【佐藤優の眼光紙背】北朝鮮の核開発を阻止するために戦略的中東外交を - 佐藤優
※この記事は2009年06月01日にBLOGOSで公開されたものです
5月25日に北朝鮮が核実験を行った。5月に入ってからインテリジェンス関係者の間で、「近未来に北朝鮮が核実験を行う」という臆測情報が流れていたが、これほど早い時期に実験が行われると予測していた専門家は少なかったと思う。5月4日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、国民に対して「150日戦闘」を呼びかけている。今後5カ月、今年10月までの間に獲得しなくてはならない目標を金正日指導部は定めていると思う。
筆者の見立てでは、2つの目標がある。
第1は、内政上の目標だ。北朝鮮は、2012年の故金日成主席の生誕100周年を基点に戦略を組み立てている。この年に金正日氏から次の指導者への政権委譲が行われると筆者は見ている。後継者が金正雲氏になるか、あるいは金正哲氏、金正男氏になるかは、本質的問題ではない。金正日の血を継承する者が後継者となって金王朝が維持できればよいのだ。
第2は、米国のオバマ政権から金正日政権存続について、明示的な安全保障をとりつけることだ。この観点から、弾道ミサイル発射、核実験などを北朝鮮は行っている。それとともに北朝鮮は中東における武器輸出、軍事技術の供与を行っている。西側軍事筋によれば、最近、シリアにおける北朝鮮の軍事行動が顕著になっているという。北朝鮮
は優れたとんねる掘りの技術をもっている。イランやシリアで地下60メートルに直径15メートルのトンネルを掘って、外貨を稼いでいる。イランの核施設はこのようなトンネルの中に設置されているという。米国の最新鋭スパイ衛星でも地下トンネルに何があるかを映し出すことはできない。
西側軍事筋の情報だと最近、北朝鮮がシリアとレバノンの国境地帯に地下トンネルを掘り、そこにマスタードガス、VXガス、サリンなどの化学兵器を隠しているという。
北朝鮮が、確固たる中東戦略をもっているわけではない。シリア、イランなどが北朝鮮の武器や軍事技術を購入するから輸出しているにすぎない。他方、シリア、イランが北朝鮮にカネを流すことが北朝鮮の核開発、弾道ミサイル製造を可能にしているわけだ。
北朝鮮は日本にとって脅威である。北朝鮮の各事件を阻止するために日本がイランやシリアなどの中東諸国に北朝鮮へカネを流すなという厳しい対応をすることが国益にかなう。
(2009年5月30日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力」、「テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方」、「テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2」、「「諜報的生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー」など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。