【赤木智弘の眼光紙背】失われた10年 - 赤木智弘
※この記事は2008年12月04日にBLOGOSで公開されたものです
各メディアが「学生の内定取り消し」を盛んに報じている。サブプライムローン問題に端を発した世界的な不況が、昨年まで超売り手市場といわれていた就職市場を直撃し、青田買い状態の内定が取り消され、大変なことになっているそうだ。
一部には、山一証券が破綻した97年度に迫る勢いだといわれている。
で、それがどうした?
なんでそんな、10年前にやった失態を、今またくり返しているの?
この国の経営者は学習能力がないのか?
このような事態に陥っているのは、そもそも「新卒一括採用」などという、百害あって一利なしの採用がいまだに多くの企業でスタンダードになっていることが原因である。
新卒一括採用というのは、いわばお腹が空いているときには、食べられるだけ食べて、お腹に食料をため込む。その一方で、お腹が一杯で苦しくなったら、ひたすらなにも食べない極端な食事法のようなものである。
実際企業は、不況の時代にはほとんどと言っていいほど新しい新卒学生を雇わず、少し景気が上向きになった数年前からは、徹底的な青田買いをした。だからこそ、ここ数年は「空前の売り手市場」といわれていたわけだ。
確かに、右肩上がりの経済成長がつづいていた時代には、いわば経済成長にしたがって採用していれば、安定した雇用が可能であったが、現在のような不安定な経済状況において、まったく同じように経済状況のまま採用人数を決定するというのは、あまりに危機感のない考え方である。
当然、内定取り消しを行った企業は、次年度からまともな大学から学生をとることができなくなってしまうが、それは内定取り消しをしたからブラックなのではない。
会社としてどのような採用をして、どのような事業展開を行っていくかというビジョンが不鮮明であるにもかかわらず、ただ景気の好調さにかまけて採用し、そのあげくに景気が悪化したら採用しないなどという、場当たり的な決断を下すような、今後の成長が期待できないダメ企業だからこそ、切り捨てられるのである。
私たちは、この長年の不況を通して、もはや右肩上がりの経済成長を、経済活動のベースとして考えることはできないと学んだはずだ。
にもかかわらず、いまだに一括採用という、昔ながらの古めかしい時代後れの採用方法がスタンダードである現状を放置していては、それこそこの国は10年以上に渡る不況から、なにも学ばなかったことになる。
報道を見てると、なにかこの問題が「内定を取り消された学生がかわいそう」程度に社会に受け取られているように思えるが、そうではなく、右肩上がりではない経済状況というベースの上に、ちゃんとした採用システムをいまだ作り出すことができていない社会という問題なのである。
そしてそれは新卒一括採用だけではなく、終身雇用や年功序列、そして過剰に身分を守られた正社員のありようなど、さまざまな労働問題に波及していくはずだ。
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国画像を見る」
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。