坂本花織の五輪メダル獲得の夢を叶えた「努力の才能」。五輪前に語っていた表彰台への思い
「スターズ・オン・アイス」に出演した坂本花織
4月2日、大阪。アイスショー「スターズ・オン・アイス」の合間のトークショーでは、現役引退を決めた宮原知子のパートナーとして、平昌五輪の同志である坂本花織(シスメックス)が登場した。バッサリと短く切った髪は、その快活さに合っていた。
「バカ真面目!」
宮原についての印象を聞かれた時、坂本は間髪入れずに言った。言い回しが彼女らしい。
司会に「表現が......」とたしなめられると、坂本は慌てて言い直した。その天真爛漫さが憎めない。会場に優しい笑いが起こるのは、彼女の本質に悪意がないからだ。
しかし北京五輪での銅メダル、その後の世界選手権優勝の道のりは、奔放さだけでたどり着けるものではなかった。コロナ禍での地道な努力
2021年3月、神戸のポートアイランドでのインタビューだった。
「(2020-2021シーズンからコロナ禍で)リモートでの練習は大変でした。振り付けは左右が混乱して。どっち、どっちって」
坂本は冗談めかして話していたが、これまで以上にスケートと対峙することになったと言う。
「1カ月半、リンクが閉鎖されていたので。陸のトレーニングメニューを中心に回転とか体幹とか、とにかくいろいろやりました。毎日、ランニングも1時間くらい。頑張った時は、10キロくらい走り込んで。そうやってトレーニングを続けていると、本当に早く滑りたいって思うようになりました。自分のなかでも、これだけ頑張って鍛え上げたんだから!って......。いざ試合が始まって、日本選手が安定した演技ができているなっていうのは実感するところがありましたね。みんな地道に頑張っていたというか。自分も自粛の間のトレーニングで頑張ってきた成果が出ているなって思っています。だから五輪ではあの時に頑張ってよかったなって思えるように、表彰台を狙っていきたいです!」
その宣言は、振り返ると啓示的だった。坂本は、五輪シーズンに向けて栄光をつかむだけの準備をしていた。大胆で野放図にも見えるが、本来は細心でデリケートな女性と言えるだろう。たとえば、2019年の全日本選手権では何もかもうまくいかず、失意の6位に終わった。そこで言い訳もせず、虚勢も張らず、しょげ返って涙が止まらない様子をさらけ出す姿は、スケートにかける思いの深さを示していた。
代名詞となった雄大で馬力のある演技は、そうやって培ったものだ。
「(坂本)花織は昔、ナショナルトレーニングセンターで瞳孔が開くまで練習をやってしまったことがあって。やって来た救急車の人たちも驚いたことがありました」
中野園子コーチは坂本のポテンシャルについて、そう説明していた。
「普通の子は、疲れたら動かなくなるんです。でも花織のような選手になると、少々苦しくなっても、それ以上にできてしまう。倒れた時は、完全に意識が飛んでいました。そこまで追い込めてしまうのは、才能だと思います」
坂本は、思うままに滑っているように映る。しかし、ぶつかって打ちのめされても諦めず、限界を超えるために力を振り絞ってきた。それが世界女王の原点だ。
「花織ちゃんとの出会いはかけがえがないです!」
坂本と同門で年が近く、今年の四大陸選手権で優勝を飾った三原舞依の言葉だ。
「毎日、花織ちゃんと練習していますが、初めて見た時から『すごいな、こんな子と一緒に練習できるとは思ってもみなかった』とずっと思っています。一緒にいると、いつも安心感があって自然と笑顔になります。自分の元気を出してくれる存在で、練習ですごい滑りを見ているからこそ、頑張ってほしいなって思います」
世界女王となった坂本は、『スターズ・オン・アイス』のリンクに堂々と凱旋している。
「『さすがメダリストだね』っていうスケートができるように。しっかり滑りきりたいなと思っています」
そう語っていた坂本は、実戦さながらの演技を見せた。今シーズン、ショートプログラムで使用した『グラディエーター』で、ダブルアクセル、3回転ルッツ、そして3回転フリップ+3回転トーループとジャンプをすべて成功し、日本の出演者としてトリを飾った。カラーを入れた短い髪を振り乱し、ゴールドの衣装と晴れやかな表情で、女性の強さと艶やかさをゴージャスに演出した。
「オリンピックでのメダルは小さい頃からの目標だったので、それを達成することができて。次に何を頑張るべきか、今は考え中です」
坂本は言った。すべてをかけた戦いのあと、今は休息が必要だ。