「婚活にいいかも…」アラサー女が、夜な夜な入り浸る意外な出会いの場【女たちのSNS事件簿 vol.9】
いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。
InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。
そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。
SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…？
▶前回：インスタのコメント欄が炎上するのを見て、微笑む29歳女。SNSに依存する心の闇とは
SNSを駆使してハイスペ婚を狙う女〜結月（30）の場合〜【前編】
『今日はありがとうございました』
『結月さんはとても美しく聡明で、僕の理想の女性だと思いました』
『ぜひ、またお会いしたいのですが、ご予定いががですか？』
メッセージの相手は、今日の昼に結婚相談所を介して知り合った、外銀勤めの35歳。年収1,200万円で、一橋大学卒。性格は温厚で、家柄も申し分ない。
でも、話し方が自信なさげでオドオドしていたし、写真とだいぶかけ離れたルックスに、正直がっかりしてしまった。
「はぁ〜。今回もハズレか…」
自室のベッドに体を預け、外銀男からのLINEを削除する。
そして、私はガス抜きのためにTwitterを開いた。
タイムラインをスクロールしていくと、友人のくだらない一言ツイート、お笑い芸人のツイート、美容ツイートなどが雑多に並ぶ。
三度ほどスクロールしたところで、私はふと指を止めた。
目に留まったのは、いま私が密かに熱視線を送っている人・前園彰久さんのツイートだ。
私は彼のアカウントのホーム画面に飛び、そのアイコンをタップしてじっと見つめる。
前園さんは、急成長中のITコンサル企業の若き経営者。私と同い年の31歳だ。
頭の回転の速さと爽やかなルックスで、メディアにも数多く出演している。
― 前園さん、カッコいいな…やっぱり私、こういう人と結婚したい…。
私は、2年前に元カレと別れて以来、彼氏なし。マッチングアプリ、お見合いパーティー、結婚相談所…今まで散々出会いを求めてきたが、いまだ理想の男性には出会えていない。
一生に一度きりの結婚だから、絶対に妥協はしたくない。
だが、現実は厳しい。
結月が、ハイスぺ男子との結婚に執着する理由
木曜日の13時。
会社の外のベンチで、テイクアウトした『HAPPY HOUR』のレモンシーフードサラダをつまむ。
私が事務として勤務する人材派遣会社は、大手企業のグループ会社だ。だが、そこで働く人々は、華やかさとは無縁である。
ともに働く同僚たちは全然イケてないし、話が合わなくてつまらない。
上司は、私の休憩時間が5分オーバーしただけでネチネチ小言を言ってくるお局のおばさんや、業務時間中にネットサーフィンやソリティアをしているような、無能なおじさんばかり。
社内にはいつも陰気なオーラが漂っているので、ランチのときは必ず外出し、気持ちを入れ替えている。
仕事は嫌いじゃないけど、昔憧れていた都会で働くOLと今の自分は大違いだ。
もっと、キラキラした会社でオシャレに働いているはずだったのに…。
子どもの頃からの夢。それは、お金持ちとの結婚。
私は青森の田舎町出身で、ごく平凡の家庭で育った。それなりに容姿に恵まれていたおかげで、楽しい学校生活を送っていた。
しかし、高校生になってから、そんな普通の生活に物足りなさを感じ始める。
それは、4つ年上の姉の影響だ。
都内の大学に通い始めた姉は、年末年始や夏休みといった長期休みを使って実家に戻ってくると必ず、私に「東京はいいよ〜」と話をした。
経営者の彼氏ができたときなんかは、そのキラキラした贅沢ぶりを延々と聞かされたものだ。
都会の生活に強烈な憧れを持った私は、姉のように東京の大学に進学し、華やかな業界で働いて、素敵な男性と結婚すると決めていた。
高校卒業とともに、立教大学に進学した私は、晴れて“大学デビュー”を果たした。東京出身の華やかな同級生たちと仲良くなり、積極的にパーティーや食事会に足を運んだ。
将来有望な他校の男子や、医者、弁護士、経営者、さらには芸能人など、ハイスペックな男性たちと出会い、それなりに経験値もあがった。
しかし、年齢を重ねるごとに、出会いの機会が少しずつ減っていく。
当時遊んでいた子たちは、いつの間にかしっかり自分のパート―ナーを見つけて結婚したり、キャリアアップしてバリバリ働いている。
私は、すべてが中途半端だった。
ちょっと美人かもしれないが、絶世の美女ではない。実家が裕福なわけでもない。情熱をかける仕事をがあるわけでもない。
それなのに、男性に求める条件だけは、やたら高い。
年収1,000万円以上、ある程度のルックスで、女性に対するエスコートが上手…。
自分でも、高望みだってことくらいわかっているが…。
一度上がったハードルは、なかなか下げられない。
そもそも、私が求めているような男性は日本に数％しかいないレベルだし、コロナもあって、出会いの機会は激減した。
だんだんとネガティブ思考になっていることに気づき、私は猫背気味になっていた背中をビシッと正す。
― いけない。せっかく良い天気なのに、気分が滅入っちゃう。前園さんのツイートでも見ようっと。
そう思いTwitterを立ち上げると、すぐに前園さんの最新ツイートが出てきた。どうやら、つい数分前に新しい投稿をしたようだ。
『突然ですが、本日21時からClubhouseで、仕事術について語る会をやります！良かったら、ぜひ遊びにいらしてください』
― え！ めっちゃ聴きたい…。でも、Clubhouseかぁ。
昨年、友達から招待をもらって登録したことはあるが、飽きっぽい性格の私はすぐに使わなくなり、放置。
そして、2〜3週間後には、アンインストールしていた。
― めんどくさいけど…。
私は、しぶしぶClubhouseを再インストールした。
◆
午後からの仕事を颯爽とこなした私は、一人暮らしをしている目黒のマンションに帰宅し、1年以上ぶりにclubhouseを立ち上げる。
久々すぎてちゃんと使えるか不安もあったが、シンプルな操作なのでスムーズにログインできた。
そして21時ジャストに、前園さんによるビジネスを語る会が始まった。
『皆さん、聞こえてますかね？…はい、それでは始めます。よろしくお願いします！』
― ……人、少ないな。
TwitterもInstagramも万単位でフォロワーを抱える前園さんだが、今日の参加者は40人ほど。Clubhouseとなるとこんなものなのかと、私は意外に思った。
TVで見ていた通り、彼の軽快なビジネストークは、学びが多くて面白い。
前園さんの声と言葉に聴き惚れながら、私はうっとりと目を瞑った。
『せっかくだし、聴きに来てくれている人と対談とかしようかな。僕と喋ってもいいよって人、良かったら挙手してください〜。みんなで楽しく会話しましょう』
その言葉に、私は思わず、座っていたソファから勢いよく立ち上がる。
― え…挙手したら、前園さんと直接話せるってこと…！？
あたふたしていると、素早く手を挙げたらしい男性数人がスピーカーに上がり、前園さんと楽しげにトークを繰り広げる。
― 羨ましい！ 私も、前園さんと話したい…！
憧れの前園さんと直接話せる機会なんて、そう簡単には訪れない。
恐る恐る挙手ボタンをタップした。
Clubhouseを使ってみて、結月が率直に思ったことは…
1〜2分後、前園さんから招待が届いた。
「……こ、こんばんは」
『はい、こんばんは。ゆづきさん…かな？ アイコン、素敵ですね』
「え、ああ、はい…！ これは、以前フランスに行ったとき撮影したもので…」
『そうなんですね。僕も、コロナ前はよくヨーロッパに行ってましたよ』
アイコンをきっかけに、前園さんはどんどん私の話を引き出してくれる。挙手した女性が私だけだったこともあり、いつの間にか私が話題の中心になってトークしていた。
― 憧れの人と、こんなに気軽に話ができるなんて…！それに、いろいろな人とトークができて楽しい…！
オンラインでの会話とはいえ、前園さんとお近づきになれたような気がして、私は夢見心地だった。
◆
Clubhouseが思った以上に使い心地がいいツールだと感じた私は、前園さんのトークルーム終了後、Clubhouseについて少し詳しく調べてみた。
どうやら、経営者や意識の高いビジネスマンの中には、いまだにClubhouseを活用して発信している人たちもいるらしい。
利用者数が減って、一時期のようなサーバーダウンが起こりづらくなったことや、流行りものに乗っかりたいだけのミーハーなユーザーが減ったことで、真面目にビジネストークを楽しみたい人たちを惹きつけているようだった。
― もしかして…Clubhouseって、ハイスぺ婚活に結構使えるかも！
そう思った私は、Clubhouseを動かしている経営者、医者、弁護士、大手企業のビジネスマンなど、様々なハイスペ男子のアカウントをフォロー。たびたび、Clubhouseにログインするようになった。
19時以降になると、意外にもいろいろなルームが動いている。
ビジネスマン同士の交流となると、規模はどれも10〜20人程度。5〜6人だけの、身内で固まっているようなものもあった。
そして、規模が小さければ小さいほどスピーカーに上がりやすい。会話が途切れたタイミングで挙手をすれば、ほぼ100%招待してくれる。
聴いているだけで、向こうからスピーカーにならないかと誘われることも。
『アイコン、ご本人ですか？ 美人ですね』
『声、可愛いですね』
若い女性が自主的に挙手してくるのが珍しいのか、参加者男性からはそんなふうに褒められることも多かった。
― なんだかこの感覚、20代前半の頃を思い出すなぁ…。
ハイスペ男子たちの中でひとり、お姫様扱いされるのが嬉しくて、私はClubhouseに入り浸るようになっていた。
しかし、当然ながら私が持ち上げられるルームばかりではない。
『うちは、MIT人工知能研究所と共同研究を進めていて、IoTやAIを取り入れた事業開発を行っています』
『弊社でも、IoTを駆使したサービスの強化に力を入れておりまして、展示会も開催しました。トークショーでは、東京大学工学部のIoTメディアラボラトリーのディレクターに登壇いただいて…』
もとはといえば、私がフォローしている彼らは、そのほとんどがビジネストークをする目的でClubhouseを利用している。
政治、経済、テクノロジーなど、小難しい会話をしていると、話についていけないことも多かった。
『あ、結月さん。全然発言してないですよね？もし良かったらお仕事の話、聞かせていただけませんか？』
こういうとき、いつもだったら適当な理由をつけて退出するのだが、出て行こうとしたタイミングで主催者に話しかけられてしまった。
「え、えっと…」
事務職で、仕事に熱意を持って取り組んでいるわけでもないので、堂々と語れるような“お仕事の話”なんてない。
私が焦っていると、スピーカーのひとりが「本当にどんな話でも大丈夫ですよ」と、助け舟を出してくれた。
私は頭をフル回転させ、何か面白い話がないか考える。
そして、ふと、昨日たまたま小耳にはさんだ、“ある会話”を思い出した。
― こんな話していいかわからないけど、この場を切り抜けられるなら…。
「えっと、ここだけの話なんですけど……」
私は、軽い気持ちで口を開いた。
▶前回：インスタのコメント欄が炎上するのを見て、微笑む29歳女。SNSに依存する心の闇とは
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