【佐藤優の眼光紙背】外務官僚の特権意識にメスを入れよ! - 佐藤優
※この記事は2008年08月12日にBLOGOSで公開されたものです
7月30日、共同通信が、「外務官僚ホテル代1540万円踏み倒し 1泊5万円で300日間」という記事を配信した。その内容は、<男性官僚は2006年6月から07年4月までの約300日間、都内ホテルの1泊5万円以上の部屋に宿泊。約1540万円の支払いが生じたが、ホテル側からの再三の請求にもかかわらず、現在まで全く支払われていない。/男性官僚は家庭の事情で都内の自宅を出た後、ホテルから外務省に出勤する生活を続けていたが、昨年4月以降は川崎市内の官舎に住んでいるという>というものだ。一般の新聞は、その後、この事件についてとりあげず、デヴィ夫人がこの官僚とホテル経営者の女性が恋愛関係にあったとの話をながし、もっぱらワイドショーのネタとなっているが、本件の背景には、外務官僚の社会通念からかけはずれた金銭感覚と特権意識がある。
鈴木宗男衆議院議員が、7月31日付の「ムネオ日記」(http://www.muneo.gr.jp)で、外務省の内部文書『外務省員手帳2003年版』を引用し、外務官僚は、東京都内の高級ホテルを格安で泊まれる実態を明らかにしている。芸能人が結婚式でつかうような超高級ホテルに外務官僚ならば、カップルで2万円から2万5千円程度で泊まることができる実態をホテル毎に具体的に明らかにした上で、鈴木氏は、<外務省職員は通常料金より30~50%安くホテルを利用できるのである。とんでもない特権である>と述べているが、その通りである。
筆者が知っている駐露大使経験者は、外務省を退官した後も、自宅の建て替えを行うために、高級ホテルのセミスイートルームに半年以上も、特別優待価格で泊まっていた。その後、このホテルでは、外務省との関係で「裏金事件」が発覚し、この大使に便宜を図っていたホテル幹部は、逮捕、起訴された。
外務官僚に対するホテルの割引には、カラクリがある。外務省は、国際会議や外国からの代表団を招待する際に高級ホテルをよく使う。ホテルが外務官僚の歓心を得ることは、営業に直結するのである。国際会議やレセプション、代表団を招待したときの経費は、国民の税金から支払われている。税金を用いて仕事をする外務官僚が、個人的便宜を業者から受けることは、道義的におかしいと思う。インターネット割引でも1泊4万円くらいするホテルに外務官僚であるがゆえに1万円以上の割引を受けていることは、贈与とみなされてしかるべきだ。
さて、今回問題になっている外務官僚には、1500万円あまりの支払い義務が生じるであろうが、兼業を禁止されている外務官僚が、自分の力でこれだけの借金を支払う方法は一つしかない。アフリカや中東などの給与がよい大使館に勤務することだ。そうすれば、1年に1000万円くらいの蓄財は十分にできる。かつて外務省では、「自民党レート」という一晩で百万円をはるかに超えるカネが動く賭け麻雀が常態化していた。この麻雀に負け、数百万円単位の借金を作ったためアフリカに赴任した職員がいるという話は、外務省内で有名だ。しかし、在外給与は、国民の税金から、外交活動を行うために出ているものだ。蓄財や借金の返済のためのものではない。
また、報道から判断する限り、この外務官僚は都内に自宅をもっているにかかわらず、公務員宿舎に住んでいるようだ。これもおかしい。なぜなら、公務員宿舎は、通勤圏内に自宅をもっていない者を対象に提供されているはずだからである。
そもそもカネを払わずに民間ホテルに300泊もし、そこから外務省に通っていることに関して、本人も、周囲(外務省員は、実態として、どこに住んでいるかを上司と会計担当官には報告する義務がある)もまったく問題意識をもっていないという「外務官僚の常識」が「世間の非常識」であるということを、この機会に徹底的に弾劾しておかないと、外務官僚の行状は改まらない。(2008年8月10日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)画像を見る」、「インテリジェンス人間論画像を見る」など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。