【赤木智弘の眼光紙背】福利厚生を切り捨てろ? - 赤木智弘
※この記事は2008年02月28日にBLOGOSで公開されたものです
2月18日、奈良市役所で2時間半にわたって、停電が発生した。その原因として、職員たちが持ち込んでいた「マイ電気ストーブ」があげられている。エアコンの設定は19度に下げられており、職員らは寒さに耐えかねて電気ストーブを持ち込んでいたようだ。*1
単純な話、19度という数値目標ばかりを重要視した管理者の考えが、実際に現場で働く所員の都合をまったく考えて無かったと。まぁ、役所に限らず、どこの会社でもよくあること。それに19度といったって、設定温度が19度なだけであって、部屋全体が19度だったと言うわけではない。特に机の下などは熱が入りにくいのだから、足下を電気ストーブであっためても当然だと思う。まぁ消費電力を考えれば、小型のカーボンヒーターを直接机の下にいれたほうが温かくてワット数も低いので、その点は所員側にも工夫の余地があった。
ただ、このニュースを気にしてネットを調べてみると、本気か冗談か分からないけど、「電気の無駄遣いをするな」「電気の窃盗だ」という、現場を無視した温度設定に対してではなく、ストーブを使った公務員に対する怒りを表明している人たちが結構な数いる。
普通の感覚であれば、暖房の効いた会社の中で働くというのは、社内で働く以上は正当な権利であるはずだが、こと相手が公務員になると、どうもそういう常識が働かなくなるようだ。
少し前にも、国土交通省がアロマテラピーグッズを道路特定財源から購入していたことが問題になった。もちろん問題の本質は特定財源をその他の用途に使ったことなのだが、どうも報道などを見聞きしていると、アロマテラピーグッズを買ったそのことに怒っている人たちがいるようなのだ。ほかにも、社会保険庁の時もあったマッサージチェアなど、そうした支出に対して怒る人たちは決して少数派ではないようだ。
しかし福利厚生ということを考えたときに、たとえば私企業が会社の中にスポーツジムの設備を整えることがあるのだから、そうした過剰な福利厚生を役所がしてはいけないという理由は、どこかに存在するだろうか?
公務員が国民に対する奉仕者であることは、決して公務員が福利厚生を最小限に抑えられなければならないということではないはずだ。
逆に公務員が福利厚生を過剰に受けていると考えるならば、公務員を引きずり下ろすよりも、一般企業でもそうした福利厚生を叫ぶべきではないか。マッサージチェアの存在を問題にするくらいなら、「うちの会社の休憩室にもマッサージチェアを導入しろ!」と叫べばいい。
私は「希望は戦争!」と言って、正社員を始めとする「安定労働層」を、戦争の混乱によって、わたしたちフリーターやネットカフェ難民といった「貧困労働層」の給料基準まで引きずり下ろして賃金格差をなくそうということをよく書いている。*2
そう主張すると、多くの人たちが「引きずり下ろしてどうする!貧困の人間の給料を上げるべきだ!」という無茶をいうのだけれど、こうした福利厚生については、当たり前のように「税金の無駄遣いだ!民間の会社にはそんなもの無いのに!」と、福利厚生の引き下げを主張し始めるのが、私にはどうにも理解しがたい。
結局そうした「役人は恵まれている」という僻みは、「社会全体での福利厚生の切り下げ」に貢献してしまっているだけではないだろうか。
*1:http://www.asahi.com/national/update/0221/OSK200802210091.html
*2:詳しくは私の単行本、赤木智弘著『若者を見殺しにする国』(双風舎)をお読みください。
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か」
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧