【佐藤優の眼光紙背】2008年は最悪の年 - 佐藤優
※この記事は2009年01月02日にBLOGOSで公開されたものです
後世になって「2008年は最悪の年だった」という評価がなされるかもしれない。国際政治において、2つの大きな変化が生じた。
第一は、9月に米国証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、世界的規模での不況が生じたことだ。各国は、「保護主義に傾いてはいけない」と口先でいいながら、事実上、保護主義的政策を採用している。米国のオバマ次期大統領は、1930年代のニューディール政策を彷彿させる発言を行っている。ニューディール政策も保護主義の変種であったことを忘れてはならない。
第二は、8月のロシア・グルジア戦争である。この戦争については、グルジアもロシアも同じくらい悪い。米国の支援があることをいいことにグルジアは武力を用いて南オセチア自治州に対する支配を回復しようとした。グルジアのサーカシビリ政権は、少数民族の権利を認めない自民族独裁主義を露骨に進めている。ロシア・グルジア間の協定に基づいてロシア軍はグルジア領の南オセチア自治州に駐留していた。ロシア軍が反撃したのは当然だ。ただし、ロシア側も看過できない行き過ぎをした。ロシアは、南オセチアとアブハジアの「国家独立」を一方的に承認し、「両国」にロシア軍を駐留させる態勢を整えた。ロシアのメドベージェフ政権は、ロシア帝国の安全保障を確保するためには、近隣諸国の主権は制限されるという「制限主権論」を展開している。日本はロシアの隣国である。このような制限主権論が日本に対して適用される危険性もある。
日本政府は、ロシアを牽制する外交を展開しなくてはならないのに、外務官僚は指をくわえて情勢の推移を眺めているだけだ。もっとも、米国も欧州諸国も、口先でロシアを非難しても、本気でグルジアを支援する気はない。結局、アブハジアと南オセチアについて、国際社会はロシアのゴリ押しを追認している。
これが帝国主義外交の実態なのである。2009年になると、各国は国家機能の強化に走る。外交において、各国は自国のエゴを露骨に主張し、国益の極大化を目指す。あまり激しく自己主張をすると、他の諸国の反発を買い、結果として自国の国益が毀損されるような状況になってはじめて国際協調に転じるようになる。
国際秩序の転換にともなって、日本の外交政策も帝国主義的になる。その覚悟が日本の政治家と外交官にどこまでできているか、実に不安だ。(2008年12月31日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家と人生 寛容と多元主義が世界を変える (角川文庫)」、「国家と神とマルクス 「自由主義的保守主義者」かく語りき (角川文庫)」、「自壊する帝国 (新潮文庫)」など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。