世界2大航空機メーカーで、長年ライバル関係であったエアバスとボーイング。この2社の競争が、新たな局面を迎えそうです。その舞台は、これまでしのぎを削ってきた旅客機ではなく貨物機です。

同じような時期に同じようなキャパの機体を…

 世界の2大民間航空機メーカーとして知られる、ヨーロッパのエアバスとアメリカのボーイングは、長いあいだ大小さまざまなタイプの旅客機で、しのぎを削ってきたライバルです。たとえば代表的なところでは、2社のベストセラー「ボーイング737」と「エアバスA320」の受注数レースなどは、長年業界の関心を集めてきました。

 この熱き戦いが近年、“新章”に突入しているといえます。旅客機の設計をベースにした貨物機「フレイター」市場で、2社の競争がより本格化しつつあるのです。


上がエアバスA350F、下がボーイング777-8F(画像:ボーイング・エアバス)。

 エアバスは2021年11月、ドバイ航空ショーで大型旅客機「A350」ベースのフレイター「A350F」を正式に受注。ついでボーイングは2022年1月末、A350と同規模の大きさを持つ次世代機「777X」をベースとしたフレイター「777-8F」を、中東のカタール航空からオプション含め50機を受注したと発表しました。――つまり、ほぼ同じタイミングで、同じくらいのキャパシティのフレイターを公式発表したのです。

 また、エアバスは「P2F(Passenger to freighter)」、ボーイングは「BCF(Boeing converted freighter)」と称する、中古旅客機をフレイターとして改造する「貨物転用型」タイプのものも、両社ともに生産競争が続いており、まさにその戦いはヒートアップしているといえるでしょう。

 ただ、ボーイングはジェット旅客機の草創期以来、ずっと第一線を張りつづけてきた老舗中の老舗で、かつフレイター分野では、世界屈指の長い歴史を持ち、いわば“王者”として君臨してきました。

 対し、エアバスはいまでこそ“世界2大旅客機メーカー”ではあるものの、初のジェット旅客機となる「A300」が就航したのは、4シリーズ目の「ジャンボ・ジェット」ことボーイング747の路線デビュー(1970年)よりも遅い1974年のこと。フレイター開発を本格化させたのも、ボーイングよりよほど後です。

エアバスの貨物機部門のこれまで

 フレイターの分野において、かつて“2大巨頭”だったのは、ボーイングと、マクダネル・ダグラスでしょう。ただマクダネル・ダグラスは1997年にボーイングへ吸収されています。マクダネル・ダグラス製フレイターの終焉ともいえるMD-11最後の200号機がルフトハンザ・カーゴに納入された2001年2月から、20年以上がたちました。

 いまや貨物機は、ほとんどエアバスとボーイングのみとなり、2強の対決は空港の貨物エリアでも、よりハッキリと見えるようになりました。ただ、2022年現在も空港で目撃できるフレイターの数は、ボーイング機の方がまだまだ上です。


手前がルフトハンザ・カーゴのボーイング777F。奥がMD-11F(画像:ルフトハンザ・カーゴ)。

 旅客機分野でエアバスが飛躍した要因は、それまでの旅客機の固定概念を覆すようなアグレッシブな設計も一因といえるでしょう。たとえば旅客機として初めてサイドスティック操縦桿を導入したA320をはじめ、完全総2階建ての胴体を採用したA380などが挙げられます。

 このエアバスのアグレッシブさは、ここ数年の貨物機市場でも十分発揮されています。たとえば同社は2010年のシンガポール航空ショーで、双発旅客機「A330」の貨物改修型「A330P2F」を披露しました。同機の積載容量(ペイロード)は約62t。このときエアバスは「(ボーイングの)767-300F(約53t)と747-400F(最大で約124t)や777F(約102t)の間を埋める唯一の中型貨物機」とライバルにないメリットをアピールしました。

 また、2021年12月には、150〜200席クラスのベストセラー機「A320」の貨物転用型A320P2Fが初飛行。冒頭のA350Fが就航すれば、エアバスのフレイターはついに、小型機から大型機までのレパートリーが出揃い、本格的にボーイングとの“一騎打ち”に挑めることになるのです。

旅客機で“快進撃”のエアバス、現王者ボーイングはどう防衛?

 一方、近年のボーイングも、いわば「したたか」にフレイターの製造体制を変化させています。エアバスA320と競合するベストセラー機「737」の貨物転用型「737-800BCF」の改修作業能力を向上させるべく、2021年5月に中米コスタリカのMRO(航空会社などさまざまな顧客から、航空機整備や改修を専門に引き受ける)企業「COOPESA」と協定を締結。ボーイングにとってはラテンアメリカで初の改修ラインです。ボーイングは、今後20年間に1500機の貨物機への改修需要があると予測しており、その需要の30%は北米と南米に集まるとみています。協定は需要確保への先手に間違いありません。


ボーイング737-800BCFのイメージ(画像:ボーイング)。

 実は航空貨物の約6割は旅客機のベリー(客室下の貨物室)で輸送されます。一方、貨物機は精密機器や完成車などの大型貨物や、通販サイトの高速商品輸送に加え、たとえば工場の操業が終わった夜間に出来上がった製品を積み、早朝に目的地へ届けるなど、旅客機と異なる時間帯の輸送などにも力を発揮します。人々が解き放つ購買意欲を背景に、物流のニーズは間違いなく年ごとに高まっており、エアバスとボーイングはそこに照準を合わせ、レースを繰り広げているということでしょう。

 エアバスは後発組にもかかわらず、1980年代後半から快進撃を続け、ボーイングを上回るといっても過言ではないといえるほどの力を証明してきました。一方で、世界の大手貨物航空会社が用いるフレイターのシェアは、ボーイングが優勢です。しばらくはこれらのボーイング機は現役でしょう。ただ今後、旅客機と同じようにフレイターの分野でも、エアバスの快進撃が見られるかもしれません。

【映像】まさに大改造!旅客機改造型貨物機「BCF」ができるまで(90秒)