車窓を流れる景色とともに食事を楽しめる「食堂車」。かつては特急列車や新幹線に連結され、誰もが気軽に利用できる列車旅の醍醐味でしたが、今では貴重な存在。けれども懐かしの姿は映画やドラマの中に残っていました。

あらためて知る食堂車の賑わい

「食堂車」という響きにワクワクする人もいるのではないでしょうか。車窓を流れる景色を見ながら、作りたての温かい食事で旅気分をさらに高めてくれる食堂車。かつては特急や新幹線で気軽に利用できましたが、今や特別な観光列車でしか出会えなくなってしまいました。
 
しかし、映画やドラマでは、その食堂車が特別でなかった時代、特別になった時代も垣間見ることができます。

食堂車を中心に話が進む映画『特急にっぽん』


1958年に運転を開始した国鉄初の電車特急「こだま」。食堂車とビュッフェ車を連結した(画像:PIXTA)。

 1961(昭和36)年に公開された映画『特急にっぽん』(東宝)は、東京発・大阪行きの特急「こだま」の中で繰り広げられるドタバタコメディ。主役のフランキー堺が食堂車のコック役ということで、物語は食堂車を中心にしており、車内の様子や食事風景などの見どころが満載です。

 当時、東京から大阪までの運行時間は6時間半の長旅ということですが、食堂車のおもてなしは発車前から始まっていました。団体客が待つ東京駅に入線してくると、車内では食堂長やウエイトレス(あえて当時の呼び方)が整列して、ホームの客に向かってお辞儀をしてくれています。

 本格的な食事をする食堂車は6号車、簡単な飲み物や軽食を提供するビュッフェは7号車。食堂車の4人がけテーブルにはそれぞれに生花が飾られ、上級なおもてなし空間なのだと感じられます。ビュッフェには電話室もあり、携帯電話などない時代には、客も乗務員もここから外に連絡をとっていたんですね。

 食堂車は、夕食のみ予約を入れるものの(ウェイトレスが各席を回って予約をとる)、それ以外の時間は気軽に使えるのもいいところ。映画内にはサンドイッチやケーキ、ステーキなど、おいしそうなメニューを味わう幸せな笑顔が満開で、なかには酔っ払ってくだを巻いている客までいるという、おおらかな時代でした。

 主人公がコックなので厨房の様子もよくわかるのですが、列車の中とは思えない本格的な設備で、盛大に火を上げてフランベまでしています。水もジャンジャン使っているので足りなくなるのでは……と心配になるほどですが、名古屋駅でホースをつないで補給している描写もありました。

 食堂車にはつきものの速度計や、ハンドドライヤーといった小物など、見るものすべてにワクワクしてしまう、古き良き食堂車を知るにはベストな作品です。

名作映画の中の食堂車

 より多くの人が知る名作映画の中にも食堂車が登場します。

 1963(昭和38)年に公開された世界のクロサワ・黒澤 明監督の『天国と地獄』(東宝)では、『特急にっぽん』と同じく特急「こだま」のビュッフェが出てくるのですが、こちらはいたってシリアスな展開。誘拐犯から身代金受け渡しのために「こだま」へ乗るよう指示された会社重役(三船敏郎)が、ビュッフェ内の電話室に連絡を受けるという緊迫した場面が展開されます。

 犯人を確保したい刑事たちは、一般客のふりをしてビュッフェでコーヒーを頼んだりしながら張り込みます。普通の座席車ならウロウロしている人達がいたら怪しまれるはずですが、様々な人が集うビュッフェなら警戒されにくいという、格好のシチュエーションです。


特急こだまに連結されていた「モハシ21001」の車体番号板。「シ」は食堂車などを指した(大藤碩哉撮影)。

 1974(昭和49)年に公開された野村芳太郎監督の『砂の器』(松竹)では、丹波哲郎と森田健作演じる2人の刑事が、出張捜査の帰りの列車で食堂車を利用していました。映画の中では上野と秋田を結ぶ急行「鳥海」の設定で、実際には違う列車が使われたようですが、かつての食堂車の様子は充分に伝わってきます。

 捜査で思うような成果が上がらず意気消沈の刑事たち。森田健作刑事が駅弁を取り出すと、丹波哲郎刑事が「隣は食堂車らしいな。ビールでも一杯飲もうか。くよくよしたってしかたない、俺がおごるよ」と誘うのです。座席以外に場所を移して気分を変えられるのも、食堂車のいいところかもしれません。ただ2人は食堂車でビールを飲んだあと、食事を頼まず、その場で駅弁を食べ始めます。映画の演出かはわかりませが、神経の図太い2人のようです。

平成のTVドラマに登場した寝台特急の食堂車

 2013(平成25)年3月に放送されたドラマ『終着駅〜トワイライトエクスプレスの恋〜』(TBS系)はタイトル通り、大阪駅と札幌駅のあいだを約22時間かけて走っていた臨時寝台特急「トワイライトエクスプレス」が舞台でした。日本海側の移りゆく雄大な景色を楽しめる列車として人気が高く、憧れた方も多かったことでしょう。放送の3年後には運行終了となったため、車内の様子がわかる貴重なドラマです。

 トワイライトエクスプレスの食堂車は「ダイナープレヤデス」と名づけられ、ディナーは時間指定の予約制です。佐藤浩市と中山美穂が演じるワケありな恋人同士も、ここで本格的なフランス料理を楽しみました。JR西日本が全面協力したドラマとあって、料理も小道具的ではなくしっかりと映し出されています。

 この食堂車のシーンは、実際に走る列車の中で撮影の進行に合わせて料理を出さなければならないため、入念な打合せのもとで行われたのだそうです。

ちなみに「ダイナープレヤデス」、ランチは予約なしでも利用できました。カレーやオムライスなどが人気だったそうで、昔ながらの食堂車の趣もあったんですね。

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 今や実際に体験することはできなくなりましたが、映像の中にはしっかりと刻まれている食堂車。懐かしのその姿を、ぜひ楽しんでみてください。