※この記事は2008年12月18日にBLOGOSで公開されたものです

先週に引き続き、2008年の月ごとのニュースから1つずつとりあげていく。
今回は後半であるが、今月の記事の4本中3本がまとめになってしまい、12月の事件を取り上げることができていないので、12月の記事については、来週に2本程度まとめて取り上げ、そのうえで1年の総括をしたいと考えている。
なので、今回は7~11月の記事を取り上げる。

7月は、独身の女性アナウンサーが、既婚の野球選手との不倫を報じられた事件について。
単純な話、独身の女性が男性とつきあっても、それは恋愛だが、既婚の男性が女性とつきあったら、それは不倫なんじゃないの?
つか、どう考えても悪いのは既婚の男の方であって、女性のほうも悪くないとは言わないけど、罪の度合いは低いのではないかと。
しかし、結局女性の方はタレントとしての仕事をほとんど失った一方で、男性の方は事件の影響なのかわからないけど、トレードに出された程度で済んでいる。
セックスの問題は昔から「男は甲斐性、女は不貞」という、同じ行為でありながら、男はセックスを称賛され、女はセックスを穢れであるとされる性差別の問題がある。今回の世間の反応も、そうした差別分脈にきっちり納まっている。
そしてそうした差別を行っているのは、男性だけではなく女性もまた不倫をした女性の方を強く批難していた。
男女同権が言われて久しいが、こうした生々しい分野では、まだ差別感情は根強いようだ。

8月は突然の豪雨によって、東京都豊島区雑司が谷で下水道工事をしていた作業員が流され、5人が死亡した事件を取り上げたい。
今年は「ゲリラ豪雨」という言葉が話題となった。言葉としては70年代からあったようだが、特に今年は死亡事故があったことによりマスメディアで盛んに取り上げられていた印象がある。
ゲリラ豪雨は地球温暖化の影響とも言われるけど、まぁヒートアイランド現象の一種なのだろう。
この事故を受けて、東京都の下水道局は「雨が一滴でも降ったら、工事中止」という、極端な指示を出してちょっとした話題になったが、けれどもゲリラ豪雨の唐突さと、その降雨量を考えれば、極端な措置もやむなしといえよう。
しかし、それによって納期が遅れる可能性が出てくれば、その分だけ仕事が強行軍になることも予想される。
ハッキリ言えば、余地もできなくて一気に増水してしまう状況に関しては、もはや危機管理のシステムを構築すればどうにかなるものでもあるまい。けれども下水道の管理をしないわけにもいかないから、100%ではないことを認識しながらも、安全対策を行う必要がある。
けっこうこの「100%ではないことを認識」というのが難しくて、安全安心に対するオーダーが高まっている現在「100%は無理です」なんていうと、批判を受けたりもする。しかし、そこはある種の「あきらめ」が必要なのである。
安全安心といえば、8月には帝王切開手術で女性を死亡させたとして産婦人科医が訴えられていた事件に、地裁での無罪判決が言い渡されたということもあった。これもまた「医者は妊婦の安全を100%守ることができて当たり前なのだ」という100%要求から起きた問題だと考えている。
100%を産婦人科に求めた結果、リスクを負いきることのできない医者が、産婦人科を敬遠する事態になり、さまざまな地域で常勤の産婦人科医がいないという結果に至ってしまった。

9月は一部の米穀業者が事故米を食用と偽り、不正転売していた事件について。
正確には8月の事件なのだけれども、月末近くなので話題になった時期が9月という扱いで。
事故米の毒性については、冷凍餃子事件から継続する形でメタミドホスの混入が盛んに報じられたけれども、毒性ではアフラトキシンB1の方が数百倍ヤバいらしい。けれども、メタミドホス優先で報道が行われたのは、やはりメタミドホスという単語で、視聴者の気を引きたいが故の、優先順位のすげ替えだ。
あと、これについてはある程度の米を外国から輸入しなくてはならない(義務ではないようですが)ミニマム・アクセスの問題があると言われていますが、それはいいわけでしょう。結局のところ、事故米を食用と偽って出荷していたのは金儲けのためであり、こういう輩はどんな状況においても悪徳なことを行うのである。
中国食材の問題で国産信仰が広がりつつあったが、中国人だろうが同じ日本人だろうが、悪どいヤツは悪どい。そうしたごく当たり前の基本を再認識させられた事件であった。今後不況が進めば、国産品だって粗悪になっていくんだろうなぁ。

10月は大阪の個室ビデオ店で放火があった事件。
自分は「若者弱者問題」なんかの話をして飯を食っている人間なので、ネットカフェ難民の話なんかもするのだけれど、そういうときに新聞記者さんとかは、あまりネットカフェに行ってないというのが、ちょっと驚きだった。
行ってないということは、ネットカフェに対して報道で知られている範囲でしか知っていないわけで、中にはネットカフェは難民でいっぱいみたいな印象をもっている記者もいる。
しかし、実際には終電逃した若者とか、サラリーマンで宿泊費を浮かしたいような人が大半で、ネットカフェのなかには格差社会を呪う呪詛の声なんか充満していない。
ネットカフェですらそういうありさまなのだから、新聞記者が「個室ビデオ店」というものに対して、果たしてどのようなイメージをもって接したのか、事件そのものよりもそっちのほうに私は興味がある。

11月は、兵庫県の井戸敏三知事が「関東で大震災が起きればチャンス」などと発言した事件について。
失言というのはこういうレベルのことを言うのであって、麻生太郎の失言なんてのは、失言のうちに入らない。
とはいえ、私自身も「戦争によって正社員が死ねば、非正規労働者に労働が回ってくるからチャンス」なんていう文章を書いている人間なので、おおっぴらには知事を責められないのかも。
ただ、私と彼が違うのは、私は当時フリーターであり、別にそういう発言をしたところでなにも失うものがないからこそ、ああした発言ができたのに対し、この人は失うものをいっぱい持っている知事でありながら、なんでこんな発言をできたのかが疑問だ。ましてや阪神大震災で大きな被害を受けた兵庫県の知事がだ。
結局、この人は単に頭が悪いのだろう。暴言をいうなら、それが暴挙であると自覚しつつ、ちゃんとその暴言が最終的には暴言ではなくなるような、ものの言い方をしなければならない。私も「希望は戦争」などと暴言を吐きながら、その一方で、単純な戦争待望論と思われないようにするにはどうしたらいいか、ということをちゃんと考えて、あの文章を書いたのである。
暴言を吐くには、ちゃんとした下準備が必要であるが、知事はそれを理解していなかったのだろう。
そのくらい知事の発言を批判した橋下知事だって、チャンスと言われた側の石原知事だってちゃんとやっているのだから、井戸知事も頑張るべきだ。いや、橋下はできてないかな?


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国画像を見る」

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。