不可解なるロシア空軍 なぜ誘導爆弾を使用しないのか あるいは使用できない理由とは?
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍には、常識や定石から外れた行動が目に付きます。空軍戦力において無誘導爆弾ばかり使用しているのもそのひとつ。たまたまか、それとも理由があるのか、あるとしたらどのような理由なのでしょうか。
誘導爆弾が見られない…ちぐはぐな印象のロシア軍
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻もまもなく1か月が経過、戦闘は膠着状態であり両者ともに厳しい消耗戦となっています。そのような戦況において、ロシア空軍が無誘導爆弾を使い、市街地へ無差別爆撃を行っていると報じられています。
ロシア側は「軍事施設のみを目標とした精密爆撃を行っている」と主張するものの、実際に戦場で撮影されたロシア空軍機を見るに、ほぼ無誘導爆弾を搭載していることは明らかです。なぜロシアは誘導爆弾を使用していないのでしょうか。
多彩な誘導爆弾、ミサイルを搭載できることをアピールするSu-30の地上展示。多くは無誘導爆弾を装備し実戦投入されている(関 賢太郎撮影)。
航空機搭載用無誘導爆弾は、鋼鉄のケースに爆薬を詰め込んだ極めて単純な構造であり、現在使用されているFAB-100/FAB-250/FAB-500/FAB-1500(数字はkg単位の重量)といったロシア製の爆弾は1960年代から使われ続けています。無誘導爆弾の強みはなんといっても、地上の砲などに比べて圧倒的に強力でありつつ、おおむね数十万円程度と安価であることです。
一方で驚くほど精度が悪い欠点もあります。爆弾の精度を表すCEP(投下した爆弾の半数が着弾する半径)はおおむね60mから100m程度。実戦ではさらに悪化し、投下した爆弾のほとんどはクレーターを作るためだけに使われます。無誘導爆弾の低い精度を補うには「ともかく大量に投下する」ことが最も重要になります。
なぜ誘導爆弾を使わないことが不可解といえるのか
場合によって異なるものの、CEPを60mとし30m程度の大きさの標的に直撃させた場合に撃破と判定するならば、無誘導爆弾を8発積んだ戦闘爆撃機4機(計32発)ならば計算上、4目標の撃破を期待できます。ただし戦闘爆撃機4機を飛ばすには護衛の制空戦闘機、地対空ミサイルを破壊する防空網制圧機、レーダーに妨害を行う電子戦機、さらに空中給油機などの支援が必要です。
そうした、1回の爆撃任務に必要な編成を「ストライクパッケージ」や「戦爆連合」と呼ぶことがあり、最も小さなストライクパッケージでもおおむね20機程度となりますから、実際は20機も出撃させてふたつから4つ程度の目標しか破壊できないことになります。
誘導爆弾も使用可能だが無誘導爆弾を大量に搭載したSu-25攻撃機。ウクライナではかなりの数が撃墜されている(関 賢太郎撮影)。
一方、同じ戦闘爆撃機に同じく8発の誘導爆弾を搭載した場合はどうなるでしょうか。誘導爆弾は非常に命中精度が高く、ロシア製のKAB-500Lレーザー誘導爆弾ならばCEPは約3mですから、これはほぼ必中を期待できるといえます。したがって4機で合計32発を搭載すれば、理論上は32目標を破壊できるでしょう。
また推進装置を持った誘導爆弾、いわゆる「空対地ミサイル」を使用すれば、敵の防空網の外から攻撃できるため、攻撃側の生存性も大幅に高めることができます。
誘導爆弾は無誘導爆弾に比べて高価であることが欠点であり、価格は10倍の数百万円、空対地ミサイルであれば数千万円にも及びます。しかしながら無誘導爆弾で同じだけの戦果を得るには10個ストライクパッケージを出撃させなくてはならないのですから、実際のところ誘導爆弾は高価である以上に有効であることがわかります。
ロシア空軍が誘導爆弾を使えない考えうる理由
以上のように誘導爆弾は使用者にとって「いいことだらけ」であり、もはや無誘導爆弾による航空作戦はかえって珍しくなっています。しかしながら、なぜかロシア空軍はほとんど誘導爆弾を使っていないようです。
ロシア空軍は2010年ごろから、所有する軍用機を一気に新型機へと入れ替え、旧ソ連時代の機体も近代化改修を済ませ、先進的な空軍に生まれ変わりました。たとえばスホーイSu-30SM多用途戦闘機やSu-34戦闘爆撃機などはその代表例です。しかし、どんな新型機であっても無誘導爆弾を使っていては、全くその真価を発揮することはできません。
誘導爆弾は作戦効率も生存性も値段以上に高めますが、やはりどうしても高価であることは事実ですから、恐らくロシア空軍は戦闘機や爆撃機など「見栄えの良い装備」の更新に重点的に予算を割り振り、本当に必要だった「見栄えの悪い誘導爆弾」の調達を軽視していたのではないでしょうか。
たとえば、ある国の空軍の戦力を測る場合、誘導爆弾の数よりも最新鋭戦闘機の保有機数が多いほうが、平時の抑止力としての戦力は高く見せることができます。実際、いざ実戦という事態になってはじめて弾数が足りない事態に直面する空軍の例は珍しくありません。だとするならばロシア空軍は必要な準備を全くしないまま国家間戦争へ突入し、身の丈に合わない作戦を強いられているといえます。
ロシア空軍で最も高性能な戦闘爆撃機Su-34。非常に優秀なセンサーを搭載するが無誘導爆弾を搭載している(関 賢太郎撮影)。
この1か月におけるロシア空軍の損害は、ウクライナ側の発表によると200機を越えました。これはかなり過大である可能性が高いものの、1機あたり数十億円のヘリコプターや戦闘機を大量に損失していることは間違いありません。もし十分な誘導爆弾、特に敵の地対空ミサイルなどを無力化できる対レーダーミサイルが十分にあれば、損害はもっと小さくて済んだに違いありません。
いまはまだ結論を出すには早すぎますが、ロシア空軍が無差別爆撃を行っているのも「精度が無用な無差別爆撃しか有効な作戦が行えない」からであるかもしれません。