※この記事は2009年02月26日にBLOGOSで公開されたものです

2月18日、麻生太郎総理がロシア連邦サハリン州の州都ユジノサハリンスクを日帰りで訪問し、ドミトリー・メドベージェフ大統領と会談した。日本外務省の発表では、成果は以下の点にある。

<麻生総理からは、昨年11月の首脳会談後にメドヴェージェフ大統領が事務方に具体的な指示を出されたことは、この問題の解決に向けた大統領の強い意思の表れとして嬉しく思う旨述べた上で、これまでに達成された諸合意及び諸文書を基本としつつ、大統領が指示を出したような「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」の下で、帰属の問題の最終的な解決を目指していきたい旨述べた。 これに対し、メドヴェージェフ大統領は、この問題について双方に受け入れ可能な解決を見つける作業を継続する用意がある、この問題は世界にある他の問題と同じように解決可能と思っていると述べた。>(外務省: 日露首脳会談(於:サハリン)(概要)

外交は、言葉の芸術の世界だ。新しい言葉、わかり難い言葉があるときに、文字通り眼光紙背に徹して、真の意味を真の意味を探求しなくてはならない。今回は、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」がキーワードであることは明白だ。問題はこのキーワードが何を意味するかだ。

この点について、麻生総理自身が首脳会談直後のぶらさがり記者会見で重要なヒントを出している。

<「これは、この前の時にも、既に話をしたのだと思いますが、基本的に日本としては、4島の話というものが、向こうは2島、こっちは4島ではもう全く双方進展しない訳ですから、しかるべく、これまでの宣言とか協定、いや条約か、いろいろなものをふまえて、我々として、今までだって双方で解決しないでしょと。だから、そういった意味では、この問題が引っかかっている間、日ロのいろいろなものは、すべてここに引っかかる。この問題を解決し、そのためには役人に任せているだけではだめ。政治家で決断する以外に方法はないのではないかという話の、今の話で、今の言葉が出てきたというように理解していただければと思います」>(2月18日asahi.com)

この発言を素直に読めばいい。四島に固執していては、日露交渉が進まないということだ。北方領土問題に対する日本政府の原則は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島からなる北方四島の主権(もしくは潜在主権)が日本にあることを確認して、平和条約を締結することだ。「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」とは、日本政府として、北方四島の主権確認をあきらめたということだ。これは、従来の政府の原則を変更することを意味する。

領土は国家の礎だ。このような姑息な方法で、なし崩し的に北方領土に対する日本国家の方針を変更してはならない。(2009年2月26日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力」、「テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方」、「テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2」、「「諜報的生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー」など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。