「専業主婦してて虚しくならないの？」と友人を見下すバリキャリ女子。しかし仕事に邁進する裏では…
マウンティング。
本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。
しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。
それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元（はじめ）。通称・ジェームズだ。
マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…？
▶前回：友人の顔を覗き込み「二重幅イジれば？」と失礼すぎる提案をする女。自身も整形を繰り返した挙句…
「なぁ蓮。僕の運命の人って、どこにいると思う？」
「は？どうした急に」
「この前ちょっといいなと思う子がいたんだけどさ。結局、僕のことは男として見てたわけじゃなくて…。なんか違う理由で来てたらしい」
「ジェームズは、あれじゃない？お人好し過ぎるんだよ」
「オヒトヨシ…」
ガールズトークならぬメンズトークを繰り広げていると、僕と蓮のスマホが同時に鳴った。
LINEを開くと、3人のグループチャットに1通のメッセージが届いている。
そして僕と蓮は、そのメッセージを読んで思わず顔を見合わせてしまったのだ。
友人から届いた1通のLINE。その内容とは…？
Case10：キャリアマウンティング女／通報者・穂乃果（32）の場合
愛と再会したのは偶然だったのか、それとも必然だったのだろうか…。
先日、友人と『フィオレンティーナ』でお茶の約束があり、ホテルのロビーで待っていたときのことだった。
向こう側から、見覚えのある人が歩いてきたのだ。
「…あれっ、穂乃果？」
「えっ、愛じゃん！すごい久しぶりだね」
学生時代、よく遊んでいた愛。社会人になってもしばらく交流は続いていたけれど、彼女は仕事が忙しく、私は結婚して環境が変わったこともあり、いつの間にか疎遠になっていた。
でも久しぶりに会ったら、2人で過ごした時間が一気によみがえってきたのだ。
「本当に久しぶりだね〜。穂乃果は結婚したんだっけ？今、何をしているの？」
「私は今から、友達とお茶の約束があって。愛は？」
「そうじゃないんだけど…。まぁいいや。私は今から打ち合わせだよ。連絡先変わってない？今度また会おう」
「うん、そうだね！」
こうして足早に去っていった彼女。だけどその後すぐに連絡が来て、2週間後にまた会うことになった。
…しかし、待ち合わせ当日。愛は15分ほど遅刻してきたのだ。
「お待たせしちゃってごめんね〜。クライアントから急に連絡があって、どうしても手が離せなくてさ」
申し訳なさそうに、何度も謝る彼女。本当に忙しそうだし、私は別に怒りもしなかった。
「ううん、大丈夫だよ。お仕事忙しそうだね」
「そうだね〜、かなり忙しいかな。でもやり甲斐があるから楽しいけど。愛は今、仕事してるの？」
「私は何も。専業主婦だよ」
今日は久しぶりに再会した友人との、楽しいお茶になると思っていた。しかし「専業主婦だ」と言った途端に、愛の目の色が変わったのだ。
「そうなの？…悪いけど、専業主婦って何をするの？」
「そう言われると説明が難しいけど…。家事をしたり、子どもの世話をしたり？」
「へぇ、そうなんだ。それって虚しくならないの？」
彼女の言葉に、飲んでいた紅茶が喉につっかえる。
「虚しくなる…？」
「だって、今の穂乃果には何の肩書もないじゃん。“〇〇さんの奥様”とか、“〇〇ちゃんのママ”っていう呼び方になるんでしょ？」
愛の発言に、私も一瞬考える。はたしてそれは虚しいことなのだろうか。ただ私は家庭を大事にしたいし、子どもと一緒にいられる時間が長くて嬉しいと思っている。
でも今、愛にこんなことを言っても火に油を注ぐだけ。感情を逆撫ですることはしないでおこうと思う。
「私は愛みたいにバリバリ仕事ができる感じでもないから。愛はすごいね」
けれどもこの発言が気に食わなかったのか、彼女は明らかに私のことを鼻で笑ってきた。
「すごくなんてないよ。仕事なんて当たり前のことをしてるだけだし。ただ、仕事でしか味わえない達成感ってあるでしょ？それが好きなの。あの達成感を一度味わっちゃうと、辞められなくて」
そして立て続けに、こう尋ねてくる。
「素朴な疑問なんだけど。穂乃果は買いたい物があるときとか、どうしてるの？」
「夫に聞くかな…」
「うわ〜。それは大変だね！欲しいときに欲しい物を買えないなんて、かわいそう」
大袈裟なくらいに同情され、どう反応していいのかわからなくなってしまった。
「でも他の人に買ってもらった物と、自分で頑張って買った物って価値が違うよね」
結局、この後も愛に言われっぱなしで終わってしまった。
― なんだろう、このモヤモヤは。
すっきりしない気持ちをどうにも解消できず、私は昔から仲のいい女友達である杏に、相談を兼ねて連絡してみたのだった。
“専業主婦を見下す女友達”に対する、制裁は…
キャリア女子 vs. 専業主婦女子
杏に相談してから1週間後。「その子と一緒に、ここへ来て」という連絡を受け、待ち合わせ場所へと向かう。
指定のカフェに着いた途端、私は腰が抜けそうになった。杏だけかと思ったら、その背後にスタイル抜群で顔までカッコいい、モデルのような男性3人組がいたのだ。
「あの、こちらの方々は…？」
「こちら、彼氏の瑛太です♡残りのお二方は、瑛太のお友達なの」
状況がよく理解できずに一応待っていたけれど、いくら雑談をしても愛はまだ来ない。
「お友達遅いね」
「そうですね…。仕事で遅くなるみたいです、すみません」
結局、愛は今日も30分ほど遅れてやってきた。
「ごめんね、仕事が忙しくて。…って、えっ！？」
「どうも初めまして。僕たちのことは気にしないで」
― 気にしないでと言われても、愛だって気になるよね。
そう思っていた。でもしばらくすると、どうして杏が彼らを連れてきてくれたのか、やっと理解できたのだ。
「愛ちゃん、忙しそうだね」
「は、はい。ちょっと仕事が忙しくて」
「愛ちゃんは何のお仕事をしているの？」
瑛太さんのグイグイ攻める感じに、愛は若干たじろいでいる。けれども彼らがすごいのはここからだった。
「私は広告代理店で働いてます。皆様は何をされているんですか？」
「ファンドとか、みんな色々やってるよ」
「へぇ、仕事ができる男性って素敵ですね！でもそういう方って、やっぱり自立してる女性が好きですよね？」
愛の積極的な質問に、瑛太さんと他の2人が顔を見合わせている。
「うーん、どうだろう」
「正直、あんまり関係ないかも」
「そうだね。それより育ちがいい人がいいかな」
そんな彼らの会話を聞きながら、明らかに不服そうな顔をしている愛。私が1人焦っていると、ジェームズさんが助け舟を出してくれた。
「人それぞれ、好みがあるからね。僕は人間性が大事かな」
「そうだね。結婚して、仕事を辞めたいと言われたらそれでもいいし。もちろん仕事を続けてくれても大歓迎」
「わかるわかる！男の言う“自立した女性”って、金銭面じゃなくて、心の自立のほうが大きいかもね」
しかし、愛も黙っていない。
「でも夫が稼いできたお金を、ただ食いつぶす女ってどうなんですか？それだったら、ただの専業主婦よりも、お金を稼いでいるバリキャリ女子のほうが良くないですか？」
愛の言葉を聞いた瞬間、皆が口をつぐむ。でも瑛太さんは優しく、まるで愛を包み込むかのように微笑んだ。
「そっか…。愛ちゃんは仕事を頑張っているんだね。でもきっと、穂乃果ちゃんも家事とか育児っていう仕事をしているし、みんな見えない所で頑張ってると思うんだ。
人の頑張りなんて、他人からは見えないからさ」
瑛太さんの言葉に、愛はもう何も言えなくなっていた。
そして帰り道。タクシーを待つ間に愛と2人きりになり、何となく気まずい空気が流れる。すると、彼女がこんなことを言ったのだ。
「穂乃果、ごめんね。正直、誰かに頼って生きていける人生が羨ましかったのかも」
真っ赤に染まった夕陽が、彼女の横顔を照らしている。
「ううん、こちらこそ。仕事を頑張っている愛はカッコいいし、憧れるよ」
そこから2人で、ふふっと笑い合った。
お互い無いものねだり。でもそんなお互いを、認め合える関係になれればいいなと思った。
▶前回：友人の顔を覗き込み「二重幅イジれば？」と失礼すぎる提案をする女。自身も整形を繰り返した挙句…
▶1話目はこちら：未婚の37歳友人に「結婚してなくて可哀想」と言い放つ女。しかし、実は夫と…
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知り合いのランク＝自分のランクだと思っている女
