抗勢力が必死に巻き返していますけど、あそこまでやっても巻き返されるくらい大変だということですよね。
池田:郵政の場合、不幸だったのは郵政の中に「改革しよう」という気持ちの人がほとんどいなかったんですよね。国鉄が民営化されるときは「国鉄改革三人組」とかいわれるような、「国鉄をなんとかしなければいけない」という人たちがいました。
堀江:国鉄の内部にはそういう人がいたんですか? 何で国鉄にはいて、郵政にはいなかったんでしょう?
池田:それはやはり、郵政が「役所」だったからでしょうね。
堀江:でも国鉄も「役所」でしょ?
池田:たしかにそうだけど(苦笑)、まあ国鉄は省庁とは別の組織だったからね。
堀江:いちおうそうですよね。(郵政省から分離して)郵政公社になったのも最近のことでしたからね。それまでは郵政省の中のでかい機関でしたし。だからか…。
池田:堀江さんが最初に言ったことって、非常に本質をついているんです。明治以来の国家社会主義というのがずっと続いていて、それはものすごい強力なんですよ。
堀江:最初のうちはよかったんでしょうね。若くて優秀でやる気があって、国のことを思ってくれるような官僚がいたということなのでしょう。要は20~30代だったわけですよね。当時のトップが。
池田:いまの中国と似ているんですね。途上国が「ガーッ!」と成り上がっていって先進国に近づいていく過程ではいいんですよ。「坂の上の雲」が見えているから。
堀江:(司馬遼太郎の)『坂の上の雲』を読んでいると、「あの頃の官僚ってすげーな!」と思うわけですよ。非常に意識が高いですよね。にもかかわらず、第2世代の人たちが"おんぶにだっこ"になってしまって、いろいろ変なことをやり始めて、結果として戦争に突入していって…という流れですよね。
池田:ただ戦後の復興期から高度成長期の頃までは、ある種の「坂の上の雲」的なものはあったわけじゃないですか。「もっと豊かになりたい」とか「アメリカみたいになりたい」とか。その頃までは、やるべきことがわかっているときは、まだよかったんですよ。ところが日本が大体豊かになって、「坂の上の雲」的なものがなくなっちゃったとき、本当なら役所に集中していた権限を民間に戻したり、政治家に分けたりといったことをやらなければいけなかったんです。それなのに、むしろ自衛本能がはたらいて「自分たちの権限を守る」という姿勢でいままでずっと来ている。まあ自民党の政治家はそこにぶら下がっていたわけだけど。民主党のほうは「そこはなんとかしなければならない」という風に、少なくとも頭が切り替わったと僕は思うわけ。鳩山さんにしても菅さんにしても、全部官僚に集中したようないまの組織を変えなければいけないという問題意識は持っていたんですよ。ただ残念なことに力が、リーダーシップがないのでうまくいかないんですね。
堀江:池田さんとしては、どうなればいいと思っていますか? どうやったらそれが実現可能だと思いますか?
池田:難しいですよね。日本社会のものすごくコアな部分ですから。いわば日本人の生活様式と絡んでしまっているところがあるんですよ。これは僕がよく言うことなんだけど、日本の社会って世界的に見てもすごく特異で、いわゆる中間集団というか、小さなコミュニティがそれぞれ非常に強くてしっかりしているんです。会社組織の中みたいにみんながお互いをよく知っているわけ。国家権力はいわばそのコミュニティをまとめる集団になっているんですよ。まあ天皇が象徴ですよね。天皇ご自身は何の権力も持っていないけど、周囲の人たちがすべて自立的にやってくれるような仕組みになっています。ただし、そこから変更しようとなると難しいですよね。個々に既得権益を持っている人たちの集団は非常に団結力が強いですから。日本の90年代以降って、典型的にその状況だと僕は思っています。
堀江:そうすると、ソリューションはどうですか?
池田:それはもう簡単には変わらないよね。日本のつくりの根本的なところですから。
堀江:池田さんなりのアイデアはなにかないんですか?
池田:具体的なことを言うとすれば、天下りにも少し関係あるんだけど、やはり年功序列に問題があると思うんですよね。年功序列は日本の組織のアキレス腱だと思うわけです。天下りなんて、まさに官僚機構の年功序列の矛盾が出てきたようなもの。最近は天下りを禁止する法律を作るような話が出てきているけど、それはまったくナンセンスだと思います。天下りは年功序列をなくしたらなくなるわけだから。50歳の係長がいる一方、30歳の局長もいるとなれば、「みんな同じようにポジションが持ち上がる」ということはないし、持ち上がらない人たちのためのポジションを作ってあげる必要もなくなるでしょう。つまり年功序列というシステムを無理やり残そうとするから、ポストにつけない人は天下りをしないといけなくなるんですよ。
堀江:ああいう年功序列の仕組みって、おそらく損失の先送りと一緒なのかなと思ったんですよ。要は若いやつらに給料を上げずにこき使って、「後から給料をあげるよ」という…。
池田:給料は後払いなんですよね。
堀江:そうそう。それこそ損失の先送りじゃないですか。それってちょっとずるいじゃないですか。
池田:それも日本が成長している間はうまく回っていたんですよ。「いつか会社組織が大きくなればみんなが儲かるんだから、いまは我慢しよう」という風に。
堀江:それが富の蓄積になっていったけど、でもずっと成長していくわけがないじゃないですか。そんな単純なからくりに、みんな気づいてないはずもないだろうとも思うんですよ。
池田:なのにいまだに気づいていない人も多いんですよ。民主党の人たちなんて、結局みんな「バラマキでなんとかしましょう」という話をしているようなものだけど、すでにばら撒く金もないわけだから(笑)。これから下り坂になっていくとき、下り坂なりのやり方を考えなければいけないんです。いままでの年功序列や終身雇用などの日本型のやり方を全部守ったまま、バラマキで解決しようとしたら何が起こるかと言うと、その組織に入れない若い人たちが全部弾き出され、派遣労働とか地域労働をせざるをえなくなっていくわけでしょ。
堀江:じゃあどうやってその年功序列を解消すればいいでしょう?
池田:それが一番難しいですよ。年功序列ってオフィシャルなシステムじゃないし、もともと「年功序列にします」という法律もないですから。事実上のシステムではあるけど、実際はものすごく厳密に決められていて、官僚などは入省した年が同じだと完全に同時に昇進していきますよね。民間のほうは、少しは変わってきましたけど…。僕は思うに、これは世代の問題というのが一番大きいんじゃないかなと思っているんですね。さっき堀江さんも言ったように、世界の政治家においては年齢が下がっているのに、日本だけは政治の世界も年功序列になっているから、いまだに60歳以上の人が政治をやっているわけですよ。そうすると何が起こるかと言うと、60代以上の人とそれより下の世代、年金で言うと「払った額より多くもらえる人」と「払った額より少なくしかもらえない人」の倍率がどんどん大きくなっていくし、1人あたりの将来収入が60歳と20歳では7000万円も違ってしまうほどの世界一ひどい差別も起きてしまっているわけですよ。そういう状況下においては、自民党も民主党も年寄りのほうの利害は共通だと思います。すなわち、いまの仕組みを守り、年功序列を守り、中高年の職を守って「若いやつらは非正規労働者で頑張ってくれよ」と、そういう感じですよね。自分たちの組織を守ることが大事で、なにも仕組みを変えようとはしないんです。そこが堀江さんを支持する人たちのフラストレーションの原因にもなっていると思います。
堀江:となると、やはり政治を変えていくしかないってことですよね? そういう(政治を変える)勢力が出てこなくちゃいけないとなると、各党のマニフェストを見た中では…、みんなの党くらいじゃないですかね。
池田:相対的にはみんなの党がましだと思うんですけどね。「小さな政府」というのをはっきり言っているのはみんなの党だけですから。自民党も、一時期は河野太郎さんあたりが「小さな政府」と言っていたけど、結局は踏み切れなかった。でもみんなの党は斬新なことを言っているものの、僕にはちょっとわからないところがあって。たとえば経済政策を見ると、成長戦略とか言ってエコがどうしたとか、まあ自民党と同じようなことを書いているわけですよ。それに財政再建は書いていなくて「消費税を上げる前にムダを削減しましょう」としか書いていないとか。
堀江:たぶん選挙対策でしょうね。
池田:でも財政再建についてあまり踏み込んでいないという印象を与えてしまうのは、今回の選挙では損だと思うんです。もちろん消費税を上げずに済むんだったらそれに越したことはないけど。渡辺さんは「まだ財源はある。"埋蔵金"はあるんだ」と言っているけど、問題は"埋蔵金"があるかないかじゃないんですよ。いま税金の代わりに国債を発行するというのは、いわば将来の世代にツケを回すということなんですよ。根本的に。(60歳と20歳の1人あたりの収入差が)7000万円から8000万円、9000万円になってしまうということなんですよ。
堀江:それって誰しもがわかっていることじゃないですか。なのに何でそういうのを無視するんでしょう? たとえば亀井さんを筆頭にして…。
池田:見えないからですよ。いまばら撒くのはみんなうれしいけど、あと何十年かしたらツケが回って、子供には年金が出ないかもしれない事態になったとしても「しょうがないですよね」ってことになっちゃいますよね。
堀江:亀井さんなんかは絶対そういうことを言われてるわけでしょう?
池田:彼にとっては、「その頃にはもう自分は死んでるから、そんなの知ったことか」ということでしょ? だからある意味では合理的に行動しているんですよ。彼が死ぬまでは、絶対にああやってばら撒き続けることができるんですから。思うに、団塊の世代より上の人たちは意図的にやっていると思いますね。完全に逃げきるつもりですよ。
堀江:そういう人たちに僕がよく言うのは、「逃げきれないですよ」ということなんです。要は寿命が延びているのだから、いま60歳の人でも、そのうちの半数くらいはあと30年生きられるんじゃないですか? その間にツケが回ってきたらどうするんですか? と言いたい。
池田:財政が破綻するという最悪のケースになった場合、年金が減るなどして団塊の世代も被害者になるでしょうし、最も確実に被害者になるのはいまの30代以下ですよ。この間も誰かが言っていたけど、いまの年金制度だと、ちゃんとイーブンになる年金支給開始の年齢って75歳なんですって(笑)。いまの制度でトントンにするには、みんな75歳までは年金がもらえなくなるということです。下手すると、日本人の4割くらいは年金をもらえないまま死んでいくということが十分ありえるんですよ。いまの制度のまま行ったら。
堀江:そもそも年金はどうなのよ? というところがありますよね。仕組み自体が間違ってるんじゃないかと。たとえば年金を払わなかったとして、年金支給が開始される年齢になって収入がなくなった人って、どうなっているんでしょうね?
池田:まあそれはケースバイケースでしょうね。国民年金だった場合はもらえないでしょうし。もらえなくなったら生活保護でしょ?
堀江:だったら生活保護で生きていけるじゃないですか。
池田:そう。年金というのは、ある意味では所得が移転して給付されるものですから、要するに貧しい人にあげればいい話なんですよ。年を取ってるからと言って、お金を移転する必要はないですよね。それこそ大企業の経営者って、70歳になってもものすごい資産を持っている人がいるのに、その人に年金をあげる必要なんかないわけです。逆に若くても貧しい人にはお金をあげなきゃいけないのだから…。
堀江:結局、ベーシックインカム(すべての国民に対し、政府が最低限の生活を送るのに必要とされる額を支給する構想)のほうがいいってことになっちゃいますよね?
池田:そう。年齢とか地域とか関係なく、最低のナショナルミニマムを保障してあげればいいんですよ。それが一番簡単なんです。でも年金というのは、もともとそういう考え方からできたものではありませんから。昔みたいに若い人口が多いときには、国はものすごく儲かったんですよね。グリーピアみたいなのまで作って。それが今頃になってツケが回ってきているんですよ。
堀江:僕は年金なんてやめてしまえばいいんじゃないかと思っています。あんな面倒くさい仕組みなんだし。だから未納の問題も出てくるわけで。やっぱりあれだけの数を管理していたら、そりゃミスも出ますよね。
池田:どうしても必要だったらプライベートな積立型の年金にしておけばいいし、国がやる必要はまったくないんです。
堀江:国民年金基金なんてわけがわからないですよね。
池田:そもそものことを言うと、いまの厚生労働省の仕事はほとんどいらないわけですよ。だからこそ直せないということもあります。途中でやめたら何百万人という官僚が仕事を失い、失業するしかなくなるかもしれない。
堀江:でも仕事をしなくてベーシックインカムになるということもありますよね。辞めた人もベーシックインカムがもらえるんだったらいいじゃないですか。
池田:それが一番。経済学者も「負の所得税」と言うけど、論理的には同じですよね。
堀江:そうすると生活保護みたいな面倒くさい手続きもいらないし、職員もいらないし。公務員はけっこう減らせますよね。要はそういうことを言っている党がひとつもないということなんですよ。それがダメということではないけど。
池田:所得税に関することは、いま民主党がちらっと言ってますけどね。みんなの党も言ってるかな? 「給付つき全額控除」という形で。でもそれは、言ってみればちょっと修正する程度の話。いままでの公的年金とか生活保護とかは全部やめて、「シンプルな税の枠組みでやりましょう」という風にしたほうがいいんです。
堀江:新党日本みたいな小さい党は言ってますけど、もっとデカい党が何でそういうことを言わないのかなと思うんですよ。
池田:それをやると官僚の仕事がなくなっちゃうというのが大きいでしょうね。世界のどこの国でも実現してないですよね。
堀江:官僚の仕事がなくなるというのは大変なことなんですね。
池田:それともうひとつは、年金にしても何にしても、いま既得権を持っている人はものすごく多くいるから。年金なんて、いままで払ってきてこれからもらおうという人がいるのに、「何で今頃制度を変えるんだ!」と大抵抗するわけですよ。
堀江:そういう人たちには払っちゃえばいいじゃないですか。いまのうちに。
池田:払うって言ったって、全部清算したら大変なことになるじゃないですか。何十兆円にもなっちゃうでしょ? まあいずれ清算しないといけなくなるという説もありますが。おそらく何百兆円も必要でしょうね。400兆円くらい必要になるかもしれない。
堀江:その辺に関しては、民主党とみんなの党が、わりとちょっとは言っているということですよね? それで少しは前進すると。
池田:みんなの党は比較的、公務員制度とかについては「ちゃんとやれ」ということは言っているんですけどね。民主党も一時期はみんなの党と同じようなことを言っていましたよね。でも政権に就いてしまうと…。たとえば菅さんが「官僚は大馬鹿だ」と言って、官僚とケンカしたでしょ。その結果、足元をすくわれたんですよ。菅さんが乗数効果を知らないと報じられたことがあったけど、後で官庁の人から聞いた話だと、乗数効果って国会で何回も出ている質問なんだって。事前に質問を取りに行けば、乗数効果の質問が出るのはわかっていたはずだから、当然その答弁書に乗数効果について書いてあるはずだと言うんです。ところがあのときはまったくそれが書いてなかったから、乗数効果も知らない菅さんは大恥をかいたでしょ? あれはだから官僚の意地悪なんですよ。
堀江:その乗数効果にも関係するんですけど、会計的な部分も大きく変えていかなきゃいけないなと思っているんですよ。つまり単年度決算だったり、あるいは単式簿記を複式簿記に変えなければいけなかったり。そうじゃないと、国の財務状況っていまは特別会計が必ずあるけど、ああやって分離していって、もう見ていてわけがわからないくらいになっていて。だから複式簿記のちゃんとした財務諸表を作るようにするんです。さらにもうひとつ言うと、GDPという指標自体が時代遅れなんじゃないかな。なぜかと言うと、GDPというのはまさに乗数効果で、公共事業を一発ボンと発注するとそこから乗数効果が生まれますよね。10億円の発注をしたらGDPは100億円超えるとか、そういう世界じゃないですか。GDPが昨年度比何%減とか何%増とか、そういうことに汲々として、それでまた財政支出を増やそうとするわけじゃないですか。そんなことに何の意味があるのかと僕は思うんです。そうじゃなくて「実質的にどこが増えているのか?」というのが大事なわけであって。ちゃんとした企業の財務会計のような、わかりやすい財務諸表をちゃんと公開していないからそういうことになるんじゃないかな。
池田:それは役所の会計の話ですよね?
堀江:そうです。そこまであまり言わないじゃないですか。簿記とか会計とか、あまり興味がないんですかね?
池田:興味ないことはないだろうし、いちおう財務省は、複式簿記の形のものは最近作るようになっているんですけどね。ただ役所の決算システム自体が単年度で、決算委員会なんて誰も知らないでしょ? 要するに企業の場合は決算に従順だけど、役所の決算には誰も反応しない、予算がすべてということになってしまっているんです。
堀江:その予算を獲得することに汲々としているわけでしょ?
池田:官僚は「一度決めたことは絶対に間違わない」という前提になっているわけです。これもまた、日本の官僚は非常に強固な国家社会主義でずっとやってきていることが効いていて、その仕組みを変えるのは半端なことではないし、ある意味で言えば、鳩山前政権は下手にそこへチャレンジしたために官僚に足元をすくわれたんだと僕は思っています。鈴木宗男さんの件にしても、外務省の官僚にチクられて大失敗したわけ。役所の人たちって政治家の足引っ張るネタをいくらでも持っているから。
堀江:何でそんなに嫌らしいんですかね?
池田:やっぱり彼らは日本社会の中心にずっといたし、これからも中心にいたいわけです。彼ら自身が「日本の指導者であり、エリートだ」という意識が強いんですね。そして現に優秀な人たちだから。政治家なんてたかだか3~4年くらい職に就いて、いつ落ちるかわからないけど、一方の官僚は何十年も居座って、政治家のお世話もしてくれるのだから、みんなやっぱり官僚の言うことは聞くんですね。
堀江:だったら官僚も任期制にすればいいじゃないですか?
池田:そこはやはり、英米型と日本型あるいは大陸型の官僚制度って違うんですよね。英米型は良くも悪くも優秀な官僚はいらないんですよね。日本の官僚は良くも悪くも優秀で、そもそもの国のつくりが違うということですよね。だから時間をかけて直していくしかない。そういう意味では、みんなの党がやっているみたいな、「公務員制度は直していかなければならない」というのはまさにそうなんだけど。僕はこの間も渡辺さんに言ったんですよ。「直さなきゃいけないのはその通りだけど、あなたも官僚機構による痛みに遭っているじゃないですか。どうやればそれは直るんですか?」と。そしたら渡辺さんは「…やらなきゃいかん」と言うだけで、やはり彼もちゃんとした戦略を持っていないんですよ。
堀江:プランがないということですよね。どうやったら直せると思います?
池田:ものすごく難しいですね。何十年とかかる話だと思います。だって明治以来百何十年の歴史があるんだから。
堀江:でも、法律を作りさえすればいいんでしょうね。
池田:その法律も彼ら(官僚)が作るんだから。
堀江:彼らじゃない人たちに作らせればいいじゃないですか。
池田:だから政治家が自分で法律を作るようになればいいんだけど。
堀江:要は法律を作るブレーンがいればいいわけでしょ? それくらいは集められそうじゃないですか?
池田:まあ、少し時間をかければね。
堀江:時間かかるものなんですか?
池田:そりゃかかりますよ。いま全然いないんだから。ブレーンもシンクタンクも、ちょっとはあるんだろうけど…。でも堀江さんも仰ったように、官僚機構が実質的な権力を非常に集中的に持っているということが世の中の根本的な問題で、それは政権がどう変わろうが、あまり変わることはない、それを民主党政権が見せてくれたわけですよね。今回の政策を見ても、変えなければいけないという意識はあるわけですよ。みんなの党も含めて。でも、渡辺喜美さんにしても、どうやって大きな岩盤を崩していくのか、どこから崩していくのかもわかっているとは思えないんですよね。
堀江:それと、最近話に出なくなったな…と思うことがあって、それは道州制の話。これも官僚機構を解体するひとつの大きなポイントじゃないですか。税制とか法律とか、ある程度の独自性を持って変えられるようになりますよね。そうすると日本の首長はけっこう強大な権力を持っているので、リーダーシップを発揮してバンバン変えていくのも可能なわけです。なのに何で最近議論がなくなったんですかね?
池田:あれはもう30年近くは議論があるでしょ?
堀江:ただ、ちょっと盛り上がった時期があったじゃないですか。
池田:盛り上がっては下がるというのを繰り返しているんですよ。しかもあれこそ霞ヶ関の人たちの一番やりたくないことですからね。霞ヶ関の人たちは、やっぱりあそこに集中しているから力があるんですよ。
堀江:そもそも僕は、霞ヶ関に省庁があること自体が変なような気がするんですよ。あんな超一等地に"自社ビル"を持って…。いまどき自社ビルなんて、どこの企業も持っていないじゃないですか。ここだってソフトバンクの入っているビルですけど、別にソフトバンクの自社ビルじゃないですよね。だから省庁だって賃貸でいいんじゃないかと思うんですよね。それにこのIT化の時代に、わざわざ霞ヶ関に集中する意味もないと思うし。池袋に厚生労働省があって、渋谷に経済産業省があったっていいわけです。何でそういうことをしないのかな。何であんな"自社ビル"を持っているんでしょうね?
池田:10年くらい前、僕がまだ霞ヶ関に勤務していたときにすごく印象的だったのは、霞ヶ関に看板があって、「霞ヶ関官衙(かんが)」と普通の辞書には出てこないような字があったんですよ。「官衙」って何かと言うと、中国の官僚制において、役所のある場所のことを言うんですよ。つまりあれは中国の伝統なんですね。いまの中国は典型的な官僚制ですよね。共産党のトップはまさに皇帝みたいなもので、その皇帝に仕える官吏がいると。そういう意味でも皇帝のお膝元にいないといけないんですよ。日本の場合、たまたま天皇という存在はあるけど、政治構造は似ているわけですよ。「皇帝のいない皇帝制」とでも言うべきものが、日本では連綿と続いているんです。
堀江:でも移転くらいはできそうなものじゃないですか? まず霞ヶ関の象徴的なものから変えていくといいかもしれない。総本山である霞ヶ関の"自社ビル"からみんなを追い出しさえすれば、誰も「(官僚の総称としての)霞ヶ関」とは言わなくなるでしょ? 厚生労働省は「新宿」と呼ばれるようになり、検察庁は「鶯谷」になるとか。「鶯谷」だとちょっと権威なくないですか? あとは…最高裁が「茗荷谷」とかになったりして(笑)。
池田:まあ今回は参議院選挙ということで話を進めてきたわけですけど、堀江さんの仰るように官僚機構と政治の関係というのは非常に大きな問題で、民主党政権になってそれを変えようという動きにはなったんだけど、結果的にはむしろ政治家が官僚制に押しつぶされたような形で鳩山前政権も倒れたわけですよね。今度の参院選も、もう一度政治する側がしっかりして、本来の日本の国の建前のように政治家が物事を決め、法律を作って、官僚がそれを執行するという形に直していくための、ひとつのステップなのかなという感じがしています。それは堅固な建前なんだし。
堀江:それをやるためには、今回の参議院議員選挙はどうなのかなあ。その意味で言うと、みんなの党と民主党くらいしかそういうようなことに近づいているところはなくて、論外の党もけっこうあるわけです。なんかお先真っ暗なような気がするんですが。
池田:ひとつだけ救いがあるかなと思うのは、やはり役所の中でも「斜陽産業だ」ということがわかってきているわけだから、40代以下の若い人は「このままだと、将来は自分たちも天下り先がないし、いまの仕組みを守ってもあまりいいことがないのではないか」という感じになってきていますよね。やはり世代間の差というのは官民問わず同じようにありますよ。たとえば僕の元同僚はいま首相補佐官になっているんだけど、彼も「いまの霞ヶ関の仕組みはよくない」と言って、一時的には省内のポストから外されたりもしたけど、いまはちゃんとカムバックしています。そのことからも、霞ヶ関の中にも少しは復元力があって、「このままじゃダメじゃないか?」と思っている人たちもだんだん中枢に入りつつあるから、長い目で見たら官僚機構にも自浄努力があると信じたいですね。
堀江:いやー無理でしょ(笑)。
池田:まあ政治家がもっとしっかりしないといけないですね。
堀江:もっとドラスティックにやってほしいですけどね。代表選とかでそっちの系統の人とか出てこないですかね?
池田:それもやっぱり世代交代しないとダメなんじゃないですか。せめて前原さんくらいの世代に代わらないとね。
堀江:40代くらいで。ただ前原さんも含めて、僕はちょっと見飽きた気がしているんです。もっとすごい人がいるんじゃないかと思うんですけどね。
池田:自民党も、河野太郎さんとかの世代になれば変わるんじゃないかな。
堀江:いや、小泉進次郎でいいんじゃないですか? それくらいフレッシュになってもいいような気がします。まあCMに出すくらいが関の山かもしれないけど…。そこまでドラスティックにやれる政党が出てくると思いますか?
池田:日本経済がもっと追い込まれたら出てくるんじゃないですか。まだ良くも悪くもみんな食えてるから。それこそ本当にものすごいインフレになるとか、国債が全然売れなくなるとか。
堀江:そうですか…。
池田:ということで、最後に本の宣伝を。今度『拝金』という小説を出されるんですよね?
堀江:はい。2004年くらいのITベンチャー企業の人たちの姿をリアルに伝えたいと思って。たとえば『ハゲタカ』という小説はドラマ化もされましたけど、あれを見ているとITベンチャーみたいな感じの人たちの描かれ方が、ちょっとバイアスがかかっているというか、真実じゃないなと思ってフラストレーションが溜まっていたんです。その辺をリアルに伝えたいなと思って書いた本です。あんまり興味ないですか?
池田:いやいや、読ませていただきます。
堀江:たぶん2時間くらいで、ダダダダダッて読めますから(笑)。
池田:まあ、あの時代の日本が元気だったというのをもう一度みんなで思い出してもらって、これからどうすればいいのかというのを考えてみるきっかけになるかもしれませんね。今日はどうもありがとうございました。
堀江:ありがとうございました。
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