※この記事は2008年02月05日にBLOGOSで公開されたものです

餃子騒動の影に隠れて、大スキャンダルから逃れることができそうだと外務官僚が胸をなでおろしている。1999年のキルギスで発生した日本人拉致事件に関して、アルカイダとつながるテロリストのナマンガニ野戦司令官のグループに日本外務省が巨額の身代金を払っていた事実が明るみに出た。

<中央アジアのキルギスで99年に起きた日本人技師らの拉致事件について、当時の交渉担当者が1月31日に同国議会で証言し、日本政府が支払ったとされる200万ドル(約2億2000万円)を超える身代金について、誘拐を実行した武装勢力には渡らず、キルギスの治安当局者間で山分けされていたと述べた。

日本政府は身代金の支払いを一貫して否定しているが、当時官房副長官だった鈴木宗男衆院議員は著書の中で300万ドルが支出されていたと明かしている。

議会で証言をしたのは、キルギスの人権問題担当官で、当時解放交渉に携わったバキルウウル氏。インタファクス通信などによると、証言では、身代金は日本大使からキルギス側に託されたという。一方、キルギスの検事総長は「個人的な発言であり、検証するすべがない」と述べた。

日本人技師らは事件発生から約2カ月後に全員解放された。

高村外相は1日、記者会見で「身代金を払ったという事実はないと承知している。(調査などを行う)考えはない」と述べた。>(2月1日asahi.com)

この人質解放オペレーションに関して、筆者も情報面で一部関与した。この報道では身代金は200万ドルを超えるとなっているが、鈴木宗男氏が明らかにしているように、日本外務省が300万米ドル(約3億3000万円)だった。外務省領事移住部長が鈴木氏に事前に了承を求めにきたという話を、当時、筆者は鈴木氏から聞いた。

実は、このとき、ナマンガニとのルートをもつ、ある人物を通じ、人質解放についてテロリスト側とほぼ合意ができていた。しかし、キルギス側に身代金が支払われたという情報がナマンガニ側に聞こえ、人質解放の話は立ち消えになった。その結果、一時、日本人人質が殺害されそうになったことすらある。

当時、日本外務省は、キルギスは中央アジアのスイス、民主主義の先進国で、アカーエフ大統領(当時)は、民主的信念をもった高潔な指導者であると宣伝していた。しかし、2005年3月、議会選挙の不正を発端にチューリップ革命が起き、アカーエフは大統領の座を追われた。日本人人質事件の身代金がアカーエフ側近が着服したという噂が流れていたが、キルギス議会の証言という公式の場で確認されたことは初めてである。

この機会に、鈴木宗男氏、原田親仁氏(現外務省欧州局長)、松田邦紀氏(現駐イスラエル日本大使館公使)など当時のオペレーションに関与した責任者を国会に参考人招致して、真相を究明する必要がある。そうすれば、この人質解放オペレーションにおける外務省の対応がいかにいい加減で、特にビシュケク(キルギスの首都)の現地対策本部にいた原田氏、松田氏などの外務官僚が、ろくな仕事もせずに公費で連日、飲み食いしていた姿が明らかになる。消えた300万ドルは国民の税金だ。誤った判断をした外務官僚にきちんと責任を取らせなくてはならない。(2008年2月4日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


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