※この記事は2009年03月05日にBLOGOSで公開されたものです

Googleが、世界中の書籍をスキャンし、デジタル化して、全文検索やオンライン販売を行うための手続きを推し進めている。
その一環として、2月24日の各紙朝刊に告知の広告を掲載。日本の著作権者に対して対応を求めている。(*1)

著作権の細かいことは専門外なので、あまり踏み込まないことにするとして、こうして原稿を書いてお金を貰っている私の立場として言わせてもらえれば、書籍の全文検索ができるようになることは、単純にありがたいことだと思う。
何が一番ありがたいかといえば、引用がより有益になるという点である。
もちろん、自分の書きたいことにまつわる単語で書籍を検索して、持論の補強をするための引用部を探すような使い方もあるだろう。
だが私はそれよりも、誰もがネットという利用しやすい場所で、引用されたオリジナルの文章にあたることができるという利点に注目したい。
引用した批評者の視点だけを鵜呑みにしないために、オリジナルの文章にあたることが、当然求められる。
しかし、その文章が絶版だったり、図書館になかったりすると、オリジナルにあたりたいと思いつつも、いつの間にか忘れてしまうということがよくある。それがネットで調べられるのであれば、大変便利だし、間違った認識を植え付けられることも少なくなる。
それは利用者としての観点だけではなく、著者としても(私だって本の著者である)自分の文章の真意をより伝えやすくなるという点で、自分のオリジナルにあたってもらいやすい環境があるほうが、都合がいい。

また、今回の問題からは大きくズレるが、映像メディア。特にテレビのニュース番組やワイドショーもデジタル化されて、誰が何を発言したのか、デジタル化されるべきだと考えている。
社会問題について何かを言うとき、本やネットという文字メディアであれば、その文章は本なら図書館に、ネットならアーカイブに保存され、形として残りやすく、あとから誰が何を言ったのか検証することも可能である。
しかし、テレビ番組の場合、映像はすぐに消えてしまい、誰がどんな発言をしたかということが、検証不能になってしまうことが多々ある。
たまたまレコーダーに録画していればいいが、後から「誰々がこういう発言をしていた」と聞いたとしても、後からその番組を見ることは困難である。
最近はネットが発展し、映像メディアもyoutubeなどにアップできるようになった。しかしそこには著作権の壁が立ちはだかるし、どの番組で誰がどういう内容を語っているのかということを検索するのは難しい。
テレビニュースがワイドショー化しているとはよく言われることであるが、それはテレビというメディアにおいては、発言があまり記録に残らず、無責任なことを言おうとも、それが追求されることが少ないということが原因の1つであろう。
ニュースやワイドショーも報道の一種であるのだから、その内容は再アクセス可能なように公開されなければならないだろう。そうした中で、当然デジタル化され発言は検索可能にされるべきであると、私は考えている。

閑話休題。
以前にも書いたが(*2)、そもそも著作権という法律は「文化的所産の公正な利用」と「著作者等の権利の保護」を図り、「文化の発展に寄与することを目的とする」法律である。
公正な利用と著作者の権利は決してトレードオフではない。
Googleによる書籍のスキャン、デジタル化というビジネス戦略、そしてそれに対するアメリカの作家協会や出版社協会の対抗が、今回の和解案を産み出した。それは公正な利用と著作者の権利、そしてビジネスのみごとな折衷案であると私は考えている。今回の和解案を支持したい。

もっとも、私のそうした感想は、「引用して批評する」という文化がある論評の分野に私がいるからであり、記述そのものについて論評することのない、小説などの娯楽分野の文章を書いている人や、著作権を持つ出版社の人たちは、また異なる考え方を持っているであろう。
そうした線引きは必要なので、今回の和解案がオプトイン方式で日本の著作物にまで自動的に適応されるのは、どうかとも思う。
GoogleはGoogleストリートビューなどでも先に公開し、その後でいろいろと苦情や問題を引き起こしている。今回の件も、そうそう簡単には済まないだろう。
しかし、Googleが先走って本のスキャン、デジタル化を始めたからこそ、著作物の利用促進に向けての大きな進歩が産まれようとしている。
そうしたGoogleの体質が問題を引き起こすことは多々あっても、それはただの迷惑行為ではなく、世界が変わっていこうとするときに、必然的に起こりうる摩擦なのである。
世界をどんどん変えるために、Googleはもっと先走ればいい。

*1:日本の書籍全文が米国Googleブック検索に? 朝刊に載った「広告」の意味(IT media)http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/25/news089.html
*2:【赤木智弘の眼光紙背】第9回:公益と利益と著作権(livedoor ニュース)http://news.livedoor.com/article/detail/3403942/

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。