各国でF-35の導入さらに拡大かも? 大軍拡時代のきざしと「いまそこにある戦闘機」
ロシアのウクライナ侵攻を受け、各国で軍拡のきざしが見られます。そうしたなか世界各国の軍隊では今後、日本も配備をすすめるF-35戦闘機の導入が大きく進むかもしれません。その推測に足る根拠を解説します。
抑止力はアテにならず ロシアがもたらした「大転換」
自衛隊も導入をすすめるF-35戦闘機が今後、大きく生産数を伸ばすかもしれません。
航空自衛隊のF-35A「ライトニングII」戦闘機(画像:航空自衛隊)。
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻によって、これまでの「冷戦後」の時代から次の時代へと世界秩序が大きく変動しつつあります。この先、世界がどのようにかたち作られるのかを現時点で正確に予測することは困難ですが、軍事においてほぼ確実であろうことが1点あります。
全世界規模の「軍拡」の流れです。
21世紀に入ってもなお内戦や国境をめぐる戦争は各地で発生しており、珍しくはありません。しかしロシア・ウクライナ戦争は、軍事大国ロシアが隣国ウクライナを武力で踏み潰し自国にしてしまおうという暴挙に出た点において、異常な事態です。そして、この戦争は「戦争によって10の利益が得られるとしても、100の損が見込まれるならば合理的に戦争は発生しえない」という「抑止力」の考えが簡単に覆しうることを証明してしまいました。
1991(平成3)年の冷戦終結以来、民主主義を標榜するいわゆる「西側」世界は喜んで防衛予算を削り続けました。何も生産しない防衛よりも、国民の幸福に直結する福祉などに割いたほうが、明らかに賢い予算の使い方であるように思えたからです。また「対テロ戦争」も、従来型の国家間戦争より小規模な額で賄うことができました。
ところが、このたびのロシアの侵攻によって全てが変わってしまいました。
大軍拡時代の到来か ドイツはすでに動き出す
口火を切ったのはドイツです。ドイツは冷戦後、大幅に防衛予算を削減し続け、今年の予算は504億ユーロ、GDP比1.4%でした。ところがロシアの侵攻からたった3日後、2倍の1000億ユーロまで加算することを決定しました。これはGDP比3%前後だった冷戦期にほぼ匹敵し、来年度以降もGDP比2%以上を維持する方針です。
またほかのNATO(北大西洋条約機構)諸国も、ドイツに続き防衛費大幅増額の方針を明らかにしており、ヨーロッパから遠く離れた日本も、ロシアや中国、北朝鮮と接している以上、防衛費GDP比1%というこれまでの指針を大きく越える必要に迫られることでしょう。
海上自衛隊の護衛艦「いずも」に着艦した、アメリカ海兵隊のF-35B戦闘機(画像:海上自衛隊)。
航空分野においてはロッキード・マーチンF-35「ライトニングII」戦闘機の生産が、最も大きな影響を受けるのではないかと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は推測します。
F-35は極めて優れた情報収集能力とネットワークによる情報共有能力を特徴とし、「戦闘機」という機種の概念さえ変えつつある新世代の「航空戦プラットフォーム」です。2022年3月現在、配備状態にある多くの機種をF-35単一で置き換えることが可能であるため、アメリカ空軍、同海軍、同海兵隊ほか航空自衛隊など多くの国ですでに実戦配備が始まっています。また性能向上型の開発も行われており、最低でも21世紀末までは現役であろうことが確実視されています。
したがって、いますぐ手に入り、高性能でもあるF-35は、大幅な航空戦力の拡張において最も有力な選択肢となるでしょう。実際、ドイツは核爆撃機トーネードIDSの後継機を、F/A-18「スーパーホーネット」からより性能に優れたF-35へ切り替えることが決定しました。
「次世代戦闘機」の前に…F-35が大きく数を伸ばす目アリ
トルコについても、事情が変わりそうです。これまでトルコは、ロシア製地対空ミサイルS-400を導入したことによる制裁から、NATO加盟国であるにも関わらずF-35プログラムから排除されていました。しかしロシアの孤立化が避けられないなか、S-400の相対的な価値は低下すると考えられます。よって、S-400を捨て再びF-35導入に戻る可能性は十分にあり得ます。
2022年3月現在のF-35生産数は770機。日本、アメリカ、イギリス、イタリア、イスラエル、ノルウェー、オーストラリア、韓国、オランダ、デンマークの10か国で配備が進んでおり、ベルギー、シンガポール、ポーランド、フィンランド、スイスの5か国が導入を決定し、総発注数は約3300機です。恐らくカナダ、ドイツがこれに続き、さらにルーマニア、トルコ、タイ、スペインなどが導入の有力候補となっています。
空母「ニミッツ」に着艦するアメリカ海軍のF-35C戦闘機(画像:ロッキード・マーチン)。
また、既存機の後継としてではなく新編成航空部隊としての需要も考えられますから、すでに導入済みの国の追加発注も含めると、数百機単位のさらなる発注を得る可能性が非常に高いといえます。
もし1000機以上発注が増えた場合、約4500機のF-16(現在も生産中)越えも見えてきます。5000機に達すればF-4と並びます。各国において次世代戦闘機開発計画が少しずつ進んではいるものの、実際に開発の目処が立っているものはほぼ無い状態ですから、F-35がF-16やF-4を上回りアメリカ最多生産ジェット戦闘機となることも十分に考えられます。