※この記事は2007年10月11日にBLOGOSで公開されたものです

 9月18日未明。16歳の少女が、就寝中の父親を斧で切りつけ、殺害した事件があった。
 私は、こういうニュースを目にするたびに、「どうせまた、アニメやTVゲームの悪影響とか言うんでしょ?」と、諦め気味になり、なにもわかっていない報道に腹を立てつつも受け流すのが常だが、今回は特にヒドイ報道を目にした。

 9月19日。朝日放送の「ムーブ」というワイドショーで、「インターネットで、あるアニメとの類似点が指摘されている」として、「ひぐらしのなく頃に(以下、ひぐらし)」というアニメをとりあげ、このアニメの影響ではないかと指摘した。アニメの内容を記述したフリップには、こんなことが書かれていた。

「山村での連続怪死事件がテーマ。主人公の少女は親の離婚騒動がトラウマに。斧を使って敵を殺していく。」

 ひぐらしは、最初はコミケなどで売られる同人ソフト(ゲームメーカーではなく、個人が作ったゲームソフト)として、細々と発売されたが、その凄惨で秀逸なストーリー性から多くのファンを得て、PS2のソフトやマンガやアニメになり、大きなムーブメントとなった作品である。当然、その作品名やストーリーの大枠は、アニメ&ゲームファンにはよく知られている。もちろん、主人公が男子高校生で、ヒロインの少女が使う印象的な凶器は、斧ではなく鉈だということも。
 確かに、事件発生当初に、この事件を「リアルひぐらし」と称するネット上の書き込みも多かったが、それは「女子高生と殺人」という記号に反応しただけであり、誰も本気で「類似点」など指摘などしていなかった。それはあくまでも「ネタ」であり、「女子高生と殺人」という以外に類似点などないということを、みんな分かっていた。
 しかし、偏見と不誠実さは、事実を簡単に飛び越える。「類似点がなければ、類似点を作ればいい」とばかりに、ムーブのスタッフはひぐらしの概要を、事件に完全に添う形に改竄した。

 以前、健康情報バラエティーの「あるある大辞典2」が納豆ダイエットの回で大規模な捏造を行っていたことが発覚して騒ぎとなった。
 その際に私が考えたのは、週に1回、必ず何らかの1時間の番組を作って、放送しなければならないという、そのこと自体の大変さである。
 毎週のように新しい健康食品や、新しい健康効果を紹介しなければならないが、しかし、この世の中にそんなに新発見があるはずがない。かといってありきたりな内容では、視聴者に飽きられてしまう。そうした状況で、下請け会社が番組を成立させるために情報を捏造することは、必然だったと私は思う。
 そしてこの「ムーブ」も、多くの昼から夕方にかけたワイドショーがそうであるように、月~金の帯番組である。毎日新しい情報を手に入れてくるのも、骨が折れるし、それをいちいち検証しなければならないとすれば、膨大な作業量になる。
 そうした状況で、アニメやTVゲームという「世間から批難されがちなメディア」に対しては、「批難する」というステレオタイプさえ満たしていれば、内容の正確さはどうでもいいと考えるようになるのも、必然なのかも知れない。

 しかし、番組を放送し続けるのは、あくまでも企業から広告収入を得るための、放送局側の都合に過ぎない。不正確な報道がまかりとおるぐらいなら、毎日の報道番組など必要だろうか?
 私たちは、朝起きてニュースを見て、昼食を食べながらニュースを見て、晩酌しながらニュースを見る。その習慣となった繰り返しが、実は「報道の正確性」や「多様な思考」という部分を犠牲に成り立っている可能性について、私たちはもっと過敏であってもいい。


プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。