※この記事は2008年03月11日にBLOGOSで公開されたものです

アメリカの経済誌「フォーブス」が発表した2008年の長者番付でロシア人が上位に入ったことがニュースになっている。

<ロシアが資産10億ドル(約1030億円)以上の富豪の数で昨年の53人から87人に急増、米国に次ぐ世界第2位に躍進した。プーチン政権初期の01年は番付入りは8人だった。経済の派手な拡大が反響を呼んでいる。

番付入りした富豪の資産総額4714億ドルも、昨年の2824億ドルから大きく増えた。さらに都市別の数ではモスクワが74人、その平均資産額も59億ドルと、71人で33億ドルの米ニューヨークをしのいで1位を占めた。

主力産業のエネルギーの高値で急成長してきた経済らしく、富豪の平均年齢も46歳と、世界の平均より15歳も若い。業種も鉄鋼や石油関連の素材・資源産業が多く、あとは金融や投資など。

富豪の国内1位は、世界最大のアルミ会社を持つ「アルミ王」のデリパスカ氏(40)。資産280億ドル(約2兆8800億円)は世界でも9位だ。2位は、石油で財をなし、英サッカーチーム「チェルシー」のオーナーで昨年まで3年連続1位だった投資家アブラモビッチ氏(41)の235億ドルだった。>(3月8日asahi.com)

ロシアの大富豪の羽振りのよさを筆者も皮膚で感じる。昨年末、ある朝早く、親しくするロシアの大富豪から筆者の携帯に電話がかかってきた。

「今朝、東京にやってきた。昼間、しゃぶしゃぶでも食べないか」と赤坂の老舗和食屋を指定してきた。招待に応じたが、モスクワから早朝、東京に着く商用便はないはずだ。「昨日着いたのか」と尋ねると、「いま着いた。自家用機でやってきた。羽田にスポットがとれたので、便利だ」という返事だ。

昼食をとりながら、今回の訪日の目的について聞いたら、「家内が日本橋の高島屋で、新年会(ロシアではクリスマスよりも新年会を祝う風習がある)のプレゼントを買いたいというので、僕もついてきた」という話だった。真実の目的があって、それを隠しているということでもない。ただ、この席で大富豪から聞いた、「プーチン大統領は、2020年までの国家戦略の青写真を描いているよ」という「雑談」は、その後の分析をする上で、とても役に立った。今年2月8日、プーチンはクレムリンの国家評議会で、「2020年までのロシア発展戦略に関する演説」を行ったが、その内容もこの大富豪が「雑談」で話していた方向と一致した。

ロシアの大富豪の特徴は、いずれもロシア国家と深く結びついていることだ。ロシアの資本家は、グローバリゼーションではなく国家資本主義の論理で動く。ビジネスを通じてロシアの国益の極大化を図る。このような思想をもった大富豪しかロシアでは生き残ることができないのである。

洞爺湖サミットを契機に、ロシアの国家ファンドが積極的に北海道の企業の株式を購入する戦略を考えているという話がモスクワから聞こえてくる。この動きにロシアの民間企業も加わってくるであろう。ロシアの国家資本主義にどう対抗するが、日本としても国家戦略を組み立てる時期に来ている。(2008年3月11日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


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本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧