関西から北九州市まで、瀬戸内海を航行する「阪九フェリー」「名門大洋フェリー」の2社は、料金・サービスでしのぎを削っています。ただ高速道路・LCCなど、そのライバルは海上だけではありません。

2社とも新門司港発着 阪九vs名門大洋のサービス合戦

 約500km離れた大阪・神戸と九州北部のあいだでは、瀬戸内海を航行する「阪九フェリー」と「名門大洋フェリー」の2社が昔から競争を繰り広げています。いずれも九州側のターミナルを北九州市の新門司港に構え、関西側は阪九が泉大津港(大阪)と神戸港に1便づつ発着、名門大洋は2便とも大阪南港に発着しています。

 大阪湾をぐるっと囲むように2社で3港をカバーしているため、荷主にとってはそれぞれの行動範囲から港を選べるほか、阪神高速4・5号湾岸線を介して各港が結ばれていることもあり、「こっちのフェリーがいっぱい、じゃあこっち!」という振り分けも容易。2社の航路とも近年、トラックやコンテナを載せきれない場合があるほど活況を呈するなか、近畿圏〜九州の安定した物流を可能にしています。


阪九フェリー「やまと」(上)と名門大洋フェリー「フェリーきょうと」(画像:阪九フェリー/名門大洋フェリー)。

 両社ともここ数年で新造船への置き換えが続き、2022年3月の名門大洋フェリー「フェリーふくおか」就航でひと段落しますが、これまでも、船内の設備や価格などで、次に挙げるように激しい競争を続けてきました。

●料金

それぞれ適用条件に違いはありますが、WEB限定で行われる20%割引などを活用すれば、プライベートな空間が確保できるプランでも6000円台で乗船できます。また最近では阪九が「デラックス和洋室」1名分の料金で3人部屋貸切無料、名門大洋が最安値で片道3980円(2等洋室の場合)という価格を期間限定で打ち出しています。

●設備

 阪九は更衣室が広く露天風呂(冬季は閉鎖)もあり、名門大洋は共用スペースが広め。どちらも Wi-Fiがおおむね充実しています。また2社とも新造船によって、交互にベッドが設置され目線を合わせることがない個室が安値で設定されました。

 ●食事

 阪九はアツアツの鉄板ホルモンや船内でさばくブリの刺身(九州の甘い醤油常備)などの絶品メニューを1品ごとに頼む“カフェテリア方式”、かたや名門大洋は品数の充実ぶりに目を見張る“バイキング方式“と、2社ともそれぞれの特徴があります。

2社間だけじゃなく陸路や空路と戦ってきた

 関西〜北九州間のカーフェリーの歴史は1968(昭和43)年、阪九の航路開設から始まり、予想を覆す早期の黒字化に刺激を受け、1973(昭和45)年には「名門カーフェリー」「大洋フェリー」が相次いで航路を開設します。現在の社名にも引き継がれている「名門」は、名古屋〜門司間を運航(1976年休止)していた頃の名残で、2社は1984(昭和59)年に運営統合を行い「名門大洋フェリー」が誕生します。また阪九もほぼ同じ航路を運航していた「西日本フェリー」を買収、再編を経て現在の体制となっています。

 しかし近畿圏〜九州の航路にとって、ライバルはむしろ同業他社というより、陸路や空路にありました。

 まず陸路は、1983(昭和58)年に中国道が近畿圏から九州まで全線開通した後にフェリーの旅客利用率は7%減少、追い討ちをかけるように1993(平成5)年には山陽道が全線開通したことで冬場の道路凍結リスクが解消され、多くの荷主が海上輸送からトラックによる陸送に切り替えました。


東京九州フェリー船上から新門司港フェリーターミナルを望む。時間帯によっては東京発着のオーシャン東九フェリーや阪九フェリーの船と並ぶ(宮武和多哉撮影)。

 また鉄道貨物も2002(平成14)年の北九州貨物ターミナル供用開始から輸送能力が大幅に上がり、コンテナ輸送での競合が激しくなったほか、旅客の面では、2012(平成24)年に日本初のLCC(格安航空)を謳ったpeach(ピーチ)が開設した関西空港〜福岡空港間の路線も脅威となりました。

 こうしたなか、2008(平成20)年から実施された、いわゆる「1000円乗り放題」をはじめとする高速道路の大幅な値下げ、同時期に導入されたトラック向けの一律割引を提供するETCコーポレートカードの導入などが重なり、フェリーの貨物輸送は大きな打撃を受けました。当時、阪九・名門大洋など長距離フェリー業界の減収は300億円以上に上ると試算され、存亡の危機にあったと言えるでしょう。

トラック需要はしばらく増えそう?

 風向きが変わり始めたのは、懸案であった原油価格が落ち着きを見せ始めた2015(平成27)年ごろです。トラックドライバーの人手不足も深刻さを増すなかで、いわゆる「働き方改革」によって長時間運転時の休息時間の確保が必須となり、海上での移動時間を休憩時間に適用できるフェリーの存在感が増しました。阪九・名門大洋の2社も車両甲板がトラックで埋まり、自家用車が乗船できないような混雑ぶりだったといいます。

 各地のフェリー事業者が息を吹き返すなか、2015年と2020年には阪九が、2015年と2021年には名門大洋がそれぞれ保有する船の更新を行い、トラックの積載能力向上やドライバールームの充実を図っています。2022年3月に就航が予定されている名門大洋の新造船「フェリーふくおか」も、トラックの積載能力が入替対象の船より5割もアップしています(108台→162台)。

 この傾向は他の九州航路や瀬戸内海航路も同様で、2022年の新造船就航が決定している宮崎カーフェリー(三宮港〜宮崎港)、ジャンボフェリー(三宮港〜高松東港)も、トラック・コンテナの積載能力が大幅に向上するなど、大型化が主流となっています。


名門大洋フェリーを利用するトラック。新門司港にて(宮武和多哉撮影)。

 しかし、2020年から続くコロナ禍では旅客輸送が大きく落ち込み、“密”を避けるため阪九では早朝到着便の“居残りサービス”を一時休止(現在は再開)、名門大洋でも新造船の建造中に、カーペット敷きの大部屋を個室空間に設計変更するなどの対応を取って来ました。

 とはいえ貨物への影響は限定的で、 2024年にはトラックドライバーの残業規制も始まり、航路がさらに注目されるでしょう。もちろんトラック業界もこの「2024年問題」を見据えて中継輸送などの取り組みを進めていますが、そのなかでフェリーがどこまで荷主を囲い込めるかが注目されます。